131話
十二月下旬。
祐二は、寒い夜間の道路補修工事作業から帰り、一眠りしょうとしとき、早起きの母親が電話をかけてきた。
「元気にしている?」
「なんだ、母さんか」
祐二は、何時ものように、無愛想に答えた。
「その、なんだ母さんで悪かったわね。所で、良い仕事見つかったの?」
「まだ」
両親には、夜間工事の作業をしていることを伏せていた。
「不貞腐れているような態度だわね。もし、仕事が見つからないのなら、すぐ、帰ってきて、父さんの手伝いをしなさい」
「帰らないよ」
「なぜ?」
「皆に迷惑をかけるから」
「誰に?父さんや保は、ぜひ帰ってこいと云っているわ。それでも、帰らないというのなら、訳を話なさい」
祐二は、家族の暖かい思いやりに涙が出そうになる。
「他にも良い職があるのよ。すぐ、帰ってきなさい。でないと、その職は他の人に奪われるわよ」
寒い夜間作業に従事し、その仕事も今日で終わり、また、失業した祐二には、飛び付きたいほどの嬉しい話だが、それを素直に受けられない訳があった。
島根県の就職難は子供の時から知っていた。そのため、高価な車に乗って帰ると決心したのは、設立した会社を故郷へ移転し、出来るだけ多くの人たちを雇用し、経済の発展を促し、やがては、失業者ゼロになるような貢献をしたいと考えていたからだ。
(僕が実家へ帰ったら、兄さんの帰る場所が無くなってしまう。国会議員は何時落選するのか分からない。落選すれば帰る場所も職も無くなる。兄が、そんな不安な気持ちを抱いては、国の安全や国民の幸せを守るための思い切った政治行動が出来なくなり、汚職に関わる恐れもあるのだ。兄をそんな議員にしたくない。また、僕が故郷で職に就けば、故郷の人が一人失業することになるのだ。僕の望みは、故郷の人たちに、良い職場を提供をするだった。だから、今の僕では、例え飢え死にしようとも帰れないんだ)
「母さんごめんよ。父さんや兄さんの優しい思いやりに背いて悪いけど、僕は、もう、田舎で暮らせない人間になってしまったんです」
祐二は心で泣きをしながら断った。
「仕方ないわね。でも、気が変わったら何時でも帰ってきなさい」