第14話
祖母に生き方を教わった祐二は、章治の不幸を嘆くのは当然ながら、我が身のことで、この世の不幸を一身に背負ったように、嘆いた自分を恥ずかしく思った。
祖母は祐二がお伽話を熱心に聞いていたのを知っていたのか、祐二に軽く会釈をし、少女の手を取り店を出ていった。
後を追い掛けるように、祐二は祖母と孫娘の後に続いて店を出た。
店外に出た祐二の姿は、レストランへ来るまでの、あの肩を落とした物悲しさが消え、顔は以前より明るくなっていた。
薄明かりの道を、祖母と孫娘が手を繋いで帰って行くのを見送っている祐二の目に、薄明りに照らされた建物の白い壁が夕焼け雲のように映っていた。
祖母と孫娘を見送る祐二を別離の寂しさが包む。
やがて、自室があるマンションの前へ帰ってきた祐二は、何となく空を見上げるが星は見えず、都会特有の中途半端な暗い空だった。
しかし、祐二の目に映ったのは、明るい太陽に照らされた高梁川と女性と子供たちの楽しげな姿だった。
逃げ場もない程の悲しみと、失意の淵に沈んでいた祐二に、救いの手を差し伸べたのはお伽話であった。
祐二は高梁川へ思いを寄せていると不意に、今回の帰省日が頭をよぎり、二年前の月日と同じ八月二日から四日だ。
そして、電車でお伽の国の横を通り過ぎる時刻は、以前と同じ午前中である。この偶然を、女性と自分の間に、ただならぬ因縁があるように感じた。
祐二は、胸の中を熱いものが駆け巡り、もやっとしか見えない女性の顔を思い浮かべ、「愛してる」と、思わず呟いたとき、もやっとした女性の顔が、本のページをめくるように消え、長くて黒い髪をライトブルーのヘヤーバンドで留めた美しい女性の顔が現れた。
あまりにも顔がは っきりと見えたので、祐二は急に恥ずかしさを覚え。
「高梁川を」と云った。
そして、「無作法を許してください」と、心で詫びたが、女性はそれに答えず、何かを訴えているかのような表情をしていた。
祐二が尋ねる。
(僕は貴女を一度も見た記憶がない。でも、貴女の顔が浮かぶのです。何処で逢って、何を訴えたいか教えてください、そして、貴女は、時々、現れる女性ですか、そして、パラソルの女性ですか)
女性は何も答えてくれないが、分かったことが一つあった。それは、祐二にとって、女性が自分の命より大切になったのだ。
此の瞬間、諸事に一切関わらずの頑な佑二を解放した。無論、解放に助力したのが佑二の母親であると云えるだろう。
祐二が希望に満ちた声で小さく叫んだ。
「行こう、お伽の国へ」