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確かめる祐二の顔から血の気が退いた。
祐二は、失恋の哀しみから逃れるためには、仕事に熱中するしかないと考えていた矢先に、その仕事もなくなると知らされたのだ。
「本当だ。俺は昨日、上司が話しているのを聞いて、目の前が真っ暗になったよ」
「僕も辛いが、お前は結婚しているし、お子さんが生まれるからなあ」
「そうなんだ。この十月には子供が生まれるんだ。俺はこれからどうすればよいかわからなくなったよ」
「大変なことになった」
「でも、まだお前は良いよな。独身だから」
と、鈴木が祐二を見る目の奥には、助けてくれ、という悲鳴に似た悲しみがあった。
「話が本当なら、僕は明日から新しい職場を探してみるよ。もし、良い情報があれば、まず、君に紹介するからな」
祐二は鈴木を勇気づけた。
「頼むよ」
鈴木の声は必死だった。
「任せておけ」
祐二は自分の胸を叩いた。
「有難う、その言葉を聞いて、気持ちが楽になったよ」
「それは良かった」
と云うなり、祐二が立ち上がり、鈴木に深々とお辞儀をして云った。
「有難う」
「何の礼だ?」
鈴木が驚いて尋ねる。
「君に慎吾と云う学生が居たら教えてくれと頼んでいた件だが、あの学生を見付けだすことが出来たんだ。一年間も協力してくれた礼だよ」
「そうか、それは良かった」
「全てが良いことはなかったのだ。彼に会ったとき、名刺を渡したんだが、迂闊にも、お前の名刺を渡してしまったんだ。その場の空気から訂正できないと考え、慎吾くんには鈴木で通すことにした。適当な時期を見計らって訂正しようと考えているんだが、無断で、お前の名前を使ってすまないことをした」
「なんだ、そんなことか、気のすむまで使っていいよ、もし、慎吾くんから電話があった場合は、俺が謝っておくよ」
今の鈴木の心境なら、取るに足らないことだった。
「許してくれて有難う」
半時間ほど、祐二と鈴木は今後について話合った。
佑二は、別れ際に、俺がお前の職を探してやると鈴木を元気づけ、喫茶店をでた。