第100話
「いえ、一人よ」
答えてから恵子が泣き出した。
「何か事情があるのね」
恵子が頷いた。
彩世には、恵子が幸せでないことが一目で分かった。
「恵子に会えて嬉しい」
彩世は優しく恵子を抱き締めた。
「私も会えて嬉しい」
云うと恵子は、また声を殺して泣き出した。
「何度も電話をしたの、でも通じなかったから心配してたのよ。でも、会えたので安心したわ」
「心配して頂いてありがとう」
「苦労したのね」
恵子が黙って頷く。
「もし、良かったら、事情を話して」
最初は躊躇していたが、
「彼とは、別れたわ」
と、冷たく云った。
「そうだったの」
「でも、今は別れたことが良かったと思っているわ」
「それ本当?」
「今回は嘘を云わないわ」
「さっき、赤ちゃんのことを尋ねると泣いたけど、あかちゃんは元気?」
子供のことを聞かれた恵子は、急に声をだして泣きだした。
「御免ね、悪いことを聞いたりして」
「いいの、去年の六月、そう、北海道へ引っ越ししてから一ヶ月後、早産で赤ちゃんが生まれたけど、すぐ、その後で死んだわ」
「可哀相に」
彩世も堪らずに泣いた。
「早産になったのは、夫に腹を蹴られたのが原因だった」
恵子が憎しみの籠った口調で云った。
「なんて酷い話なの」
「あなたに会って別れると言ったことがあったでしょう。でも、彼を愛していたから、別れられなかったの」
「それが真実の愛だわ。でも、愛を理解しない人が居るのね」