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「それは、いい考えだ」
信吾の所在を知る佑二としては、そう云うしかなかった。
「そこで、大学やフィギュアの友人知人、全ての人たちに信吾さん探しを頼みたいと考えているの。だから、もし、友人知人から信吾さんの情報を得た時は、捜しだしてくれた人と一緒にいくことになりますが、それでいいですか?」
彩世は佑二に、それとなく同伴を断った。
「大賛成です。まさか、あなたの友達を差し置いて、僕がいくのは僭越ですからね。どうか、早く捜しだせるように祈ってます」
云ったが、心の中を冷たい風が吹き抜けた。
(彩世さんが僕に好意を抱いていることは分かっていた。しかし、その好意は信吾君に対する愛とは違っていたのだ。だから、一年以上も経っても捜しだせない僕には任せず、自分で探し出そうと考えたのだ)
佑二は彩世との終わりを感じた。
その時、身体の不自由な中年男性を支えて、妻らしき女性が店へ入ってきた。
女性は、自分の肩を男性の脇に入れ、周りのテーブルや椅子に注意を払いながらゆっくりと歩いてくると、彩世に挨拶をしてから、一番奥の席についた。
「知り合いですか」
佑二が尋ねた。
「ええ、祖父母の知人で、時々、お手伝いするのよ」
「身体の不自由な男性をお世話するのは大変なことでしょう。奥さんは、大変な思いをしているでしょうね」
「あのご夫婦は、互いに好き合って結婚したのよ。何時も奥さんは云っているわ。私は愛する人の世話が出来て嬉しいと」
「優しい奥さんですね」
「女性として、愛する人の世話が出来るのは嬉しいことよ」
彩世は当然のように云った。
「彩世さんも」
聞くのは失礼と思ったが、思わず質問した。
「はい、私も女性ですから」
彩世は気を悪くせずに答えてくれた。
(彩世さんが慎吾くんを捜し当てたら、あの女性のように、慎吾くんを愛し労っても見捨てることはないと、彩世さんが言葉で示した。僕は慎吾くんのひた向きな愛と、その苦しむ姿をみて、思わず彩世さんの心を無視し、諦めると誓ったが、心のどこかで、彩世さんが選ぶのはどちらかと、少しの希望を持っていた。しかし、それも消えてしまった。だが、その答えが正確に分かるのは、彩世さんが僕に慎吾さんを見つけたと云わずに、慎吾くんを捜すのを止してと云ったときである)