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710.聖堂での戦い(side:アドフ)

 アドフとディランは古の勇者アーレスに挑むべく、聖堂へと向かった。


 聖堂の内も外も、アーレスへ祈りを捧げ続けることを強要された人達と、彼らを見張るアーレスの生み出した醜い鬼達だらけであった。

 アドフ達は襲って来る鬼を斬り捨て、奥地へと向かっていく。


「……ったく、敵の親玉はこの奥だってのに、既に満身創痍だぜ」


 ディランは背を廊下の壁に付け、溜め息を吐いた。


「ディラン、お前なら一人でも砂漠を抜けられる。今からでも……」


「冗談だぜ。ここまで付き合って、怖くなったから帰りますじゃ、格好が付かねぇよ。ハレナエ兵の奴らに笑われちまう。残りてえって騒いでた、奴らの想いも背負ってんだ。確かに俺様は半端モンだが、今更逃げ帰れるかよ」


 ディランは血を吐き出し、壁に凭れていた身体を起こす。

 通路の奥へと歩き出した。


「それに俺様は諦めてねぇぞ。アドフの兄貴と俺様で、勇者アーレスだかぶっ飛ばして、そのままハレナエの英雄になっちまうって方をよ」


「……ああ、そうだな」


 アドフは微笑むと、ディランの後を追って歩みを再開した。



 通路奥の扉を開ける。

 荘厳な聖堂のホールに、ぐるりと円状にハレナエの民が並ばされていた。

 そしてその中心には、天使のステンドグラス越しの光に照らされる、鎧の巨漢が立っていた。

 古の勇者ことアーレスである


 開けられた扉に反応して、ハレナエの民らの視線がアドフ達へと集中した。

 ただ、アーレスを恐れてか、声を上げる者は一人もいなかった。


『我が祝祭を遮るのは何者だ?』


 アーレスの兜がアドフへと向けられた。


「ハレナエの元騎士団長アドフだ。勇者の名を騙り、この地の民を虐げるお前の凶行を止めるべく、この聖堂へと参上した」


「な、流れの剣士、ディランだ! 化け物、貴様をぶっ殺しに来てやったぞ! 勝負しやがれ!」


 アドフとディランが、アーレスへと剣を向ける。


『オレは偉大なる勇者アーレス……武の神とも称される存在なり。己が竜に楯突く蟻だと気付けぬとは、なんと憐れな存在よ。怒りや呆れの感情さえ湧き上がらぬ』


 アーレスは首を振る。


「なんだと、化け物が……!」


 ディランが怒りに声を震わせてそう叫ぶ。


『とはいえ、グール共を蹴散らしてきたのは本当らしい。減っているようではあったから倒されているらしいとは思っていたが、ここまで来るとは。矮小な人の身なりには多少やるようだ。ちょっとした暇潰しにはなるか』


 アーレスは手首を曲げて鎧の関節部を晒すと、そこへ躊躇いなく剣を突き刺した。

 赤黒い血が床へと落ちる。


「なっ、何の真似だ!」


 突然の自傷に、驚いたディランが叫ぶ。


「これは奴の鬼を生み出すスキルだ! 構えろ、来るぞ!」


 アドフがディランへ警戒を促す。

 彼はアーレスが、ハレナエに現れてすぐにグラトニー・グールを生み出したときの光景を覚えていた。


 血溜まりはどんどんと広がり、膨れ上がっていく。


『〖分離獣〗……グラトニー・オルトロス』


 アーレスの血が、四メートルはある赤黒い獣へと変貌した。

 双頭の獣の犬が、アドフとディランを見下ろす。


「グゥウウウ……」


 オルトロスが唸り声を上げる。

 アドフ達の登場には声を押し殺していたハレナエの民達も、この化け物の出現には悲鳴を上げていた。


『この世界の全ては、絶対的な存在であるこのオレを楽しませるためだけに存在するべきなのだ。せいぜい戦士らしく足掻き、オレを楽しませる余興となれ。オレの御前で戦えることを光栄に思うがいい。簡単に死んではくれるなよ』


「あ、明らかに鬼共とは格が違う……。こんな化け物まで生み出せたのか」


 ディランは額に汗を浮かべた。

 彼が鬼と呼ぶグラトニー・グールでさえ、一体一体がハレナエ兵以上の化け物だったのだ。

 こんな事も無げに、それを遥かに上回る化け物を生み出せるとは思いもしなかった。


 そもそもアーレスは、この期に及んでこれを自身の戦いだとは一切捉えていない様子である。

 言葉の通りにこの場をただの余興としてしか見ていないことは、彼の態度から明らかであった。


「ディラン……ここまで来たんだ! もう逃げることもできんぞ!」


「わ、わかってるぜ、アドフの兄貴! 言われなくてもとっくに覚悟なんざできてらぁ!」


 オルトロスが地面を蹴り、アドフ達の前へと飛んできた。

 着地の衝撃で床に大きな罅が走った。


「〖衝撃波〗!」


 アドフの放った剣撃が、オルトロスの胸部を斬った。


「当たった……!」


 ディランが喜ぶが、すぐにその顔が曇った。


『愚かな……オルトロスが、その程度の攻撃が避けられないはずがあるまい。避ける必要がないと、そう見切ったのだ』


 オルトロスは胸部に〖衝撃波〗を受けたが、全く血が流れていなかった。

 外皮に微かに傷が走っている程度である。


「オオオオオオッ!」


 オルトロスが上体を浮かせてから、二本の前脚で勢いよく床を殴打する。

 ホール全体が激しく揺れ、床に亀裂が走った。

 地面に衝撃波を伝えて攻撃する、〖地響き〗のスキルであった。


 近距離にいたアドフとディランは衝撃に吹き飛ばされ、ハレナエの民達を巻き込みながら壁へ叩きつけられることになった。

 民達が悲鳴を上げ、一斉に入り口の扉へと駆け込んで逃げて行く。

 扉の周囲で押し合いが起きた。


「命張ってきたのに、使い魔相手に手も足も出ねぇなんて……クソ」


 ディランが呻く。


『つまらんな……多少は抗うかと思ったのだが、こんなものか。これほど無様な戦いを見ることになるとは興覚めだ。よくもこの程度でオレに挑む気になれたものよ』


 アーレスはそこまで言い、扉へと手を翳した。


『このオレの余興に無粋な奴らよ。〖クレイウォール〗』


 土の壁がせり上がり、扉を封じると同時に、周囲にいた人間を天井へと押し潰した。

 血と肉、人間の残骸が扉の周囲に零れ落ちる。


『フン、逃げようなど無意味だというのに。どうせ近い内にこの世界の全てがオレのモノになるのだからな』

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― 新着の感想 ―
[一言] 竜に楯突く蟻ね〜 この世界では逆もあり得るんだけど、、、、、
[一言] あくまでも比喩表現だから…それに赤蟻が異常だっただけで普通の現実と同じサイズの蟻もいるかもしれないから…(震え声)
[気になる点] ドラたま世界じゃどう言えば正解なんだ? 高位ドラゴンに挑むダークワームとかかな?
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