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67.少女の悲鳴

 今日は黒蜥蜴と一緒に狩りをすることにした。


 本当は陶芸担当の猩々に引っ付いて一日中壺やら石像やらを作りたかったのだが、朝からぴったりと黒蜥蜴がくっついてきて離れようとしなかったのだ。

 猩々が来てからずっと放置だったから黒蜥蜴も暇なのだろう。


 これ以上黒蜥蜴を放っておくのも何だと思い、俺は新たな職と洞穴の強化、経験値の獲得による進化のための狩りに出ることにした。



「キシ……」


 が、黒蜥蜴はあんまし嬉しそうじゃねぇ。

 むしろこう、あからさまに不満を押し殺してる顔をしてやがる。


 なんか間違ったかな俺?

 後ろを着いてきている猩々共はあんなに嬉しそうだというのに。


「アーア、アオ!」「アオッ!」

「アーオ!」「ア、ア!」


 猩々はスコップ、ハンマーを手に意気揚々と歩いている。

 武器を使いたくて仕方ないらしく、ぶんぶん振り回しながら目を光らせて獲物を探している。


 〖ステータス閲覧〗で調べた結果、スコップは〖攻撃力+18〗、ハンマーは〖攻撃力+28〗のステータス補正が掛かるようだった。


 〖攻撃力+28〗はかなりデカい。

 猩々の攻撃力が三割近く跳ね上がる。


 俺もそれを知ってスコップを振り回してみたのだが、どうにも戦闘の邪魔にしか思えなかったので、結局素手で戦うことにした。

 やっぱり道具は霊長類の利点だな。

 俺も猩々の暴れっぷりが楽しみだ。


「キシ……」


 黒蜥蜴が恨めし気に鳴き、嘆くように空を仰ぐ。

 なにがそんなに気に喰わねぇんだ?

 やっぱり言葉をコミュニケーションの媒体として使えないというのは苦しいものがあるな。



 魔物を狩ったり、価値のある植物を猩々に教え込んだりしながら道中を歩く。


 しかし、数は力だな。

 猩々が頼もしすぎる。

 スコップの一振りでグレーウルフの首がすっ飛んでったぞ。

 あれ完全に凶器だな。


 収穫は飽和状態なのだが、ほとんど手出しできてないせいか、ぜんっぜん経験値が溜まらない。

 つーか、木で籠作った方がいいな。 

 すぐ手がいっぱいになっちまう。


 そろそろ引き返すかというとき、俺はほとんど無傷だった。

 つーかこれだけ狩っても経験値……まぁ、俺何もしてないんですけどもさ。


 黒蜥蜴も不服さを隠す気もない。

 ジロジロと俺を見てくる。

 今度は、猩々は番させて狩りに来るかな……。



 洞穴に戻るため踵を返したところで、耳に人の叫び声が微かに聞こえてきた。

 助けを求めるような、そんな声だった。

 この声は以前にも聞いたような……ミリア?


 また森に来ていたのか?

 前回の様子では、嫌々連れてこられてたって感じに見えてたんだが……なんで……。


 助けに行こうかと思ったのだが、後ろで武器を持って荒ぶっている猩々達と、黒蜥蜴が難点だった。

 助けに連れてったらそのまま交戦になっちまいそうだな……。

 こいつらは頭がいいから言えば聞くだろうけど、向こうが攻撃して来たら我慢なんてことはしねぇだろうし……俺が単独で向かった方がいいか。

 ミリアだけだったら攻撃はして来ないだろうが、一人とは限らない。

 それに俺も、あの頃の姿とは違うわけだし。


「ガァッ!」


 俺は叫んでから、声の方へと走り出す。

 すぐ後を猩々が追い掛けてくる。


「ガァァァアッ!」


 怒声を込めて叫ぶと、猩々が足を止める。

 俺は後ろを向きながら、洞穴の方を腕で示す。


「ア、アア……」


 事情はわかっていないはずだが、俺の意図は伝わったらしい。

 猩々達は足を止める。


「キシィッ!」


 猩々は止まったが、黒蜥蜴は止まらなかった。


 黒蜥蜴は猩々より頭が良さそうだから、俺の意図なんてすぐ察してくれると思ったんだがな。


 今はゆっくり説得している時間はない。

 こうしている間にも、ミリアが魔物に喰い殺されるかもしれねぇ。


 俺は〖転がる〗で急加速し、態度であからさまに黒蜥蜴を拒絶する。


 黒蜥蜴も〖転がる〗を使い、俺を追ってくる。

 ああ、もう!

 今はレースなんかしてる場合じゃないんだっつうの!


 だが、この地形なら黒蜥蜴は俺に追いつけないはずだ。


「キシッ! キシィッ!」


 距離が広がらねぇ。

 地形の把握能力、判断速度、テクニックで差をつけても、簡単なコースを見つけては元々の素早さを活かして追いかけてくる。

 あんな無茶してたら、その内木に衝突するぞ。


 追って来づらいよう、フェイントを交えて左右に揺れる。

 難しいコースを選び、俺は難所で身体を弾ませて宙へ跳ね、回避する。


 対応しきれなかった黒蜥蜴が、岩と衝突した。

 〖転がる〗が解除され、黒蜥蜴の身体が宙に投げ出され、地面に叩き付けられる。


「キシ……キシ……」


 俺は慌てて急停止し、黒蜥蜴に駆け寄る。


「ガァッ!」


 おい、大丈夫かっ!


「キシ……」


 …………。

 黒蜥蜴は力なく鳴くが、HPは充分に残っている。


「…………っ!」


 また、ミリアの叫び声が耳に入ってくる。

 このままだと、手遅れになる。


 俺は黒蜥蜴の背を撫でて、小さく頭を下げ、それから声の方へと〖転がる〗で移動する。

 走っている途中、罪悪感がのしかかってくる。


 俺は、俺は、間違ってはいないはずだ。

 人間の救出に魔物を連れて行ったら、ややこしいことになるリスクが高い。

 転んだ怪我を負った黒蜥蜴、魔物に喰われそうなミリア、後者の方が危機は高いはずだ。


 俺は自分への攻撃を許容できる自信はある。

 辛いが、仕方ないとも思う。

 俺が人間だったら、ドラゴンが寄って来たら、きっと同じように武器を手に取っていただろう。


 でも猩々は、黒蜥蜴は、そうではない。

 外敵を、全力をもって倒そうとするだろう。

 いつもの俺が、魔物に対してそうするように。


 今回の出来事は、まだ小規模なことなのかもしれない。

 でもこのまま宙ぶらりんな姿勢を続けていれば、きっと魔物と人間の狭間で、今よりずっと大きな選択を迫られることもあるかもしれない。


 俺は、どうしたいんだ?

 まだ俺は人間になりたいのか? それとも、今のままで満足しているのか?


 ぐるぐるぐるぐる、思考が回る。

 答えが出ないことに気付いて、俺は頭の中を意図的に真っ白にし、ただ無心にミリアの声へと走る。


【称号スキル〖ちっぽけな勇者〗のLvが2から3へと上がりました。】

【称号スキル〖悪の道〗のLvが3から4へと上がりました。】

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