第102話
「どうして?」
「私は見たことがないけど、彼に、好きな人が居るように感じるわ」
「それは、残念ね」
「仕方ないわ、だって、私も他の人に心を移したんだもの」
恵子は彩世の一番痛い所を付いた。
「そうね、信念を曲げたら、必ず報いを受けるわね」
彩世が苦しそうに云った。
「ところで、ご両親と一緒に居た若い男性、とても素敵ね、もしかしたら、彩世を助けた人でしょう」
「いえ、違うわ」
慌てて否定した。
「あの人を見た瞬間、この人だと、直感したけど、違ってたのね」
「そうよ、あの人は父の知人よ」
彩世は、不幸な恵子に、自分の幸せを見せるのは酷だと思い嘘を付いた。
「付き添ってきた患者さんを放っておいていいの?」
彩世は、話題を変えた。
「大丈夫よ」
恵子は怪我している彩世を引き止めては悪いと思ったのか、彩世を両親の所へ送って来た。
「あら、もう、話は終わったの?」
操は彩世と恵子の赤く腫れたまぶたをみて、二人が何かつらい思いを話あっていたのだと気がついた。
「恵子さんもよろしければお食事でもどうですか?」
断られると思いながら、操は恵子を誘った。
「有り難うございます、でも、待っている人が居ますので」
「母さん、恵子は、会社の方とこの病院に来ているのよ、だから、誘っては駄目」
「そう、それは知らなかったわ、もし、お暇な時があれば、彩世がいなくても、気軽に家に遊びに来てね。この子がいないから話し相手が居ないの、高梁市はいい町だし、観光するならうちに泊まればいいのだからね」
操は恵子の気持ちを明るくしょうとしたのだ。
「はい、有難うございます、その時はお願いします。それじゃあ、失礼します」
恵子が立ち去ると、彩世の父親が祐二に云った。
「樫山さん長い間お待たせしてすみませんでした。ご面倒で申し訳ないですが、彩世を祖父母の家まで送っていただけますか、わたくしどもはこのまま高梁へ帰らせていただきます」
彩世の心を知っている両親は、彩世と祐二を二人にしてやりたいと思ったのだ。
「もちろんです。任せてください」
祐二は快く答えた。
恵子との話のあと彩世が目を腫らして帰ってきたのが、佑二は気になって仕方なかった。
もしかしたら 慎吾とのことなんだろうか。祐二と彩世は、両親の見送りを受け、車を発車させた。
「彩世さん、足は痛みませんか?」
助手席で、痛みに堪える彩世のことがきになって尋ねた。
「大丈夫よ」
「もし、車の揺れで、足が痛むようなら、電車に乗換えてもいいんですよ」
「そんなに心配しないでください、平気です」