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転生したらドラゴンの卵だった~最強以外目指さねぇ~  作者: 猫子


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763/763

763.コード

 コードとは一体何のことだ?

 何かわかるかもしれないと思い、俺はアイノスへと〖ステータス閲覧〗を向ける。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

神聖スキル:

〖修羅道(レプリカ):Lv--〗〖畜生道(レプリカ):Lv--〗

〖人間道(レプリカ):Lv--〗〖餓鬼道(レプリカ):Lv--〗

〖地獄道(レプリカ):Lv--〗〖天道:Lv--〗


コード:

〖KG47FE61:Lv--〗〖AJ12LQ56:Lv--〗〖PO88RE24:Lv--〗

〖TY29VX50:Lv--〗〖GH39BS10:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 俺は息を呑む。

 アイノスの神聖スキルの欄の下に、奇妙な文字列の羅列が鎮座している。

 この文字列……確かに先程のシステムメッセージで言及されていたものと同様のようだ。


 スキルの一種のようなものか?

 だとすれば、この詳細も覗けるはずだが……。


【コード〖KG47FE61〗】

【あなたのHP/MPの値は変動しない。】


 頭に浮かんだ文字列の意味が、俺は受け止めきれなかった。

 つまりこれは文面通りに受け取れば、アイノスは一切のダメージを受け付けない上に、いくらスキルを使ってもMPがなくならない、ということになる。

 スキルなんてもんじゃねえ。

 文字通り、これはただの反則だ。


 まさか、他のものもか?


【コード〖AJ12LQ56〗】

【あなたの肉体は欠損しない。】


【コード〖TY29VX50〗】

【あなたの全ての魔法スキルの発動時間・インターバルを0.0sにする。】


【コード〖PO88RE24〗】

【あなたは時間を止められる。】


【コード〖GH39BS10〗】

【特性スキル〖不死鳥の輝き〗を任意のタイミングで取得できる。】

【〖不死鳥の輝き〗は所有者のHPがゼロになった際に、HPとMPを完全に回復して肉体を再構築する。】

【その後、〖不死鳥の輝き〗は消滅する。】


 ふ、ふざけてやがるのか……?

 今までいろんなスキルを見てきたが、ぶっ飛んでいるにも程がある。


 言葉通り受け取れば、アイノスはダメージも受けないし、肉体的な損壊も発生せず、スキルはMP消費なしで、何発でも高速連続使用可能ということになる。

 挙げ句の果てには時間を止められ、万が一命を落としても復活し、その度に蘇生スキルを獲得することができる。


 俺は一体、何と戦おうとしていたんだ?


「さて、〚エストリグネ〛……と」


 アイノスが唱える。

 俺の身体を神々しい光が包んだ。

 俺の折れていた前脚や、翼、肉体の損壊が急速に回復していく。


 全身を支配していた熱や痛みが引いていく。 

 これは肉体を再生させる、〚リグネ〛の最上位か……?


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖イルシア〗

種族:アポカリプス

状態:通常

Lv :175/175(MAX)

HP :15371/15371

MP :84/12440

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 HPが回復している……?


『テメェ、何のつもり……!』


 俺が奴を睨んだ、その刹那だった。

 突如として現れた無数の魔法球の嵐が、俺の視界を埋め尽くした。

 魔法球は無尽蔵だと思わせるかのように、無限に連なって列を為している。


「コードで強化したボクのスフィアスキルだ」


 脳が目前の光景の理解を拒む。

 避ける間もなかった。

 轟音と共に、俺は全身の肉体が、細胞が焼き尽くされ、破壊し尽くされていくのを感じた。


 五感を感じなくなり、思考が消え、自分自身の存在が消えていく――。


「はい、〚エストリグネ〛」

 

 その声と共に、俺は目が覚めた。

 頭上では、アイノスが俺を見下し、気味の悪い笑みを浮かべていた。


「アハハハハ、いい表情だよ! それで、キミはまだ戦う気力があるのかな?」


 今のは、幻覚……いや、違う。

 恐らく『コード』とやらでMP消耗をゼロにして、インターバルを帳消しにした奴が、一瞬の内にアレだけの量の魔法スキルを展開しやがったのだ。

 その後、俺が死亡する直前に〚エストリグネ〛で俺を回復させたのだ。


 幸いというべきか、不幸というべきか、俺には〚英雄の意地〛がある。


【特性スキル〖英雄の意地〗】

【HPが半分以上残っている状態で致死量のダメージを受けた場合、必ずHPを一割残した状態で耐えることができる。】


 つまり、俺はどれだけのダメージを受けても、回復された直後であれば攻撃を耐えてしまう瞬間がある。

 恐らくアイツの『時間停止』のコードを用いれば、その瞬間を見極めて回復することができる。

 奴にとって俺は、嬲り甲斐のある、どれだけ甚振っても壊れない玩具というわけだ。


 周囲へ目をやる。

 大量の攻撃魔法の影響が、足場はボロボロになっていた。


 なんて出鱈目な力……そして、なんて悪趣味な野郎だ。

 この全能さと幼稚な残虐さは、正にこれまでのアイノスの振る舞いの象徴かのような能力だ。


 諦めるんじゃねえ。

 これは俺だけの戦いじゃない。

 命懸けで戦ってくれた皆……そして、これまで奴に踏み躙られてきた神聖スキル持ち達の想いを背負って、俺はここに立っている。


 相手が出鱈目な力を持ってるからなんだ?

 余裕振ってやがるなら、間違いなく俺にとっては最大の好機だ。

 どれだけ希望が薄くたって、必ず突破口を見つけてやる!


「〚プロミネンスフレア〛」


 頭上一面が、赤黒い魔法陣に覆われる。

 思考する間もなく、赤黒い巨大な炎の柱が、俺目掛けて落ちてきた。

 全身が焼け焦がされて行く。

 熱に焼け焦がされた肉と鱗が混ざる。

 なまじ頑強な体表のため、その内側に猛炎の熱が閉じ込められ、俺の肉体を内部から破壊していくのがわかる。


「……ア」


 叫びたいが、声も出なかった。

 代わりに自身の口や目から、炎が漏れ出る。

 それを最後に、俺の意識が消えていく。


「〚エストリグネ〛」


 その声と共に、俺の意識がまた戻ってくる。

 また肉体を回復されたのだ。

 俺が顔を上げる間もなく、今度は落雷の嵐が降り注いできた。

 落雷に俺の身体が砕かれ、自身の黒焦げになった四肢が宙を舞うのが見えた。


「〚エストリグネ〛」


 また、戻されてきた。

 これはもはや、戦いでもなんでもねえ。

 ただただ、俺に一方的に俺に苦痛を与えるだけの拷問だ。


 最初から同じ土俵に立ってねえことなんて、わかってたはずだ。

 なんで俺は、敵うかもしれねえなんて思っちまったんだ?

 あまりに次元が違う。

 アイツにとって俺は、紙に書いた落書きを破るようなものなんだ。


「アハハハハハハハ! さすがのキミでも堪えたみたいだね。どうだい、そろそろトドメを刺してくれと、そう懇願してみる気にはなったかな? ねえ、今、どんな気分だい? ボクと話していた頃の、強気だった自分の言葉は覚えているかな? ねえ、ねえねえ、ねえ!」


 アイノスが手を叩いて笑う。


 俺は息を整える。

 理不尽な戦いになるのは百も承知だったはずだ。

 これまでを思い返せ。

 敵が余裕振って、不用意に力を見せびらかしてるんだ。

 絶対にそこに付け入る隙がある。


「オオオオオオオオッ!」


 俺はアイノス目掛けて〚次元爪〛をお見舞してやった。

 空間を超越した爪撃が奴の胸部へと走る。


 アイノスの身体が僅かに上下したが、奴の身体には傷一つついていなかった。


「だからボクのHPは減らないんだよ」


 アイノスが俺へと指を向ける。

 俺の周囲に、大量の魔法陣が展開された。

 これは……。


「〚グラビティ〛」


 黒い光が走る。

 同時に生じた、重ね掛けされた強烈な重力場。

 通常の何倍か想像も及ばない強烈な重力の波が、無限に押し寄せてくる。

 アポカリプスの頑強なはずの体表が脆い硝子細工かのように砕け、拉げ、俺の全身から体液が勢いよく噴射する。

 意識が消える間際、全身の骨が細かく砕かれるのを、確かに俺は感じていた。


 そして次の瞬間には、俺の肉体はまた元通り、綺麗さっぱり復活させられていた。


「ああ、心地いい! ゾクゾクするよ! ボクは長く生きすぎたものでね。心や感性みたいなものはほとんど残っていないんだけど、やっぱり自分で造って、これまで追ってきた積み重ねがあるからかな? ボクに憎悪を向ける神聖スキル持ちを、一方的に嬲り続けるこの感覚には、堪えがたい愉悦がある。まだ折れないでくれよ、イルシアァ!」


 空間内に、アイノスの狂気染みた笑い声がこだまする。

 俺はそれを、どこか遠いもののように感じていた。


 これは絶対に勝てない戦いだった。

 俺自身が奴の最高傑作であるならばもう少しチャンスがあるかと思ったが、残念ながらそれは間違いだったのだ。


 この世界の絶対の管理者が、叛意を持っている相手に、自分の喉許へ届き得る力を許すわけがなかった。

 奴がコードを展開する前の〚リンボ〛が、最初で最後のチャンスだったのだ。

 警戒されている上に見透かされていたので、あんな発動の遅いスキルが当たるわけがなかったのだが、それでもあそこにしか希望はなかった。


「さて、さすがに心が折れて……」


「オオオオオオオオオオッ!」


 俺は這い蹲っていた姿勢から起き上がり、奴へと〚次元爪〛の連撃を放った。


 激しい爪撃の嵐の中、アイノスはきょとんとした表情で俺を見下ろしていた。

 この期に及んで立ち上がる俺が、まるで理解できないというふうだ。


 俺を動かしていたのは、ただの意地だった。

 希望がないことはもう、嫌という程わかっていた。

 だが、それでも、俺に託してくれた全ての者達のために、自分から折れるわけにだけはいかなかった。


 元々、俺のMPは風前の灯火。

 回数を重ねるごとに、目に見えてその威力は衰えていく。

 〚次元爪〛はアイノスの身体を数発小突いた後、本当に何も出なくなった。

 身体が一気に重くなり、酷い眠気に襲われる。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖イルシア〗

種族:アポカリプス

状態:通常

Lv :175/175(MAX)

HP :15371/15371

MP :0/12440

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ついに、俺のMPが完全に尽きていた。


「オ、オオ、オオオオ……」


 腕が地面へと垂れる。

 これ以上は……本当にもう、何もできない。

 せめて〚次元爪〛ではなく、一撃でアイノスを葬れるかもしれない〚リンボ〛にMPを使うべきだったかもしれない。


「ああ、イルシア……いい、キミはいい! なんて心の強さだよ。ここまでか、これ程までとは、本当に思わなかった! キミの心の強さ……誰かを想う気持ちを感じる度、その痛ましさに、ボクの凍てついていた心が熱を帯びるのを感じる!」


 アイノスの笑い声が響く。


「キミの尊厳の全てを、ボクに奪わせろ」


 頭上の空間に、無数の槍が浮かび上がる。

 雨の如く降り注いだそれが、俺の全身を貫いた。

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― 新着の感想 ―
めちゃめちゃ難易度上がったように見えて、勝ち筋が元々発動に時間のかかるリンボしか無いからあんまり変わってないな。 リンボはダメージ与えるタイプの魔法でもないし。
 そんなコードがあるなら確かに元の世界に帰りたいと思うだろうなぁ、今の世界は仮想ですって言っているようなものだし。
アイノスの能力についてはまあこの程度は当然やってきますよね一応同じ世界に存在するだけ予想よりはマシかな? 神の声甘く見過ぎだったのはイルシアは元々楽観的な性格だから仕方ないとも思いますがミーアはもう少…
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