766.神話に幕引く者
「グゥオオオオオオオオオオオッ!」
「ガァアアアアアアアアアアアッ!」
〚胡蝶の夢〛で復活した俺は、それと同時に相方と共に雄叫びを上げた。
ちらりと左側を見る。
確かに、もう一つの頭が付いている。
アポカリプスなのに、双頭竜になってやがる。
は、はは、夢じゃなかったんだな。
マジで、相方が蘇ったんだ。
相方は俺の視線に気付けば、ニッと牙を見せて笑みを作った。
全てを理解はできてねぇけど、どうやらアイノスと対立して死者の世界に押し込められてる奴が、相方が死んだ際に、アイツに知恵とスキルを授けていたらしい。
そして、俺が〚胡蝶の夢〛で相方を引っ提げて復活した際に、そのスキルを手にできるように仕向けていたようだ。
そう、神聖スキル〚天道〛のレプリカだ。
元々はアイノスがシステムを悪用するため、神聖スキル持ちを都合よく生きながらえさせるためにでっち上げた、神聖スキルの紛い物だ。
ホンモン程効力はねえはずだが、俺の〚ラプラス干渉権限〛のレベルを上げ、〚最終進化者〛の称号を消し去るくらいの役には立ってくれたらしい。
「オネイロスの、自分の死をただの幻にする究極の幻影スキル、〚胡蝶の夢〛……そこまではいいとして、なんで、双頭竜に……?」
アイノスも全く想定外だったらしく、復活と共に咆哮を上げた俺達に対して、呆気に取られた顔を向けていた。
「でも……ああ、そうか、ラプラスの奴か。この世界のボクの権限を上回らないよう、〚ラプラス干渉権限〛は絶対に9以上にはならないようにロックを掛けておいたはず。それが突破されているということは、アレの干渉以外に有り得ない。鬱陶しい、無駄な足掻きをしてくれるよ」
アイノスが忌々しげに顔を顰める。
そう、アイノスの〚ラプラス干渉権限〛のレベルは9だ。
俺も先の夢の世界の中で、同じレベル9へと至った。
どう作用してくれるのかはわからねえが、状況打開の起点になってくれるはずだ。
「ただね、コードをボクが握ってる以上、何の意味もないことだよ。念には念を入れ、時間を止めてからキミ達を処分……」
そのとき、俺の手許に、ウィンドウ画面のようなものが複数展開された。
【〚イルシア〛が〚アイノス〛のコード〖PO88RE24〗の実行命令を破棄しました。】
アイノスの周囲に浮かび上がるウィンドウ画面のようなものに大量の文字列が流れ込み、めぐるましく変化する。
その後、色が明滅し、掠れて消えていった。
「コードが実行できない……? なんで……何が……」
アイノスが動揺を見せた。
あのとき、相方はああ言っていた。
『アイツのインチキは、ラプラスが全部引き受けてくれるらしいぜ』
恐らくラプラスは相方の精神、或いは魂に直接、〚天道〛のレプリカと共に、コードを妨害する文字列を発する仕掛けを仕込んでくれていたのではないだろうか。
あのコードが〚ラプラス干渉権限:Lv9〛で行っているものならば、同じことをするだけの権限を、既に俺は有している。
俺を媒介に、奴のコードを妨害することもできるはずだ。
そのとき、俺の身体が、急激に熱を帯び始めた。
身体の内部が熱に溶かされ、膨張する感覚。
これは、進化か……?
確かに復活したとき、俺の〚最終進化者〛は取り除かれていた。
迷っている猶予はねえ。
今はとにかく、身体を流れに任せるしかねえ。
【〖テュポーン:ランクG(神話級)〗】
【神話に幕を引くべく現れるとされる、巨大な多頭竜。】
【その忌むべき竜は、山を砕き、海を干し、星を砕き、そして神を喰らう。】
テュポーン……どうやら、それが俺達の新しい進化先らしい。
ここまで来たんだ、なんも怖気づくことはねえ。
俺は、やれることを全部やるだけだ。
身体が膨張し、爪がどんどん鋭くなっていく。
額に、大きな瞳が縦に開いた。
【特性スキル〖竜の鱗〗のLvが9からMAXへと上がりました。】
【特性スキル〖気配感知〗のLvが7からMAXへと上がりました。】
【特性スキル〖飛行〗のLvが8からMAXへと上がりました。】
【特性スキル〖竜鱗粉〗のLvが8からMAXへと上がりました。】
【特性スキル〖HP自動回復〗のLvが8からMAXへと上がりました。】
【特性スキル〖MP自動回復〗のLvが8からMAXへと上がりました。】
【所持している耐性スキルのLvが全てMAXへと上がりました。】
【特性スキル〖神ヲ裂ク爪:Lv--〗を得ました。】
【特性スキル〖神喰ラウ牙:Lv--〗を得ました。】
【通常スキル〖カオティックブレス:LvMAX〗を得ました。】
【称号スキル〖竜王:Lv--〗が〖竜ノ神:Lv--〗へと変化しました。】
【称号スキル〖神話に幕引く者:Lv--〗を得ました。】
【称号スキル〖最終進化者:Lv--〗を得ました。】
神話に幕引く、神喰らいの竜、か。
縁起がいいじゃねえか。
それともお膳立てされてんのかは知らねえが。
「もういい……とっととくたばりなよ!」
アイノスが魔法陣が浮かべる。
手許に浮かんだ〚グラビドン〛の黒球が、恐ろしい速さで俺目掛けて放たれる。
速い……避ける間もねえ!
【〚イルシア〛がコード〖XX64DW27〗を実行しました。】
【特性スキル〚大賢者の盾〛が発動します。】
俺の目前に光の盾が展開され、黒球を打ち消した。
あっぶねえ、反応できなかった。
どうやらギリギリでラプラスが防いでくれたらしい。
続いて、俺の周囲にどんどん、パソコンのウィンドウ画面のようなものが展開され、細かい文字列が走っていく。
【〚イルシア〛がコード〖FZ99QS07〗を実行しました。】
【経験値を9999999得ました。】
【〖テュポーン〗のLvが1から240へと上がりました。】
【〖テュポーン〗のLvがMAXになりました。】
な、なんだ今の!?
経験値999万!?
マジモンのチートじゃねえか。
どうやらコード合戦では、こっちに付いてるラプラスとやらに分があるらしい。
アイノスのコードは尽く弾かれ、こちらに有利なコードが次々に実行されていく。
【〚イルシア〛がコード〖JW03DC89〗を実行しました。】
【HP/MPが最大値まで回復しました。】
【〖イルシア〗にコード〖KG47FE】
メッセージが、途中でブツリと中断される。
この空間の空が割けていく。
アイノスが妙なコードを実行してからサイケデリックで不可思議な光が走っていたが、全てが黒に塗りつぶされて行き、元通りの世界へと戻っていく。
【〚アイノス〛により〖ラプラス干渉権限:Lv9〗が行使されました。】
【舞台裏の世界のデバッグモードを解除します。】
「本当にラプラスはふざけた真似をしてくれるよ。警戒はしていたけれど……アレに、これだけやらかしてくれる自我があったなんてね。ボクの行動が、さすがに世界を脅かすものとして認識されたということか」
アイノスが忌々し気に零す。
どうやら、奴がコード可能状態をついにブチ切ったらしい。
元々、あのインチキ臭いコードとやらは、デバッグモードを用いることで、この空間に限って一時的に可能になるスキルだったはずだ。
あのズルはここまでってことか。
だが、俺のレベルが最大なのは、どうやら変わらないらしい。
『お前が俺を弄ぶのに使ったデバッグモードとやらが利用されたらしいな。ザマァねえな、アイノス。お前みたいに余計なことやって力ひけらかしてる奴は、大抵それが裏目に出るんだよ。お前はレベル255だったか? 俺はレベル240だ。レベルも同じ、ラプラスの干渉権限も同じ、あの反則臭いコードももう使えねえ。ついに対等になったわけだ。玩具に過ぎなかった俺が、すぐそこまで来た気分はどうだ? お前もついに、安全圏じゃなくなったはずだ』
「今更になって、余計な手出しをするのか。ただのシステム……意思のない人形だと思っていたから、放っておいてやったのに。ふざけるなよ……ラプラス」
アイノスは憤怒に顔を歪ませていた。
もうちょっとビビってんのかと思ったが、それ以上に、ラプラスのこの騙し討ちは、アイノスにとって許し難いものだったらしい。
「対等? すぐそこ? ハッ、お笑い草だね。キミは依然変わらず、ボクの玩具に過ぎない。コードがある内に決着を付けられなかったラプラスのミスさ。浮かれて燥いでいる道化は滑稽だね。キミは、最後のチャンスを失ったところだというのに」
『その割には顔が引き攣ってるじゃねえか。もっと楽しそうにしてみたらどうだ? さっきまでみてぇによ!』
アイノスの表情が、一層険しいものへと歪んだ。
「今の言葉……ボクの従霊化した後も、忘れないことだ」




