第13話
お伽話を聞く少女は、アイスクリームを食べるのも忘れて聞いている。そのため、アイスクリームがテーブルの上に落ちた。
「あら、アイスクリームが落ちたわよ」
と祖母は話を中断し、ティシュで拭き取った。
「もったいないことをしたわ」
と少女は云いながら食べる。
やがて、祖母が、
「はい、お伽話は、これでお仕舞い」
と、いうと、少女が物足りなさそうに尋ねる。
「ねえ大蛇さんは何処へ行ったの?」
「大蛇は瀬戸内海に到達すると、龍に変身して竜巻をおこし、その竜巻に乗って、高梁川の上流の山に帰ったそうよ」
「そうなの、じゃあ、困った時にお願いしたら、また現われるのね」
「そうよ、でも、よい子にしていないと現われないわ」
「わたし、よい子になるわ」
「お利口ね」
と、少女の頭を撫で、祖母は少女の顔に自分の顔の額を合わせ、
「面白かった?」
問いに、少女は興奮した面持ちで、
「うん、とても面白かったわ」
「そう、話して良かったわ。でも最後に覚えていて欲しいことがあるの」
「なにかしら」
少女は怪訝な顔をする。
「お伽話はね、人の不幸を幸福に変えるもの、もし、由美が不幸な境遇になったら、お伽話を思い出してね」
少女が、はい。と素直に返事すると祖母が話す。
「不幸を不幸と感じる心に偽りはないと思うけど、必ずしもお伽話より不幸でないかもしれないわ。だから、自分が不幸と思った時は、今の自分より不幸なお伽話を思い出すことで、自分が不幸と思っていることが、急に取るに足らないもののように思えて、元気を取り戻せるわ。でも、心の置き所を間違えば、幸せは絶対にやってこないわよ」
祐二は、祖母がこんな難しい話を聞かしているのは、幼い子供だけでなく、萎れた祐二を、間接的に元気づけているように感じた。
(ありがとうございます)
祐二は祖母に、声には出さないが、心をこめて礼を述べた。




