第151部
辛い思い出が祐二の目を濡らす。涙に曇る目にサービスエリアが入る。祐二は予定どうり休憩を取った。
止まらない涙に、二年前の家路雲が映り、耳に母の声が聞こえてくる。
「車に乗って帰省しないでね」
同時に、疑惑が湧いた。
(もし、二年前、この道を車で帰省していたら、僕はどうなっていただろう)
それを知るすべもないが、ただ、分かっていることは、彩世に逢えなかったことは確実である。
今、母親が禁じた車に乗って故郷へ行かなくてもよい運命に変えられたのは、彩世の愛を得た時と、鈴木に職を譲らないことだった。
だが、祐二には、どちらも出来なかったため、今、このサービスエリアにいるのだ。
(僕は、どっちにしても、通る道はこの道しかなかったんだ。夢は逆夢が多いというから、母さんの心配は、僕を死から守る為でなく、彩世さんと逢わす為の禁止だったんだ。それなのに、僕は母さんとの約束を破った。ごめんよ、母さん。帰ったら、有り難うと、心を込めてお礼を言います。そして、死なないよう、安全運転に徹することを約束をして帰ります)
祐二は、切ない思いを胸に仕舞い、車を国道二十九号線に乗り入れた。やがて、島根県の安木市に入ると、路肩に停めていた車が急発進して、祐二の車に並びかけた。
祐二がその運転者を見ると、高校時代の友人、市田良夫だった。
懐かしそうに祐二が手を振り、車を路肩に停めると、良夫も、祐二の車の後ろに停車した。
二人は歩道に上がり再会を喜んだ。
「良夫と会うのは高校生以来だな、車を路肩に停めて何をしていたんだ」
祐二が言うと
「妻が来るのを待っていたんだ。所で、沢山の荷物を積んでるが、実家の商品?」
「違うよ、社用で浜田市へ行く途中なんだ」
「京都からなら、高速道路が早く付けるだろう」
「走り慣れた九号線が安心だから、この道を選んだんだ」
「そうか、じゃあ、長話しも出来ないだろう。そうだ、今朝の漁で鯛を釣ったから、生け簀に入れて生かしてるんだ。仕事の帰りに俺の家へ寄って、鯛を持って帰ってくれ」
良夫の実家は日御崎で漁師をしている。
「駄目なんだ、仕事中だら」
「じゃあ、今日中に京都へ戻るのか」
「違うよ、仕事は商品を届けたら終わりだ」
「じゃあ、なんの支障もないじゃないか」
会社の車で、友人の家に行くのは駄目だが、自分の車で行くのだから問題ないと考えた。
「それもそうだな。生きた新鮮な魚を食べるのは、高校時代、君の家へ旅の家へ遊びに行ったときに、君のお父さんから頂いたブリ以来だな」