70.進化先
暗い洞穴の通路を歩く。
目を凝らして先を見ると、ミリアがあたふたとしているのが微かに見えた。
ミリアは移動しようとして壁に頭をぶつけ、その場に転び……あれ、ひょっとして目、まったく見えてなくね?
……俺は見えるけど、ドラゴンだもんな。
人間の目とちょっと違うのかもしれん。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
何事もなかったのなら結果オーライだ。
むしろ洞穴の中に暗くて見過ごしている魔物がいたりしなかっただろうかと少し不安だったのだが、そんな心配はいらなかったようだ。
とりあえず、進化先を見せてくれ。
歩きながら念じると、頭に文字列が浮かび上がってくる。
【進化先を表示しますか?】
うむ、頼んだ。
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【未来】
〖ヨルムンガンド〗:ランクC+
〖リトルアークドラゴン〗:ランクC
〖アーティフィシャルドラゴン〗:ランクC-
〖ローリングドラゴン〗:ランクC-
〖ダルクドラゴ・ヒューマ〗:ランク--
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【現在】
〖厄病子竜〗:ランクD+
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【過去】
〖ベビードラゴン〗:ランクD-
〖ドラゴンエッグ〗:ランクF
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今回の進化先は五つか。
〖厄病竜〗はないんだな。
いや、なくていいんですが。
うし、下から詳細を頼む。
【〖ダルクドラゴ・ヒューマ:ランク--〗】
【下級竜人。モンスターではなく、第二亜人種に分類される。】
【身体が黒い鱗に覆われている。】
え……じ、実質人間ってことかそれ?
い、いいのか?
竜人だったら……〖人化の術〗使わなくたって人と話せるし、村に入っても矢で撃たれねぇのか?
ま、まぁ、色々思うところはあるが、とりあえず全部チェックしよう。
【〖ローリングドラゴン:ランクC-〗】
【強さよりも速さを取ったドラゴン。】
【その速度を常人の目で追うことはできない。】
【ドラゴン界のスピードスター。】
……速さってか、絶対〖転がる〗だよな。
確かに〖転がる〗は好きだけどさ、そこまで猛プッシュされても困るっつうか……。
でも、今まで闘ってきたけど、結局一番大事なのって素早さな気もするんだよな。
大猩々も、最後にはHPも攻撃力も捨てて素早さ取ってきたわけだし。
当たらなきゃ痛くねぇっていうのは結局真理っつうか。
だからこそ〖転がる〗使い倒してきたってところもあるし……切り捨てるのは早計か。
【〖アーティフィシャルドラゴン:ランクC-〗】
【六つの器用な手を持つドラゴン。】
【顔には仮面のような甲羅が生え、頭部への攻撃を防ぐ。】
【素のステータスは低いが、武器を自在に操ることができる珍しいドラゴン。】
器用な手か……物作るときとかに役に立ちそうな感じはするな。
武器の有用性は猩々でわかってるし、六本で別の武器装備とかはなかなかロマンを感じる。
が、身体の一部が増えるということに対する忌避感は半端ない。これはちょっとキツイな。
ツインヘッドみたいに頭じゃない分まだマシかもしんねぇけど。
【〖リトルアークドラゴン:ランクC〗】
【光属性のドラゴン。】
【非常に高い知能を持ち、白魔法や光魔法を使い熟す。】
【大昔、移動の手段として勇者が使役していた、という伝説もある。】
リトルは強い分、成長が止まるんだっけな……。
勇者が乗ってたって伝説があるなら各地で神聖視されてそうだし、案外悪くない気もする。
白魔法ってのもありがたい。多分、回復魔法のことだろう。
攻守に優れた光のドラゴンとか、よく厄病子竜からこれが選択肢に出てきたな。
正反対じゃねぇか。
〖ちっぽけな勇者〗のお蔭か?
【〖ヨルムンガンド:ランクC+〗】
【別名、毒蛇竜。図太い蛇のような姿を持つ。全身が致死性の猛毒を帯びた鱗でできている。】
【戦闘能力は低いが、闘った相手は必ず毒で死ぬと言われている。】
【吐き出した毒を魔物に変え、使役する能力を持つ。】
【このモンスターが通過した土地は、二度と草木が生えないといわれている。】
ああ、これ駄目な奴だ……。
今回のゲテモノハズレ枠だな。
前回のハズレ枠? 勿論、厄病子竜だ。
存在自体が害悪みたいなヨルムンガンドよりはマシかもしれんけど。
〖アーティフィシャルドラゴン〗はナシで、〖ヨルムンガンド〗は論外だな。とりあえず。
ムカデドラゴンとか嫌だし、毒蛇竜とかもう絶対嫌だし。
何がC+だ。
こんなもん誰が選ぶか。
素早さ重視の〖ローリングドラゴン〗か、成長が止まる以外はベストな〖リトルアークドラゴン〗か。
……それとも、人の姿になる〖ダルクドラゴ・ヒューマ〗か。
人間が進化とか想像し辛いし、〖ダルクドラゴ・ヒューマ〗になったらもう進化とかとは無縁になるんだろうか。
人間になっても、黒蜥蜴は受け入れてくれるだろうか。
普通に人里に馴染めるようになったとしたら、黒蜥蜴に会いに行ける機会は減るか、もしくはなくなっちまうんじゃないだろうか。
悶々と考えながら歩いていると、洞穴の壁にぶつかりそうになった。
危ねぇ危ねぇ、つーか、ミリアの姿が見当たらねぇぞ。どこに行った?
「είναι υπό……」
下から声が聞こえてきたので、俺は足許を見る。
ミリアが俺の足のすぐ真横に伏せていた。
暗闇の中歩き回ろうとして盛大に転んだまま、起き上がる機会をなくしていたらしい。
うおっ! ちょっとずれてたら踏んでるところだった!
ミリアを背負って洞穴の外へと出る。
とりあえず進化のことは一旦忘れ、ミリアからなんとか事情を聞きだしてみるか。
進化先はもっと慎重に考えたい。
それに姿が変わったら俺だと認識されなくなる可能性もあるので、できれば黒蜥蜴の前で進化したい。
もっとも村人に見つかりそうになったりと事態が変われば、急な選択を迫られるときが来るかもしれないが。