125話 二者択一
祐二の夢と希望が叶いそうになったとき、慎吾が現れ、その夢は儚く消え、その哀しみを癒す間もなく、次の試練が待ち受けていた。
「樫山」
会社に出勤した祐二は同僚の鈴木に呼び止められた。
「おお、鈴木か、丁度よかった、山陰名物のアゴの蒲鉾だ」
祐二が土産物を渡した。
「有難う、妻は、島根へ旅行に行った時、飛び魚の蒲鉾を初めて食べてから、その美味しさを忘れないと云っていたから、きっと大喜びするよ」
「そうか、持って帰ってきた甲斐がある」
「ところで、結婚してから、何時も遅刻寸前に出社するお前が、こんな早い時間に出勤していたとは驚きだ。なにかあったのか?」
「就業前に、お前と話をしたくて、待っていたんだ」
「僕と?」
そこへ、社員が続々を出社してきた。
「そうだ、しかし、お前の出勤が遅いので、話す時間がなくなってしまった。だから、昼食時、何時もの喫茶店へ来てくれ」
「分かった。だが、その顔から判断すると深刻な話のようだな」
頷いて、鈴木は立ち去った。
昼食時、祐二が急いで喫茶店へ行くと、鈴木が来ていた。
「もう来ていたのか」
「昨夜から、じっとして居られない心境なんだ」
「じゃあ、話を聞こうか」
「困ったことになったよ」
鈴木はしばらく沈黙した。
「お前、もしかすると離婚するのか?」
と鈴木があまりにも深刻な顔をしたので佑二が云った。
「馬鹿、間もなく子供が生まれるんだぞ、縁起でもないことを云うな」
鈴木が顔を真っ赤にして怒った。
「すまん。だが、他にそれ以上の重大なことがあるのか?」
すると、鈴木が声を潜め、
「樫山、お前知っているか」
「なにを?」
「我が社は、間もなく倒産することを」
「ええ、本当か!」