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515.迎撃戦(side:ヴォルク)

「戻ってきたか」


 イルシアが聖女を迎え討ちに行ってからすぐのこと、偵察に出ていたアトラナートが無事に戻ってきた。


「ではこれより、予定通り山の方へと撤収し、連中から距離を取ることになる」


 我はマギアタイト、レチェルタ、アロ、アトラナート、トレントへとそう告げた。

 アロは不安そうに、イルシアの向かった先を振り返っていた。


「無念だが、我々では敵方の本陣を相手取るには実力不足だ。この衝突に巻き込まれるわけにはいかぬ」


 そう説得し、山の上方へと向かう。

 トレントは、木偶の仮面を被った、子供程の背丈の卵形の化け物へと姿を変えていた。

 ……〖木霊化〗というらしいが、どうにも見ていて不安になる姿だ。


 道中にアロがトレントの頭を撫でていたので「可愛いか?」と聞いたところ、「私の森にはよく似た神さまがたくさんいましたので、見ていると安心します」との答えが返ってきた。

 そうか……たくさんいたのか。

 ……アロはノアの森深くに住まうリトヴェアル族の出だと聞いていたが、ノアの森深くへ向かう際には少し覚悟をしておいた方がいいかもしれぬな。


 我がまじまじと見ていると、何を思ったかトレントが我へと寄って来て、すっと自然に頭を差し出してきた。


『撫でてもよいのですぞ、ヴォルク殿』


「……ありがたい申し出だが、今は気を緩めるわけにはいかぬのでな」


 とにかく、蠅王ベルゼバブの攻撃に巻き込まれるわけにはいかぬ。

 直接目にしたことがあったわけではないが……聖女の率いているらしい、ベルゼバブの恐ろしさは重々知っている。


 イルシアも、以前のウロボロスの頃では勝負になりそうにもなかったという話だ。

 高い力量に加え、大規模の広範囲攻撃に、高い飛行能力まで併せ持つという。


 今のイルシアなら力負けすることはないであろうが……ベルゼバブと聖女がペアになって動いて陽動の兵をふんだんに使い、堅実に立ち回って来れば、かなり厳しい消耗戦となることは容易に想像できる。


 遠くから、暴風の吹き荒れるかの様な轟音が響いた。

 アロは立ち止まって振り返り、濃い霧に覆われた先の、遠い空をじっと見つめていた。

 苦しそうな顔をしていた。


「不安か?」


「というより、辛いです。……やっぱり、竜神さまが危険な場所にいるのに、私達だけ逃げているのは」


「イルシアの一番の望みは、全員の無事であろう」


 それに……それは、我もそうだ。

 そう考え、一人で苦笑した。

 人里に馴染めずに一匹狼を気取っていたものだが、まさか魔物の群れの中に気付けば居場所を見出していたとは。


「でも……」


「……それに、望もうが望むまいが、我らとて逃げているだけでは済まないだろうがな」


 確かに、霧が全てを覆い隠すこの地では、そう容易くは敵方より発見されることはない。

 通常ならば、だ。

 だが……話を聞くにあの聖女は、陰湿で、容赦がなく、徹底している。

 イルシアを追い詰めるためならば、何だって用意するであろう。


 ……今や我々は、イルシアにとっての弱点でもある。

 だからこそイルシアも一人でこの地へと逃げ込む、といった手が使えなかったのだ。

 そこを突いてこない相手だとは思えない。

 何らかの手段で、我々にも攻撃を仕掛けて来るはずだ。


 ビュウと、風を切る音がした。

 霧に覆われた上空に、小さめの緑の竜が舞っているのが見えた。

 この土地では、これまで目にしてこなかった魔物……いや、あれは、シャルド王国の軍事用騎竜、ゼフィールか!?


 目を凝らせば、鎧を纏った剣士が騎乗しているのが確認できた。


「クゥオオオオオオオオオオオオオッ!」


 ゼフィールが、自身の位置を誇示するかの様に甲高い声で鳴く。

 その後、更に上空へと飛んで霧の中に姿を晦ました。


「逃げ、た……?」


「……違う、仲間を呼んだのだ。下手に個々で手出しはせず、数を武器に仕掛けて来るつもりなのだろう」


 シャルド王国の騎竜を用いて、人海戦術でこの霧の地を捜して回るとは、思い切ったことをする。

 そもそもゼフィールはシャルド王国の象徴の様な存在で、数もそう多くはないはずだ。

 よくぞ借り受けられたものだ。


「こうして追ってきた雑兵を確実に減らし、戦況を少しでも有利にするのが我らの今回の戦いになると思っておったのだが……上空から仕掛けて来られるとはな。かなり不利な戦いになるぞ。我は無論空は飛べぬし、上空に逃げた相手を追撃できる様なスキルなど持ち合わせてはおらぬ」


 アロには魔法があるため我よりはマシであろうが……上空が相手の安全圏となることを許すことに違いはない。

 少し空に飛べば攻撃を避けられる相手の状態は、我々にとって好ましくない。

 我らにとって不利な展開を押し付けられ続けることになる。

 仕留め損なった敵が延々と回復して戻って来るであろうし、心理面でもかなりの余裕を与えることになる。


 せめて何か一つでも、対空攻撃があればよいのだが……。

 アトラナートを見るが、首を振られた。


「期待、スルナ……。糸デ上ガレバ不可能デハナイガ、状況ガ限ラレ過ギル。敵ノ数次第デハ、隙ヲ晒スダケダ」


 やはり、そうか……。

 しかし、上空近辺を飛び回られれば、逃げてやり過ごし続けるのも厳しい。


『任せてくだされ! 私は、今のこの〖木霊化〗の姿であれば多少は飛ぶことができますぞヴォルク殿!』


 トレントが得意気に申し出てくれたが……その姿で肝心な戦闘をまともに熟せる様にはとても見えなかった。


「……やめておいた方が、いいのではないか?」


 単身で空へ向かい、戦況を変えられるだけの機動力があるとは思えない。


「キシッ!」


 レチェルタが鳴き声を上げ、我の前へと出てきた。

 レチェルタの背には、小さいながらに蝙蝠の様な翼がある。

 確かに飛べるだろうが……肝心な戦闘能力に、やや疑問が残る。

 相手はシャルド王国の誇る最高の軍事騎竜に、世界最強クラスと称される聖騎士団である。


 すごすごと引き下がっていたトレントが、レチェルタの側へと歩み出る。


『ヴォルク殿に背に乗ってほしいと、そう言っておりますぞ』


「なるほど、それならば……」


 我とレチェルタ、マギアタイトが空に向かい、地上からアロ、アトラナート、トレントが戦えば、不利な展開を押し付けられ続ける様なことはないはずだ。


「じきに奴らは数を引き連れて姿を現す。ここで返り討ちにし、聖女の戦力を削ぐぞ。よいか、この戦いは、地上組と上空組が離れないことが重要となる。その点には気をつけよ」


 聖女とて、一流の剣士とゼフィールなど、そう容易く数を揃えられるものではない。

 ここで敵戦力を一方的に落とすことができれば、聖女も今後の動き方がかなり限定されるはずだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] まあこっちに来て人質に取るか魔物なら倒してからスピリットにしてぶつけるくらいしますよね。 パパンが倒されて枠が空くことも計算通りなわけですし。
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