第104話 純白のハンカチ
七月も後三日後となった夜、祐二はサッカーの試合をテレビで見ていた。しかし、心の中では、彩世のことを考えていた。
そこへ、久しぶりに父親が電話をかけてきた。
「何か用?」
祐二は、見合いを警戒しながら尋ねた。
「何もないが、祐二の声が聞きたくなったんだ。元気にしているか?」
父親は、何時もの父親らしくない優しい声で聞いてきた。
「ああ、元気だよ」
「それは良かった」
どうやら、見合いの件でないと安堵した祐二は、父親の労をねぎらった。
「父さんは、毎日、家業を守り、国会議員の兄さんの手助けに奔走しているって聞いたよ、身体は大丈夫?」
父親は、祐二が自分の立場を理解していることを知り、嬉しそうに云った。
「お前が心配してくれるか、ありがとうよ。実は、会社と保の手伝いで疲れているんだ。だから、祐二に会社を任せ、俺は保の手助けをしたいと考えているんだ。どうだ、会社を辞めて、島根へ帰ってこないか」
「残念だけど、見合いとその話は僕の信念と相反するので受けられないよ」
「そうか、それなら諦めよう」
「失望させて悪いけど、これは僕の夢なんだ」
父親がさり気なく尋ねた。
「いいんだよ。今年も帰ってくるのか」
「帰るよ」
「そうか、何日?」
「去年と同じくらいの予定だけど」
「そうか、母さんも待っているから、絶対に帰ってこいよ」
父親は話しが終わるとあっさり電話を切った。
(恐らく、父さんは、家業や兄さんの手助けで忙しい日々を送っていて、僕に電話をする暇もなかったけど、ふと、僕のことを思い出し、電話をかけたくなったのだ)
祐二は、父親の淋しげな顔が思い出されたので、可哀相に思い、内心で報告した。
(父さん、何時も僕の結婚を考えてくれて有難う。でも、もう、その必要がなくなるから安心していてください。なぜなら、愛する人と結婚するから)
報告と同時に、嬉しそうに頷く彩世の顔が祐二の脳裏に写った。
翌日、祐二が昼食をとるために、会社を出ようとした時、携帯電話が鳴った。
「はい、樫山です」