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「分かりました。僕は、彩世さんに誓います。来年、カワハラナデシコの花が咲いている頃までには、彩世さんに慎吾くんを会わせることを誓います」
祐二の言葉が彩世の幸せを完全に奪った。
「もう、諦めていたのに、そんなこと誓っていいの?」
彩世は、反対出来ず、哀しげに云った。
「大丈夫、絶対に見付だしますから」
見付ださないで下さいとも云えずに、
「はい」
短く答えるしかない彩世だった。
「良かった。これで安心して京都に帰れます」
「もう、帰れるの?」
彩世が悲しそうにそう尋ねた。
「彩世さんも、二、三日中には、京都へ戻るでしょう、だから、すぐ逢えますよ」
「そうだったわね」
彩世は、無理に顔を明るくした後で、
「今日の私はどうかしているわ。祐二さんが話す一言一言が私には、祐二さんの別れの言葉に聞こえるのです。ごめんなさいね」
「何だ、そんなことを心配していたんですか。ここで、彩世さんに約束します。僕は、彩世さんからどんなに遠く離れた所に居ても、何時も彩世さんを見守っていますと、約束をしたでしょう」
「そうだったわ。私、どうかしているわ」
彩世は涙を浮かべる。
「彩世さんを心配させないためにも、京都へ戻ったら、すぐ、逢いましょう」
「すぐ、逢えるのね。そのことを忘れていたわ」
彩世は急に明るくなった。
彩世が祐二を駅へ送り届けると、すぐ、やくも号は入ってきた。祐二は彩世を悲しめないように電車の発車寸前まで彩世の側に居た。
電車に乗った祐二は彩世の姿が見えなくなるまで窓際に立ち彩世に手を振る。電車は、すぐ、暗いトンネル内に入った。
佑二は高梁川に助けを求めた。
「高梁川よ、教えてくれ。僕が子供の目を気にせず、彩世さんに逢っていたら、僕が彩世さんの恋人になれましたか?」
答えを探す祐二の目に映ったのは、希望を失った祐二の心のようなトンネルの暗さだ。
(愚かな質問だった)
その時、電車は既にトンネルを抜け出し、高梁川の横を走っていた。
高梁川に目を向けた。
(さよなら)
愛を失い、哀だけが残った愛哀の故郷に万感の思いを込め、永遠の別れを告げる祐二だった。