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「そんな大袈裟に云わないでください。ユリと河原とカワラナデシコの花は私ののも支えなんです」
「そうでしたね」
「もしかしたら。優しいユリが、私と祐二さんを引き合せてわせてくれたんだわ」
と顔を赤らめて云った。
慎吾との婚約を解消するつもりの彩世は慎吾を省いた。もし、慎吾に出会わなかったら、今の言葉で、祐二は、即座に、愛を告白しただろうが、今は苦痛だ。
「河原へ行きます?」
彩世が聞いた。
「行きたいが止そう。何故なら、高梁川の上流の新見市では、豪雨が降っていたから、もしかすると、洪水が発生して、河原が水没するかもしれないのです」
「じゃあ、どこえ行きましょう?」
彩世は恋人に甘えるような口調で尋ねる。
だが、慎吾に出会った祐二は、彩世とこれ以上親しくしてはいけないと思い。
「以前に見物できなかった高梁市の名所旧跡巡りをしたいですね」
名所巡りをしている間。祐二は彩世との関係を他人に見られても、恋人関係と見れないようにしていたので、彩世には急に佑二が変わったように感じた。
「私はまた病気になったのかしら?」
彩世は不安げに祐二を見る。
「病気、どうして?」
「だって、急に祐二さんが遠くへ行ってしまったような気がしてならないの」
彩世を不安にさせてのは、自分にあると気付いた祐二は、
「そうだ、展望台へ行って、町をみましょう、きっと、気分が晴れる筈です」
祐二と彩世にとって、ループ橋の展望台は、二人だけの世界になれる唯一つの場所であり、今回は、祐二が彩世と慎吾の婚約解消を奨め、彩世は、婚約を解消したいと、祐二に告げる場所となり、同時に、互いに愛を告白する場所でもあった。
だが、慎吾が現れたために、祐二には、別れの場所となってしまったのだ。
ループ橋の展望台に来た佑二は哀しみを隠し、展望台から景色を眺めていると彩世が、
「祐二さんは、この展望台がお好きなのね」
「大好きです。高梁川とこの町、そして、この展望台は僕の愛哀の故郷でしたからね」
聞いた彩世の顔が曇った。
「愛の故郷でした、と云っていたたけど、でしたは過去形でしょう、それは、もう、この展望台へは来ないとの意味ですか」
佑二を愛さない者なら、佑二の言葉を聞き流しただろう、だが、佑二を愛し、信じきっている彩世には、聞き流せない言葉だったのだ。否、愛されているとの確証がないため、何でも無い言葉でも敏感に反応する、それが愛なのだ。
「ごめん。いい間違いです」
祐二は、苦しい云い訳をした。
「もう、哀しいことは云わないでね」
彩世の目には哀しみの涙があった。