第106話
まさか、今、彩世に結婚を申し込むなどと云えない。
「大したことでないから、彩世さんが来た訳を聞かせてください」
「わたし、今日から実家へ帰ります。もし、祐二さんが夏期休暇で帰るようなことがありましたら、備中高梁駅で下車して逢って頂けませんか」
祐二は彩世に、慎吾との婚約を解消するように進言し、もし、彩世が応じたら、その場で、彩世に、結婚を申し込もうと決心していたのだ。彩世の逢ってくれは、天からの贈り物のように感じた。
「僕が彩世さんに話したかったことは、僕が八月二日から四日まで島根へ帰省することを、話そうと思っていたのです」
「じゃあ、逢ってくださるのね」
彩世は安心した。
「はい、絶対に逢いに行きます」
「じゃあ、何日に来てくださるの?」
祐二は、彩世に結婚を申し込む日を、八月二日から四日までと考えていたが、父親の電話を受けてから、少し考えが変わり、八月二日に結婚を申し込み、彩世が受けたら、その日、両親に報告し、四日の日は彩世の両親に会って、彩世との結婚の許しを受けようと考えていたのだ。
「八月二日は京都からの帰り、四日は島根から京都へ戻るときです。もし、彩世さんの都合が悪ければ変更します」
「そんなに逢ってくださるの。私に都合などないわ」
彩世が嬉しそうに云った。
「僕は、また、高梁市の夏の風景を、ループ橋の展望台から見たいと思っていたので、必ず行きます」
祐二は大好きな展望台で、彩世に結婚を申し込もうと考えていたので、今は真実を話さないようにした。
彩世も今度こそ、祐二と新しい人生を始められると予感がしたのか、彩世の目から嬉し涙が流れた。
急に辺りが騒々しくなった。どうやら昼食時間が終わり、客がレジの前に集まってきたのだ。
佑二も誘われるように、レジで支払いをすませ彩世の所へ戻り云った。
「急がすようで悪いが、僕は仕事があるので、店を出ますが、彩世さんは?」
彩世が淋しげに、
「祐二さんと一緒に店をでます」
二人は店を出た。別れ際に祐二が彩世を安心さすように、
「八月二日、必ず行きます」
祐二は、帰って行く彩世を見送りながら、