第155部
「早く、お声が聞きたいわ」
そして、時計を見て尋ねる。
「後、どのくらいで祐二さんの実家へ着くの?」
「そうだなあ、約一時間ぐらいかな」
一時間後、松江駅近くへ来た時、父親がファミレスを見つけた。
「そうだ、樫山家のように、園芸業を営んでいる人達は、夜明けから日暮れまで働くことがあるから、今、行っても居ないかもしれないから、夕暮れ時に伺うことにしよう」
だが、祐二の両親は家に居た。
車がファミレスの駐車場へ入った時、彩世が云った。
「間もなく祐二さんの声が聞けるのね」
「うん、開けるよ」
「嬉しい。わたし、祐二さんの声を聞いたら、何も話せず、きっと泣き出すわ」
「泣けばいい。今日は自分の心に嘘をついてはいけないよ。でないと、将来に大きな悔いを残すことになるなるかな」
父親が励ました。
「有り難う、父さん」
車から出た父親と娘はファミリーレストランへ入っていった。
その頃、祐二は愛する彩世と逢えることも知らず、車を走らせていた。
また、小野めぐみは勤務先を退社し、帰宅しようとしたとき、携帯電話が鳴った。
「はい、めぐみ」
めぐみが甘えた声で答えた。めぐみは相手がいつもの場所で会おうと云ってくれるものと思っていた。しかし、その期待は外れた。
「困った問題が起きたよ」
「何?困ったことって?」
めぐみが驚いて尋ねた。
「実は、妻が、僕と君の関係を知り、どうしても君と会って話がしたいと言って聞かないんだよ。会ってくれるかな?」
「嫌よ!断って」
「僕が引き止めたが聞かずに、もし、会ってくれないなら、君の実家へ行って、君の両親に会うと云うんだよ」
めぐみの顔がみるみる蒼白になった。そして、抗議するように云った。
「それは駄目よ」
「僕もそう云ったんだが、聞かないんだ。だから、僕と君と妻の三人で会うしかない」