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518.好戦の翳り(side:トレント)

 ヴォルク殿はレチェルタ殿に跨り、空の憎きリリクシーラの尖兵の群れへと飛び立っていった。

 私はアロ殿、アトラナート殿と共に、地上付近へ降りて来た連中を迎撃することが役目である。

 以前は戦力外通知を受けて鉱山に取り残された私ではあるが、この戦いでは必ずや主殿の期待に応え、左首の主殿の仇を討ち、アロ殿とアトラナート殿を守ってみせる。


 私が今の姿へと進化したのはきっと、仲間を守りたいという私の考えが、形になった結果なのだから。

 ここで奮戦せねば、意味がない。

 私は、力も速さもさほど高いわけではないが、アロ殿やアトラナート殿よりも打たれ強さだけは勝っているのだから。


「トレントさんっ!」


 アロ殿が声を掛けて来る。

 私は身体を曲げ、首肯を示す。

 わかっておりますぞ、アロ殿。

 攻撃は全て、この私が引き受けましょう。

 この私の、〖タイラント・ガーディアン〗の本領を発揮するときがついに来たようですな。


「〖フィジカルバリア〗、早くお願い! アトラナートにも! ほら、敵がそこまで来てる!」


『む……そうでしたな』


 ……私が全てカバーしきることができれば一番いいのだが、敵は多勢。

 保険を掛けて動くのは必定であった。


「終わったら、トレントさんは私の後ろに隠れて! 木霊の姿だと、頑丈さと力が減少してるはずだって、竜神さまが言ってたから!」


 むむむ……?


『アロ殿……私はそろそろ、元の姿に戻ろうかと……』


 アロ殿が驚いた様に口を開け、勢いよく首を振るう。


「だっ、ダメ! トレントが元の大きな姿に戻ったら、すぐに囲まれて的にされちゃう!」


「……アノ馬鹿デカイ図体デハ、攻撃ヲ避ケラレナイダロ」


 アトラナート殿も、我へと面を向けてそんなことを言う。


『しかし、しかし、我々の中で、もっとも耐久力に優れた私ならば……!』


「ソコマデノ差デハナイ。第一、耐久力デハオ前ヨリ、ヴォルクノ方ガ上ダソウダ」


 …………そ、そうであったのか。

 知らなかった。


 私は頭上を見上げる。

 竜騎兵の数は、ざっと二十と少しといったところであろうか。

 ……確かに、あの竜騎兵の四人くらいが私を狙って同時に動けば、その時点で私は駄目かもしれない。


『…………まぁ、はい。し、しかし、でしたら私は何を?』


「えっと……ま、魔法、使えるの、その姿?」


 アロ殿が恐る恐ると私へと尋ねる。


『そっちは、はい、できそうですな。しかし、〖地響き〗や〖熱光線〗は、このままでは少し厳しいかと……』


「じゃあアトラナートの随時の回復と、私と並んで魔法攻撃をお願い!」


『…………はい、わかりましたぞ』


 もう少し私は、身体を張りたかったのですが……。

 い、いや、しかし、できないことは仕方がない。


 私はアロ殿とアトラナート殿に〖フィジカルバリア〗の魔法を掛ける。

 これで、アロ殿とアトラナート殿は、物理攻撃に対する耐性が一時的に上昇する。

 また効果が弱まった頃合いを見計らい、掛け直すとしよう。

 ……正直私には、それくらいしかできることがないのだから。


 私は背の小さな翼をはためかせて宙に浮き、アロ殿の背後で滞空する。

 アロ殿が少し振り返り、私を二度見した。


『何かありましたかアロ殿?』


「ごめんトレント、気が散るから地上にいて……」


『も、申し訳ございませぬ』


 私が地上に降り立ったのと同時期に、ヴォルク殿が遠くで竜騎兵を斬ったのが見える。

 ついに、戦いが始まった。

 十程度の数の竜騎兵達が、一気に我らの許へと接近してくる。

 アロ殿が空へと向けて魔法攻撃を放つ。


「〖ゲール〗!」


 暴風が吹き荒れて竜巻を生じさせ、それが天へと向かう。

 だが、空は逃げ場が多く、騎竜は速いために狙いを付けるのが難しい。

 騎竜達は綺麗に分かれ、竜巻を避けていく。


『惜しかったですな……もう少し、引きつけた方がいいかもしれませぬぞ』


「でも、これでだいたいの速さはわかった。あれくらいなら、対応できそう。フェンリルの方が、速かった」


 アロ殿は外しても動揺することなく、そう言い切った。

 さすがアロ殿、心強い……。


「接近されるまでは、私が〖ゲール〗で牽制する! トレントとアトラナートは、〖ゲール〗で崩れた竜騎兵を狙って!」


『わ、わかりましたぞ!』


 私に続き、アトラナート殿も首を縦に振る。

 この数相手では、接近されて囲まれては分が悪くなる。

 中距離戦の間合いで敵を消耗させるべきだというのはもっともである。


「〖ゲール〗!」


 アロ殿がまた竜巻を引き起こす。

 私は〖クレイスフィア〗を、アトラナート殿は〖ダークスフィア〗を放ち、竜巻から逃れようとしていた竜騎兵を攻撃する。

 ……私の〖クレイスフィア〗は惜しくも当たらなかったが。

 だが、アトラナート殿の〖ダークスフィア〗を受けた騎竜は胸部から血を流し、螺旋軌道を描きながら落下していった。


 よ、よし、これならば、敵の数を安定して減らしていけるはずである。


「聖女様の話では、敵はB級上位からA級下位という話だ! 勝負を焦るな! じっくりと、確実にゆくぞ! 無理はするな、危なければすぐに退け! 消耗戦を仕掛けるつもりでゆくぞ!」


 竜騎兵の一人、太った男が、仲間へと呼びかける。


 我々の魔力が切れるのを待つ作戦のようであった。

 だが……その勝負であれば、恐らく我々の方に分がある。

 敵が安全圏の空で留まってこちらに牽制を繰り返して消耗を誘うようであれば、ヴォルク殿が直接散らしてくれる算段になっている。

 相手の数さえ減れば、近接重視に移行して魔力消耗を抑えて動いてもよい。

 そうなれば私も、この〖木霊化〗を解いて暴れることができる……! 


「この様な世界の果てで貴様に会えるとは思わなかったぞ、伝説の剣士〖悪食家〗よ! 一人の剣士として、貴様に戦いを挑ませてもらうぞ! だが、この様な邪魔の多い場では興醒めだ。我が決闘を受けるのであればついてくるがいい!」


 空を見れば、ヴォルク殿が我々から離れていく。

 少し間を空けて、その後を、二人の兵を乗せる騎竜が追いかけていった。


『ヴォヴォ、ヴォルク殿! それは、計画と違うのでは……!』


 我々が地上で、ヴォルク殿が空から動き、敵に地の利を与えない。

 その作戦を提案したのは、他でもない、ヴォルク殿であったのだ。

 自分で決めた作戦を無責任に放り出す様な方ではないと、そう思っていたのだが……。


「な、何か、あったの……?」


 アロ殿も、不安そうに、遠ざかっていくヴォルク殿の背を見ていた。

 他の個体よりも速い騎竜がさっと空を飛び、あの太った兵の乗る騎竜の横に並んだ。


「あの男は、ハウグレー殿に任せることになった。こちらの指揮は、たった今より余が執らせてもらう」


「はっ! 承知致しました! アレクシオ様!」


 現れた騎竜には、金髪碧眼の男が乗っていた。


「さっきまで、ヴォルクさんと、互角以上に打ち合ってた人……」


 アロ殿が呟く。


『あ、あのヴォルク殿と、互角以上に!?』


 し、信じられぬ……。

 他の兵もいるというのに、そんな男と本当に我々だけで戦えるのだろうか。


「あまり悠長に構えていれば、あの邪竜がこちらへ来るかもしれぬぞ。一気に攻めよ、余が先陣を切る」


 アレクシオが剣を構え、我々を見下ろす。

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