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二日後、祐二が会社へ出勤した時、退職を募る用紙が届いた。
どうせ倒産するなら、身軽な独身の者が先に辞めるほうが良いと考えての決心だった。そこで祐二は翌日、出社すると、さっそく退職願いを提出して会社を辞め、職探しを始めた。
在職中は、何時でも就職出来ると多寡を括っていた祐二も、いざ、職探そうとするとその困難さを思い知らされた。
失恋と失業は、共に人生を託した相手から必要とされなくなったことである。その二つを同時に無くした祐二の心は虚しさで一杯だった。
そんな時、彩世から、逢いたいとのメールが携帯に届いていた。
慎吾の所在を伏せ、その上、失業している身、まして、慎吾の悲壮で苦しげな姿を見た時、思わず、彩世を諦めると慎吾に誓った祐二としては、いくら彩世に逢いたいを思っても、逢うというメールを送れない。
しかし、彩世は、祐二が退社する時間を見計らって、電話をかけてきた。愛する彩世の声を聞いた祐二は断ることが出来ず、逢う場所を指定した。
「三十分後、彩世さんのマンション近くにある、追憶という喫茶店で逢いましょう」
祐二は喫茶店へ車は走らせた。
彩世は祐二が来るのを待ちわびていたのか、祐二が店に入ると、今にも泣き出しそうな顔をして、手を振って自分の居場所を示した。
その顔を見て、祐二の決心が崩れそうになる。
「待っていてくれたんだね」
さり気なく云って、祐二は席に着いた。
「私、待ち切れず早くから来ていたのよ」
その言葉に、祐二は思わず、愛していると云いそうになったが堪え、
「遅れてごめんよ」
と謝った。
「何をお飲みになりますか」
彩世が聞く。
「コーヒー、そうだ、喉が渇いているから、冷たいコーヒ」
現れたウエイトレスに彩世が注文した。
「スケートの練習をしましたか?」
佑二が尋ねる
「中止したのよ」
彩世があまりも簡単に応えたので、驚いた祐二が尋ねた。
「また、どうして?」
「練習をしていると、損傷した箇所に痛みが走ったので、お医者さんに行ったら、まだ完全に治っていないと云われたの、だから、今後のことを考え、今年中は練習を休むことにしたのよ」
「将来のことを考えると、それが最善の方法かもしれないね」
「この間、何もすることが無いので、慎吾さんを捜したいと思っています」