130
と嬉しそうに両手を上げた。
祐二は、考えていたことを実行するために云った。
「これからドライブに行かないか」
祐二は、慎吾を高梁川へ連れて行きたかったが、意図を感付かれる恐れがあると考え、加古川へ連れていった。
佑二の目的は、川が、必ず慎吾を一年前の高梁川へ誘う、そして、必ず慎吾は彩世にどうしても会いたいと思わせると確信した上での作戦だった。
すると、慎吾は苦しい胸の内を話した。
「そんなことがあったのか、苦しかっただろう、だが、君が男なら、いや、人間なら、自尊心より、彩世さんの心を安らかにしてあげるために、一日も早く会って、今日までの無礼を謝ることだ」
慎吾は祐二の叱りを愛の忠告と受け取り、リハビリに励んだ。祐二は慎吾が挫折しないように、十日に一度は見舞いに行った。
やがて、十二月が間近に迫ったある日、慎吾は動く足を祐二に見せた。
「よかったね、半年もすると一人で歩けるよになるね」
「これも、鈴木さんの励ましがあったからです。これからも、長く付き合ってください」
「そうしたいが、出来なくなったんだ」
「何故ですか」
慎吾が不安そうに聞く。
「実は会社が倒産寸前で、慎吾くんと会ったり電話したりする余裕がなくなったんだ」
「大変な事態が起きているんですね。もし、良かったら、僕の父が経営している会社に就職してください」
「嬉しいね、どんな、仕事をしている会社ですか?」
「インターネット関連です」
「いい仕事ですね。でも、お誘いを受けることが出来ません」
何故かと慎吾が悲しそうな顔をして聞いた。
「僕は商社勤務を一生の仕事と考えているからです」
祐二に仕事を選択するほどの余裕はない。だが、慎吾が関係する会社には、例え、飢え死にしようとも就職できないのだ。
「このまま、会えないばかりか、電話もできないのは辛いです。どうか、電話くらいさせてください」
慎吾は必死になって云った。
「だめだ。歩く努力は並大抵でない。人に頼る心は禁物だ。僕も慎吾くんに会えないのは悲しい。そこで、提案したい。互いに年を取り、現役を退いたとき、君は僕を、僕は君に出会うための旅に出る。もし、捜し当てたら、楽しく過去を語り合おう」
「淋しいけど、僕は鈴木さんに胸を張って会えるよう、これからの人生をがんばります」
慎吾は、祐二の真意を知らず、祐二の意に従うことにした。祐二の望みどおり、彩世が慎吾を捜し出す前に慎吾との縁が切れた。