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「だから云ったでしょう。これは小説だと。貴女は、お友達など多くの女性と付き合っているんだから、女性の気持ちが女性側からどうなのか知っているでしょう。貴女の考えでなく、女性全般の考え方を教えて下さい」

「そうね、男性が犯罪を犯したり、浮気したり、破産したために、恋が醒めた話は聞いたことがあるけど、身体に障害が生じたから別れた話は聞いたことがないわ」

 彩世が幸せになる条件は、まず、慎吾に会うことである。だが、慎吾は絶対に会う気持ちがない。また、社会では、親や子供の介護疲れで心中する事件が多発している。

 今、彩世に慎吾に会わしたら、彩世は慎吾を愛で介護すると云うだろう、だが、彩世に介護が出来るだろうかと考えると不安になって、めぐみに尋ねたのだ。

「他に人のことは知らないけれど、私なら愛せるわ」

「本当ですか、有難う」

「二人を会わすのね」

「今は云えません。もし小説が本屋さんに出ることがあれば読んでください」

空は、夕焼けの明るさを失い、海は夕霧が架かり暗さを増してきた。それは、祐二とめぐみの時間が終わったことを告げているのだ。

「めぐみさん、今日はありがとう、そして、楽しい時間を過ごさせてくれたことを感謝しています」

「私こそ、あなたを騙したりして御免なさい。私には大切な恋人がいるけれど、今日の楽しさを忘れるためには、多くの年月がいります」

「僕は、今、書いている小説の原稿を見るたびに、今日を思い出すでしょう。あなたの幸せを祈っています」

二人は、日本海に別れを告げ、展望台から下りた。めぐめは、自分の車に乗ると、見送る祐二に軽く会釈してから車を発進させた。

祐二は、再び展望台に上がり、暗い海と、星々の輝く夜空を見て哀しげに呟いた。

「僕は彩世さんを死ぬほど愛している。出来ることなら彩世さんを誰にも渡したくない。しかし、慎吾くんの心を考えると、その思いも萎えてしまう。僕は、どうすればいいのか教えてください」

すると、心の声が聞こえた。

(彩世と慎吾を会わせるしかない。もし、会わさなかったら、お前は、一生涯、心に大きな傷を残し、苦しみ続けるだろう)

しかし、彩世と慎吾を会わせれば、そこで、自分と彩世との関係が終わると思うと悲しくなり、思わず自嘲気味に云う。

「僕が愚かで、忘れやすい性格なら、今日も上司のゴルフの話を聴かされ、電車に乗り遅れ、今頃は、彩世さんと結婚することを両親に報告しているだろう。だが、少しだけ、まじめだったために、同じことを繰り返さず、慎吾くんに出会ってしまった。そして僕の夢は破れた。これが僕の運命なのか」

祐二は哀しげに肩を落として車に乗ると家路についた。

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