115
懇願するように云った。
「無論だ、よろこんで出席させてもらうよ」
優子も嬉しそうに、祐二に向かってお辞儀をした。
「所で、明日の予定は?」
英樹が尋ねた。
「何も無いよ」
祐二が答えると、英樹は、また、明日、泳ぎに行こうと云って、車を発車した。
友と別れた祐二が、理髪店へ入ると、店主が誰にでも聞こえないないよう小声で、
「祐二くん、これで何回目かね」
云って、くすりと笑った。それを無視するように、祐二が恍ける。
「何のこと」
この店主は、祐二が生まれた時から高校まで祐二の頭を刈っていたのだ。
店主はそれ以上追求せず、話を変えた。
「お前の兄、保君は偉いね」
「どこが」
「また恍ける。兄貴は、若いのに国会議員に当選したんだぞ」
店主は、一人でうんうんと独り合点していた。
「僕は僕ですよ」
店主は、また忠告した。
「兄貴に心配をかけないよう、早く結婚しろよ」
「おじさんは、兄貴が来ると、必ず、早く結婚しろと云っていたんだってね。他府県に住む僕には通用しないよ」
「そう云って強情は張っている、必ず後悔するぞ」
この店主は、兎に角お説教が好きだった。それを知ってる祐二は、何を云われても気にならない。というより慣れていたのだ。
「忠告ありがとう」
一応、礼を云うと、店主が、
「さあ出来たぞ、兄貴も男前だが、祐二はそれ以上だ」
祐二を持ち上げた。
「おじさんは、何時、見ても元気そうですね」
「見かけだけだよ。間もなく七十だから、先が短いよ」
と禿げた頭を撫でた。
祐二は、店主に礼をして理髪店を出た。
家への帰り道、祐二の脳裏には、英樹と優子の幸せそうな顔が浮かぶ。
(みんな幸せなんだ)