第146部
彩世の胸は、祐二恋しさで、胸が張り裂けそうになる。また、慎吾との結婚は、祐二との愛が完全に断たれたのだ。
そう、思うだけで、彩世は死にたくなるほど辛い。
(これでいいの?)
我が心に問い掛ける彩世。
(今更、どうにもならないわ)
諦めきれず。
「祐二さん、助けて」
思わず助けを求めていた。
彩世がいくら悩んでも、日時は待ってくれず、結婚を承諾する日が後五日に迫った、九月五日の夜。仕事から帰ってきた父親が彩世を応接間へ呼んだ。
行くと、すでに母親が来ていて、立っている彩世に自分の隣の席を示して云った。
「ここへ座りなさい」
彩世が座ると、父親が尋ねた。
「慎吾くんの結婚申し込みを受ける覚悟は出来たかな」
「はい」
断りたかったが、慎吾に申し込まれると断れない自分の心を知っている彩世だった。
翌日の夜、沈む彩世の姿を見た父親を見た父親が心配げに尋ねた。
「気分が優れないようだね。何か心配なことでもあるのか?」
彩世が黙っていると母親が
「訳を隠さずに云いなさい」
優しく諭した。
すると、父親も
「彩世の苦しむ姿を見ていると捨てておけないんだよ。一人で苦しまず、私や母さんに話してくれないか」
そう、云われても、天見家では、祐二のことは禁句になっているため、彩世は答えられないのだ。
尚もいい渋る彩世に、助け舟をだすように母親が、
「父さんや母さんは、彩世が苦悩する原因を知らない振りをしているけど、本当は知っているのよ。苦しみの原因は祐二さんのことでしょう」
母親が同情するように云った。
彩世が驚いたような顔をして頷くと。
「やっぱりね」