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転生したらドラゴンの卵だった~最強以外目指さねぇ~  作者: 猫子


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762/763

762.全能なる者

 俺は〚竜の鏡〛から姿を現すと同時に〖ヘルゲート〗をお見舞してやった。

 刹那の内に、周囲一帯が地獄の炎に包まれていく。

 巨大な骸を模した黒い炎が立ち上がり、アイノスへと倒れ掛かっていく。


「なんだ、そこにいたのか! ハハハハハ! ボクの視界から逃れた瞬間、〖竜の鏡〗で存在を消していたんだね! でもこの程度の炎、ボクには効かないよ!」


「グゥオオオオオオオオッ!」


 黒い炎に合わせ、俺は右前脚を全力を以てアイノスへ叩き付ける。

 アイノスの翼が閉じるように折り畳まれ、己の身体を守る。

 俺の爪は、奴の翼に傷一つ付けられなかった。


 次の瞬間、自身の爪と前脚の血肉が爆ぜ、全身に衝撃を受けて俺は後方へと吹き飛ばされた。

 どうやら勢いよく開かれたアイノスの翼が、俺の巨体を突き飛ばしたらしい。

 俺は無防備に身体を打ち付けながら転がり、地面の上に倒れることになった。


 これで正真正銘……HPもMPも、もうほとんど空っぽだ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖イルシア〗

種族:アポカリプス

状態:通常

Lv :175/175(MAX)

HP :104/15371

MP :181/12440

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 俺にできることはもう何もない。


「いや、凄い凄い。キミは本当に素晴らしいよ、誇るといい。キミは最後の最後まで無謀な戦いに死力を尽くし、このボクを一手出し抜くことさえ可能にしたんだ」


 アイノスは簡素な拍手を送った後、憎たらしげに目を細める。


「だから、これからボクに蹂躙されて利用され尽くす、憐れなキミの仲間達も、きっとキミのことを許してくれるはず……」


 アイノスがそこで言葉を途切れさせる。


 奴の周囲を神々しい光が覆っていた。

 終末の竜アポカリプスの魔法スキル〖リンボ〗だ。

 本来は発動までに時間が掛かるため、格上には決して当たらないスキルだ。


 しかし、〖竜の鏡〗によって一切の前兆なしに〖ヘルゲート〗と同時発動された上に、ド派手な黒炎とそこに練り込まれた膨大な魔力、そして俺の全力を込めた爪の一撃が、アイノスから〖リンボ〗の存在を覆い隠していた。


 アイノスが飛び立とうとするが、白い光が奴の身体へ纏わりつく。

 纏わりついた光は、アイノスを光の中へと呑み込もうとする。

 アイノスの顔色が変わった。


「嘘だろ……まさか、このスキルは……!」


 俺にできることは、もう全てやった。

 後は、最後の賭けがどうなるかを見守るだけだ。


『これまでの罪を償いやがれ、アイノス!』


 俺の念話に呼応するように〖リンボ〗の光が強くなり、アイノスの身体が薄れていく。

 成功したのかと俺が息を呑んだ、その刹那だった。


「はい、〖レジスト〗」


 〖リンボ〗の光が広がったかと思えば、光は薄れて消えていった。

 中央には薄ら笑いを浮かべるアイノスが浮かんでいる。


 〖レジスト〗……魔法を打ち消す魔法スキルだ。

 ヨルネスが使っていたのを覚えている。

 魔法力で俺を圧倒的に上回っているアイノスなら、俺の魔法程度いくらでも易々と消し去ることが可能だろう。


 全ての魔法を使えるのだから、このスキルを使えることも頭に置いておくべきだった。

 しかし、だとしても、他に取れる手なんてなかっただろうが。


「アハハハハ! 当たり前じゃん! キミの持ってる中で唯一ボクを倒せるスキルなんだから、警戒していなかったわけがないだろうに! ボクの不意を突けるタイミングで使ってくるだろうことは、戦う前からお見通しなんだよ! ボクだって馬鹿じゃないんだからさぁ! だとしても、いや、本当に当てられそうになっちゃうなんてねえ! ちゃんと戦いになっているじゃないか。対処法は考えていたけど、こんな形で仕掛けてくるなんて、ほんの少しだけヒヤっとしたよ。このボクが、この世界の住人に命を握られうるときが来るなんてね! ああ、ゾクゾクする……久々に生を実感させてもらった。こんな感覚、本当に何万年振りか! アハハハハハ!」


 〖リンボ〗が対応された今……俺にはもう、何の手札も残っちゃいねえ。

 アイノスのHPを正攻法で空にする方法なんて、とてもじゃねえが思い付かない。


「さすがのキミももう疲れただろう。ゆっくりと眠り……微睡の中で、ボクの人形となるといい」


 アイノスが俺へと指を向ける。


「グゥオオオオオオオッ!」


 俺は起き上がり、血塗れの右前脚を振るって〖次元爪〗を放った。

 アイノスの立てた指を弾く。

 奴の胸部に亀裂が走った。


 俺に勝ち目なんて、最初からなかったのかもしれねぇ。

 俺は象に噛みつく蟻に過ぎなかったのか。


 だとしても、俺は俺が生きている限り、絶対に諦めるわけにはいかねえ。

 まだ意識が残っている。

 まだ腕が動く。

 とっくにこれはもう、俺だけの戦いじゃねえんだ。

 この世界と、過去の神聖スキルの所有者達と、そして俺を信じて戦ってくれた仲間達の全てが懸かっている。


 アイノスが口にした通り、この世界が歪であることは、きっと間違いはない。

 だからこそ、何が起きるかわからないからこそ、最後の最後まで俺にチャンスがあるはずだ。


「まさか、まだ戦意があるのか? まだ心が折れていないというのか! 本当にキミは、不屈としか言いようがない」


 アイノスが目を見開き、興奮げに叫ぶ。


「いいよ、キミの頑張りに免じて教えてあげよう。ボクの奥の手を……そして、本物の絶望をね」


 アイノスが宙へと浮く。

 奴の周囲に、ゲームのウィンドウのようなものが大量に展開された。


「ここまでしなくてもいいんだけど、どうしてもキミの魂を屈服させたくなった。たっぷりと楽しんでくれ」


 今まで以上に嫌な気配がする。

 このまま奴の力の行使を許しちゃいけねえ。


 俺は〖次元爪〗をアイノス目掛けて放った。

 奴の姿が消え、更に上空に瞬間移動する。

 二発目をお見舞いするも、掠りもしない。

 アイノスは展開した大量のウィンドウをそのままに、事もなげに対応していく。

 まるで捉えられない。


【〚アイノス〛により〖ラプラス干渉権限:Lv9〗が行使されました。】

舞台裏の世界(バックワールド)を一時的にデバッグモードへと上書きします。】

【権限者へコードの実行を許可します。】


 何の話だ……?

 不穏な言葉が次々に俺の頭の中に浮かんでいく。


 真っ暗だった空を、サイケデリックな妖しげな光が支配する。

 不気味な光は大きな渦を巻く。

 せわしなく光るそれが、俺にはまるで、俺の無謀を嘲笑う声の嵐のように感じた。


「制限はあるけれど、このエリアに限り、一時的に六大賢者の行使していた力を取り戻すことができる。ここで戦ったのが運の尽きだったね。いや、どちらにせよ何も変わらなかっただろうけど。キミがどこまで、その魂の輝きを示せるのか、見せてもらうよ」


 アイノスを覆うウィンドウの数がどんどん増えていく。


「コード取得申請……と」


【〖アイノス〗にコード〖KG47FE61〗を付与しました。】

【〖アイノス〗にコード〖AJ12LQ56〗を付与しました。】

【〖アイノス〗にコード〖PO88RE24〗を付与しました。】

【〖アイノス〗にコード〖TY29VX50〗を付与しました。】

【〖アイノス〗にコード〖GH39BS10〗を付与しました。】


 なんだ……?

 何が起きようとしていやがる。


「これだけあればいいか。管理者に刃向かうことの意味を教えてあげるよ。キミはいつ、殺してくれと懇願するかな?」

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― 新着の感想 ―
相方に期待したい
スタッフルームをデバッグルームに塗り替えたわけか ゲーム的な事を考えるなら付与したのは改造コードかな…?
リンボで倒せるのは意外だった。
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