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「詫びるって?」
突然、云われた祐二は、驚いて尋ねた。
「私はお見合いをする資格が無い者なんです。なのに、無理に両親が見合いを決めて来てしまって、どうか、許してください」
恵みが深く頭を下げた。
祐二は、突然、予想もしなかったことを云われ、どう答えればよいのか分からず、思わず聞き直した。
「資格がないとは、どういうことですか?」
めぐみが申し訳なさそうに、
「私には恋人がいるんです。でも、そのことを両親に云えないために、あなたにご迷惑をかけてしまうことになって、申し訳ありません」
祐二は、想像もしていない成り行きに、驚くと同時に、どう云って断ろうかと思案していた矢先に、めぐみの方から断られたので、急に気分が晴れ晴れしてきた。
「そうでしたか、どうか気にしないでください」
祐二の反応があっさりしていたので、めぐみが拍子抜けしたように、
「いいんですか?」
めぐみが念を押す。
「いいんです。誰にでも好かれるほど美しいあなたが、なぜ、お見合いをするのかと、不審に思っていましたが、その理由がわかり納得しました、詫びなんかいいですよ」
「いい方なんですね、、どうか叱ってください。貴方の優しい思いやりが心苦しいです」
めぐみは、祐二の思いやりに、一層、罪悪感を感じた。
「貴女を叱る。そんなことは出来ません。それより、お願いがあります」
「何でしょうか?」
めぐみが不安そうな表情を浮かべる。
「貴女と僕が出会いました。どうして出会ったのでしょう。今、僕は不思議な気持ちで一杯です。僕たちは出会う運命、その運命は、貴女と僕にどんな運命を命じたのだろう。それは神様しかご存知ない。ただ僕に分かっていることは、全然しらない者同士が会ったのです。今日と云っても後、五時間しかありませんが、その一時を僕に頂きたいと思っています。そして、その僅かな時間を、僕は貴女と旧知の友か、久しぶりに出会った同窓生のように楽しく過ごしたいと思っています、暗黒が訪れるまで」
祐二は、礼儀とし、そして何故か、これで最後になると思えずに云ったのだ。
どんな難題を云われるのかと心配していためぐみだが、祐二が考えていることと同じようなことを考えていたので
「お付き合いさせて頂きます」
めぐみは嬉しそうに云った。
「その言葉が、謝罪の気持ちなら無用ですよ」