第101話
「私は彩世に嘘をついていたわ。彼は私のことなんて、お手伝いと性処理の役目をさせるために傍に置いていただけだったのよ」
「そんな、許せないわ」
「私を愛してなんかなかったのよ、だからお腹に赤ちゃんが居ても平気で暴力を私に奮ったわ。それでも、私は赤ちゃんのために、、生まれてくれればあの人が少しでも変わるんじゃないかと思って耐えたの、でも、そのために赤ちゃんを失ってしまった。彼が変わるんじゃないか、愛があるんじゃないかと未練を持たず、別れていれば、今頃はこの腕に中に赤ちゃんがいたのよ。そう思うと悔しくてならないわ」
「大変だったのに、私は何もしてあげれなかったわ、ごめんなさい」
「そんなことない、私があんな男を選んだ私が馬鹿だったのよ」
彩世と恵子は共に泣いた。
婚約をしても姿を現さなかった慎吾の愛も、一瞬の恋であってもう終わっていたのかもしれない。そして彩世に対する慎吾の愛はもう剥げたのではないかと考えた。
(無理な愛は互い傷つけ合う、もう、私は去った人を探さない)
恵子の無惨な愛の結末を知らされ、彩世は慎吾の愛を信じられなくなり決心したのだ。
そして今、祐二が彩世の傍にいて、献身的に尽くしてくれる。祐二の愛が信じられる。だが、その愛は、祐二が誰に対しても持つ人間愛のように思え、淋しくなる彩世だった。
恵子は少し落ち着きを取り出したのか
「赤ちゃんを失ったのを機に、彼と別れ、岡山の実家へ帰ってきたわ」
冷静に話した。
「そうなの、ご両親とはもう和解したのね」
「ええ、もう絶対許してもらえないと思っていたのに、私のことを優しく迎えてくれたわ」
恵子は涙を拭いながら言った。
「我が子を心配しない親はいないわ、まして恵子のご両親は優しい方たちじゃない」
頷く恵子。
「そうだ、真竹家って以前に話していたわね、そこの会社の人達と一緒に来ているのは、恵子はそこに就職したことなの」
「ええ、そうよ」
云ってやっと恵子に笑顔が現れた。
「じゃあ今は社長秘書の仕事に励んでいるのね」
「そうよ」
「良かったわ、そうだ、恵子の初恋の人と会っているの」
「ええ、会っているわよ」
「初恋の人の恋人になれたら、名前を教えると云っていたけど、聞いてもいい?」
「まだ、駄目よ」
運命はまだ彩世を試すのか恵子の口からその名は出なかった。
「でも、初恋が実る可能性はあるのね」
「分からないわ」
恵子が悲しそうに云った。