第144部
兄のからかいを気にせず、
「もう、会えなくなった」
すみれが泣き出した。
「二年も経ったのに、まだ忘れられないのか」
「違うわ、私はただ、観光案内の続きをしたいだけよ」
云い当てられたすみれは、云い訳をした。
「良く聞け。あの人のことを彩世さんの恋人だと言ったのはお前だろう。既婚者や他人の恋人に恋することはいけないことだよ。でも、仕方ないか、初恋だもな。すみれの願いを聞いてやる」
「有り難う、お兄ちゃん」
「だが、観光案内だけだぞ」
「はい、サヨ姉さんには、とても勝てないと分かっているから諦めているわ」
すみれの兄は、高梁川で死んだ彩世の親友ユリの弟、卓哉で、去年、高校を卒業し、岡山市の会社に就職し、買った中古車で妹とドライブしていたのだ。
車が通り過ぎたのを確認した祐二は、すみれや卓哉が待つ、ループ橋下出口へ行かず、進路を上に取った。道を上に取ったのは、佑二が流す涙が目を塞がないようにするためだった。
河原では、
「私に会いに来てくれたのね」
彩世が歓喜を爆発させるように云った。
感動で急に声がでないのか、慎吾がうん、と頷く。
「今日は、慎吾さんと初めて会った日、また、会えて嬉しいわ」
「僕は今日まで彩世さんを一時も忘れたことが無かった。でも、会いにこれなかった理由はこれです」
慎吾は義足の足を示し、
「彩世さん、僕の身体を見てください。僕は以前の僕ではないのです」
慎吾はこれまで会いに来れなかった理由を説明した。
勿論、鈴木(祐二)とのことも語った。
彩世は、慎吾を探したことを話したが、祐二のことは話せなかった。なぜなら、祐二の名前を口にするだけで、胸が潰れそうになるからだ。
「そんな苦しい事があったのね。何故、連絡してくれなかったの。もし、報せてくれたら私は飛んで行ったのに」
彩世が悲しそうに言った。
「僕は、彩世さんが、どんなに苦しんでいるかも考えずに、何の連絡もしなかった僕を叱ってください。どんな罰でも受けます」
「罰するなんて、慎吾さんの受けた苦しみを考えると、とても、出来ないわ」
「じゃあ、僕を許してくれるんですね」