769.バトンタッチ
相方との作戦会議に意識のリソースを割いている間に、背後からアイノスが飛来してきている。
どんどん距離を詰められている。
な、なぁ、相方……本当に、あのスキルへ対抗できるっつうのか?
『諄いっつうの。オレの直感が間違ってたことがあるか?』
思わず笑みが零れた。
そうなんだよな。
相方はいつだって、一見短絡的な無茶をやらかしてくれた。
だが、それが裏目に出たことが、大事な場面であればあるほど、不思議と心当たりがねぇ。
……まぁ、人間絡みだととにかく俺が後手後手になっちまってたから、上手いことバランスが取れてたってのが本当のところなのかもしれねぇが。
『今はとにかく、時間がねぇ。オマエは確実に奴の魔法を避けながら、わざとアイツの接近を許せばいい。後は、オレがあの気に食わねぇヤローにかましてやる!』
相方の言葉に従い、俺は敢えて速度を落とし、確実に〚ヴォイドエッジ〛を躱すことにだけ専念する。
案の定、その間にどんどん距離を詰められていく。
奴にとって、これまでちょこまかと逃げ回っていた俺を確実に仕留めるチャンスだ。
一気に攻撃の手を強めると共に、またあの精神干渉スキルで動きを止めに掛かってくるはずだ。
『終わりにしようかい、イルシアァッ!』
アイノスが〚ヴォイドエッジ〛を六つ、円状に並べるように展開する。
そして一気に飛行速度を上げ、俺へと肉薄して来る。
あ、あまりにも安易に接近させちまったぞ。
これ、本当に大丈夫だろうな!
このまま連撃受けたら、最悪マジで終わるけど!
そして案の定、アイノスの前脚が俺へと向けられた。
く……来る! 例の精神攻撃!
まず一発アレで揺さぶってから、〚ヴォイドエッジ〛の乱れ打ちを叩き込み、そこに乗じてあの馬鹿みてぇな攻撃力でぶん殴ってくる気だ!
なあ、相方!
これ、マジでやられるって!
俺が相方へ呼び掛けた、その直後。
俺の脳が激しく揺さぶられ、視界が明滅し、頭が真っ白になった。
このまま意識を手放して、楽になっちまいたいと考えちまう。
だが、それじゃ駄目だ。
放心してたら、マジで動かない身体を滅多打ちにされて終わりだ。
俺は懸命に、自分の意識を搔き集め、繋ぎ合わせる。
俺が気力で意識を取り戻したとき、俺の前脚が、アイノスの顔面をぶん殴っているところだった。
「オ、オゴォ……!」
アイノスの顔面が砕け、奴の高度が落ちる。
尻目に〚ヴォイドエッジ〛の六つの斬撃が、複数の地割れを引き起こしているのが見えた。
どうやら俺は、あの間合いなき斬撃を捌き切ったようだ。
ど、どういうことだ?
まるで理解が及ばねぇ。
つまり、俺はあの精神攻撃を受けて放心している間に、あの六連撃を躱し、飛び掛かってくるアイノスにカウンターをぶち込んだのか……?
そ、そんな都合のいいこと、あるわけがねぇ。
これは俺の見ている夢なのか?
そう考えたとき、俺の身体が俺の意思に反し、自動で動いていることに気が付いた。
ま、まさかこれは、相方の喪失と共に失われていたウロボロスのスキル、〚支配者の魔眼〛か!?
【特性スキル〖支配者の魔眼〗】
【目に魔力を込めた状態で目を合わせることで、対象の動きを数秒間封じる。】
【魔力差が大きい場合か波長が合っている場合には、動きを操ることができる。】
そう、相方はこのスキルを使って、俺の身体の主導権を奪うことができる。
精神攻撃で俺の隙を作ったと過信したアイノスは、〚支配者の魔眼〛でバトンタッチしていた相方に手痛いカウンターを叩き込まれることになったのだ。
こ、こんな破り方があったのかよ!
いや、破るどころか、油断しているアイノスに、初ダメージをかましてくれやがった。
天才か、コイツ!
『〚天落とし〛ィ!』
縦にぶん回されたテュポーンの巨大な尾の追撃が、アイノスの巨躯を地面へと叩き落とした。
異空間の地面を割り、奴の身体がめり込んでいく。
『まだまだ行くぞォ、〚地返し〛ィ!』
すかさず相方が身体を動かし、素早くアイノスへと一直線に飛び降りていく。
テュポーンの巨大な足が、アイノスの腹部へと突き刺さる……そのはずだった。
『んあ、なんだコレ?』
アイノスの身体に、分厚い光の壁が展開されている。
テュポーンの足は、それに完全にブロックされていた。
これは……奴のステータスにあった、〚大賢者の盾〛だ。
ラプラスがコードを用いて、一度俺を守ってくれたスキルでもある。
【特性スキル〖大賢者の盾〗】
【六大賢者を確実に守るためのシステム。】
【魔法・物理問わず、あらゆる攻撃を完全に打ち消す。】
【このスキルの展開時、庇護者はあらゆるダメージを受け付けない。】
【また、所持者のHPをゼロにする事象をラプラスが予知してオートで発動し、確実に妨げる。】
……思ったより物々しいスキルじゃねえの。
さすがに相応にMP消耗は激しいはずだが、確実に全ダメージをカットする盾とは、厄介なスキルを有している。
つまり、コイツがある以上、MPが残っているアイノスを不意打ちでそのままぶっ倒すっつうのは不可能なわけか。
『舐めるなよ……グズが! ボクはこの世界の絶対支配者……六大賢者アイノス様だぞ!』
アイノスが吠えながら〚大賢者の盾〛越しに前脚の指先を相方の頭へと向ける。
相方の頭がガクンと揺れ、目と鼻から血を垂らし、力なく首が垂れた。
精神攻撃で、相方の意識を飛ばしやがった!
俺に肉体の主導権が返ってくる。
すかさず俺は〚大賢者の盾〛を蹴飛ばし、空中へと逃れる。
俺目掛けて放たれる〚ヴォイドエッジ〛の嵐。
俺はそれを紙一重で躱しつつ、〚次元爪〛をかます。
アイノスの顔面に、俺の爪撃がぶっ刺さった。
おらよ、どうした、どうした。
俺の動きなんか、散々ストーカーしてきたから読めてるって豪語してたよな?
攻撃に躍起になって、対応が甘くなってんじゃねえのか!
『不意打ちが決まったのが随分と嬉しいみたいだね。この間合いなら、撃ち合えば基礎スペックの差でボクが圧倒できるのはわかってるんだよ!』
アイノスは態勢を立て直し、翼を広げ、俺を追って飛来してくる。
そうして俺目掛けて〚ヴォイドエッジ〛の連撃を放つ。
俺は〚ヴォイドエッジ〛を躱し、躱し切れないものは手足や尾で受け、被害を軽減していく。
そうして奴が魔法スキルへ意識のリソースを割くその隙を見極め、的確に〚次元爪〛を打ち込んでいく。
「オオオオ……!」
連続で胸部に〚次元爪〛を受けたアイノスが、呻き声を上げる。
『何故……どうしてボクのスキルが躱されるように……!』
おいおい、本格的に余裕面が崩れてきたんじゃねえのか?
アイノス……こっちはテメェのスキルを見切るためだけに、序盤戦を逃げに徹していたんだよ。
ステータスの差を埋めるためには、相手の動きやクセを読むしかねぇからな!
データ量じゃお前の方が格上でも、戦闘経験自体はこっちが遥かに上だ。
命懸けの戦闘の中では、追い詰められれば追い詰められるほど、焦りから理想の選択や動きができなくなっていく。
戦闘経験のねぇ奴なら尚更だ。
この先も、そのクソスキル連打で押し切れるなんて、甘いこと考えてねぇだろうな?
『なるほど……助言をどうも』
アイノスは冷たい目でそう口にすると、自身の前脚を、自らの牙で噛み砕いた。
な、何やってんだ、コイツ……!
噛み砕いた前脚は、すぐに〚自己再生〛で元通りになっていく。
『癪だけど、認めよう。急いてスキルを無駄撃ちしていたようだ。この竜の姿形なら、普通に殴り合えば充分リードを取れる。〚ヴォイドエッジ〛の連発は、動きが読まれつつある今、効果が薄い。精神干渉をバトンタッチで上手く凌いだようだけど、別にどっちの頭にも順繰りでかましてやればいいだけだ。それでボクが勝てる』
……腐っても、万年単位で生きてるだけはある。
挑発して乱そうと考えていたが、持ち直しやがった。
残念ながら、奴の指摘は事実だ。
さすがに基礎スペックの開きが大きすぎる。
何度か奇策を通して戦闘の体裁を保ってこそいるものの、冷静に対応されれば付け入る隙がねぇ。




