第150部
「そうか、しかし、確実に商品をお届けしなくてはならないという使命があるから、決して無理な運転はせず、多少遅れてもいいから、制限速度は絶対に厳守してくれたまえ」
「はい、気をつけます」
「まして、今回の業務は君の仕事ではない。もし、事故があれば会社の責任を問われることになる。くれぐれも慎重にな」
「はい」
「じゃあ、午後五時ごろにお届けすると、先方様には連絡しておくからね」
祐二が席に戻りかけると課長が
「待ちたまえ、まだ、話は終わってない」
「何か他にも?」
課長は卓上カレンダーを見ながら
「今日は九月七日の木曜日だ。配送の専門家でない君を、今夜中京都へ戻らし、明日通常どおりの業務に付かせる訳にはいかない。そうだ、今夜は実家で泊まり明日帰って来てくればいい。いや待てよ、君が会社へ戻ってきても、仕事をする時間がない。まして明後日は土曜日、社は休みだから、日曜日まで実家で休養を取ったらいい」
祐二が半信半疑で尋ねる。
「そんなにして頂いていいんですか?」
「勿論だよ。それほど、今回の任務は重要なんだ」
「分かりました。慎重にお届けいたします」
課長に挨拶をして祐二は職場を出た。
祐二が、自分の車を商品倉庫の前に停車させると、商品管理担当者は、課長からの指示があったのか、商品を祐二の車に積載する。
やがて、商品の積載が終わり、祐二が車を発車させた。
運転しながら祐二は謝る。
(まだ、母さんの許しが出ていないのに、車に乗って帰ることを許してください。そうだ、謝ることはないね、帰るのではなく、仕事で太田市へ行くんだから)
仕事の所為にしているが、実の所、内心ではでは嬉しくて堪らないだ。何故なら、車は中古になったものの、二年前の目的が果たせるからだ。
国道九号線に入ってから、祐二の脳裏に切ない過去が浮かぶ。
二年前の夕暮時、少女と一緒に美しいお伽話を聞きそのお伽話の世界へ行きたくなり、やくもという電車に乗って、お伽の世界へ行った、
そこには、河原に立ち上る陽炎みたいな美しい女性がいた。
その彩世に恋をし、捕まえようと手をのばしたが、すでに恋人がいた。諦めた心算数でいたが、あきらめ切れずに日々、哀しみの中にも幸せを感じ、生きていることの素晴らしさに酔っていた。しかしそれも、粉雪の降る日に終わった。
しかし、彩世と慎吾の幸せが気になって、永遠に別れを告げた高梁市を訪れたのだ。