第153部
「はい」
「もし、今日、捜し出せなかったら、予定どおりホテルに宿泊して、明日は早朝から始めよう」
「そうね」
二時間後、父親の携帯電話が鳴る。父親は車を路肩に停車して携帯電話を見る。
「母さんからだよ。きっと、結果が知りたいんだ」
聞いている父親の顔が見る見る喜びに変わると、すぐさま、メモにペンを走らせた。
父親は書き終わると、電話を切った。
「何なの?」
彩世がメモを覗き込んだ。
「喜べ、祐二くんの実家の住所と電話番号が分かったよ」
「本当?」
「かあさんが妹に事情を話すと、偶然、妹が樫山さんという若い国会議員を知っていて、その議員の弟さんの名前が祐二さんと聞いたことがあるそうだよ」
「そう、分かったのね」
彩世の脳裏に、お伽話を語る声、桂川の出会い、皇居の鬼ごっこ、ループ橋での話、ドライブ、背負われて登った山、そして、高原、海辺、楽しかった日々が蘇り、知らず知らずに泣いていた。
「泣くな、泣くのは、祐二くんに逢ってからなけばいい」
頷く彩世だが、心の中では、様々な葛藤が繰り広げられているのだ。
父親が。
「祐二くんが家に居ればいいんだがね」
彩世の心臓がどきっと波打つ。
「居るの?」
反射的に、彩世が尋ねる。
「それは、行ってみないと分からないよ」
彩世は祐二が実家に居るなど考えもしていなかったのだ。
(祐二さんと逢ったとき、私はどんな態度をとればいいの。もしかすると、祐二さんに抱きついて行くかもしれないわ)
彩世は自分の行動に自信が持てなくなり、逢うのが恐くなってきた。
「祐二くんの実家を教えてくれた人の話では、祐二くんの住所は知らないが、京都で勤務していると言ってたから、平日の今日、実家に居ないだろう」
父親の言葉を聞いて、失望するのと同時に、胸を締め付けられるような切なさが込み上げてくる。
「祐二さんのご両親にお会いしたときには、父さんが訳を話してくれるの?」
心配する彩世に父親が云った。