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「いえ、私もそう思っていたからです」
「ありがとう」
めぐみが恐る恐る云う。
「もし、異存が無かったから店を出ません。間もなく太陽が海に沈みます。そして、夕焼け雲が輝き、やがて、消えます。その美しさは筆舌で表せないほどです。その美しさを独り占めに出来る場所があります。これから、そこえご案内しますわ」
「いいですね。貴女と過ごす最初で最後の時間です。大切に過ごしましょう」
祐二が提案を断らなかったので、めぐみは、ほっとしながら喫茶店を出た。
二人は、各自の車に乗り、祐二はめぐみの車に従った。めぐみは日本海に面した断崖絶壁上の道路、即ち、祐二が来た道を後戻りする。
わずか数分で展望台に着いた。展望台は、断崖絶壁の上に張り出した岩石の上に作られた小さな展望台であった。
「私が幼いころ、よく両親に連れられてきた大切な思い出の場所です。展望台が家族だけで一杯になるので、両親は、この展望台を「家族の展望台」と呼んでいます」
「なるほどね」
祐二は、命名に感心しながら、木で作られた椅子に腰掛けて西を見た。
空には、ばら色の夕焼けが広がり、波一つない日本海は、その夕焼けからの淡い光が射し、その中へ夕日が沈み始めていた。
祐二は、待って来たアイスコーヒー缶をめぐみ渡して云った。
「美しい日本海、沈む夕日、そして夕焼けに乾杯」
「夕暮は人生の終わりと云われているけれど、そんなふうには見えないわ。目に見える全ての現象に乾杯」
二人は喉の渇きを癒した。
「そうだね。仮にそうだったとしても、人生の終わりを、こんな美しい夕暮と一緒に終わられたら最高の幸せだね」
二人は同じ島根県生まれだ。話は尽きない。
やがて、太陽は海に沈んだ。間もなく祐二とめぐみに別れがくる。
祐二は、自分が今、一番気になっていることを解決するために、めぐみの知恵を拝借したいと考えていたので、思い切って尋ねた。
「めぐみさん、僕は女性の考えが分かりません。今から尋ねますが、その答えを教えてください。出来れば、人前で話す優しい答え方でなく、冷徹、冷静、真実の答えが頂きたいのです、答えを頂けますか?」
「なんだか難しそうね」
「そうです、二人の人間の幸不幸がかかっているのです」
「責任重大ですわね」
「いえ、思った事を云ってくれればいいんです」