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391.撤退

「難癖付けられて襲われて、ごめんなさいはいそうじゃあ、オレも面子が立たないんでねぇ……」


 俺を庇う様に前に立つヴォルクへと、サーマルが剣先を向ける。


「ならば仕方なし。この我を相手に剣で勝てるというのならば、示すがよい」


 ヴォルクも剣を構える。


「お、おい、止めとけ! ヴォルク、下がってくれ!」


 俺は制止する。


 人気の少な目の通りとはいえ、王都の街道だ。

 何があったのかと遠目に様子を窺っている者は少なくない。

 ここで事を構えるわけにもいかねぇ。

 下手に倒しちまっても、魔王を警戒させるだけだ。

 俺は奴の正体を見抜くのが遅れて一方的に攻撃を受けちまったが、結果としてはそれでよかった。

 ボコって正体を暴いていたら大パニックもんだ。


 それに……恐らく、ヴォルクでは、サーマルに勝てない。

 身体能力ではサーマルに勝るが、サーマルの恐ろしいところは状態異常付与スキルの充実にある。

 魔力で大きく劣るヴォルクでは、本気の戦いになれば、いいように絡めとられるだけだ。


 サーマルに退くつもりがないなら、逃げるしかねぇ。

 ミリアを連れてこの場を離脱する。


 それでもなお、サーマルが追って来るというのならば、俺が時間稼ぎに戦う。

 俺は〖ポイズンタッチ〗は受けたが、ステータスに開きがあるため、毒の状態異常の影響はさほどない。

 肉弾戦では、人化間の身体能力でも充分渡り合えるため、時間を稼ぐぐらいなら余裕だ。

 その間にアロ達に逃走してもらうのがベストか。


 奴は俺が押さえた手を一度擦り抜けてみせたが、アレは恐らく〖スライムボディ〗を活かして腕を細くし、すぐに元に戻したのだろう。

 ネタが分かれば、同じ手には掛からねぇ。

 勝てない相手じゃねぇ。


 問題なのは、今、残りの三騎士や魔王の手先がこの場に出て来ねぇことだが、王都は広い。

 それに、サーマルがミリアにちょっかいを掛けていたのは、明らかに独断だ。

 すぐに他の仲間と合流する予定があったとは見えねぇ。


「引けぬな。一度、三騎士とは手を合わせてみたかった。向こうが下がらぬならば、我にも引く道理はない。及ばず死のうが、勝って追われる身になろうが、そこに悔いはない。そこの小娘を連れて離れておけ」


 い、いや、男気あってありがたい言葉ではあるんだが、下手に勝たれてたり大怪我負わせたりしても困るから、普通に下がってほしい。

 お、俺、意表を突かれただけで、手の内が分かった今となっては、もっかい殴りあったら普通に勝てる自信あるもん……!

 全体的に耐性が高く、何より頑丈な俺は、ヴォルクよりリスクも絶対低いはずだ。


「さて、どっちが死ぬかは話し合いで決まったのかな?」


「サーマル様、また揉め事を起しているのですか!」


 サーマルの背側、街路の奥から声が響く。

 目を向ければ、サーマルと似た格好をした、剣を腰に帯びる者達が駆け付けて来た。

 全部で六人いる。恐らく、三騎士の部下達だろう。

 敵の援軍がきっちり来ちまったかと警戒したが、どうやらサーマルを非難しているようだ。


「クリス王女様から、余計な騒ぎを起こすなと仰られていたのをお忘れになったのですか! メフィスト様も大変お怒りですぞ!」


 六人の中で先頭に立つ男がそう言って、斜め後ろに立つ最も背の低い、藍色髪の少女の肩へと手を置いた。

 少女は、二十代、三十代程度と見える剣士達の集団の中で、やや浮いていた。

 無表情な顔で、淡々とサーマルを睨んでいる。

 ヴォルクをちらりと見てから、クイクイと前に立つ男の袖を引き、再び目線でサーマルを非難する。

 男が腰を落として膝を突き、耳を向ける。少女がボソボソと何かを命じると、小さく頷いて立ち上がった。


「おまけにそちらは! クリス王女様がパーティーへと招待なされた、ヴォルク殿ではありませぬか! 何を考えておられるのか! メフィスト様が、大変憤慨なされておりますぞ!」


 メ、メフィスト……? ああ、三騎士の一人か。

 クリス王女がスカウトした、貧民街の少女って奴か。

 恐らく、こいつも魔物なんだろうが……。


「メフィストちゃん……今は、ほっといてくれないかなぁ? オレだってさ、この重要な時期に、無意味なことをするほどバカじゃないよ」


 サーマルがちらりと、気を失ったままのミリアへ目を向ける。

 メフィストが黙って首を振る。


「ローグハイル殿も、怒ってる」


 小声で、掠れるような声でそう言った。

 サーマルの顔が肩がその名前に反応する様に微かに震えた。


「……チッ、アイツ、偉そうにしやがって。命拾いしたね」


 サーマルが剣を鞘に戻す。

 ここは、退いてくれそうな感じか……?


「ヴォルク殿、不快な思いをさせてしまい申し訳ない! サーマル様へは、ローグハイル様からも強く指導していただくよう相談しておきますので、何とぞ、お気を悪くなさらないでくださいませ!」


 メフィストの前に立つ男が、ペコペコと頭を下げる。

 ふと気になり、俺は男のステータスを調べる。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ナイト・スライム

状態:普通

Lv :49/60

HP :317/317

MP :266/266

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ナイト・スライム……ランクは、C+か。平然とこのクラスが出て来やがるな。

 弱った、雑兵でさえここまでだとしたら本当に厄介だ。

 城の中は、ほとんど魔物と見て間違いねぇなこれは。

 聖女さんよ、これもう、考え得る最悪じゃねぇのか。

 リリクシーラと話している間は、魔王に対して完全に優位に立てているという印象が強かったが、魔王の実態は育ち過ぎていた。

 サーマルが平然とB+だった時点で、魔王はA-以上確定、下手すりゃ竜王エルディア級にもなる。


 ……それに、あり得ねぇはずだが、スライムで神の声絡みと考えたら、俺にはどうにもノアの森のアイツが浮かんじまう。

 アイツは確かに死んだはずだ。経験値も入った。

 だが、もしも、アイツか、アイツに類する存在だとしたら、とんでもねぇことになる。


 あのスライムは、スキルを奪う。

 奴は莫大なスキルのアドバンテージを活かし、たったのDランクでB-ランクの俺相手に善戦してみせたのだ。

 今Aランクになっていたとしたら、その強さは想像もできねぇ。


 当然……あの女は、もっとヤバイはずだ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖メフィスト・メルカルア〗

種族:デュアル・スライム

Lv :71/85

HP :584/584

MP :427/427

攻撃力:313

防御力:326

魔法力:497

素早さ:511

ランク:B+


特性スキル:

〖スライムボディ:Lv--〗〖グリシャ言語:Lv3〗〖HP自動回復:Lv4〗

〖MP自動回復:Lv5〗〖触手:Lv3〗〖剣士の才:Lv5〗

〖忍び足:Lv7〗〖気配感知:Lv2〗〖飛行:Lv4〗

〖双頭:Lv--〗〖精神分裂:Lv--〗〖意思疎通:Lv5〗


耐性スキル:

〖毒無効:Lv--〗〖麻痺耐性:Lv8〗〖呪い耐性:Lv7〗

〖混乱耐性:Lv4〗〖物理耐性:Lv3〗〖魔法耐性:Lv4〗


通常スキル:

〖変色:Lv7〗〖ポイズン:Lv3〗〖グラビドン:Lv6〗

〖ハイレスト:Lv3〗〖デス:Lv4〗〖ウーズボム:Lv7〗

〖ミラージュ:Lv5〗〖コンフュージュ:Lv5〗〖病魔の息:Lv4〗

〖水刃:Lv5〗〖触手鞭:Lv5〗〖粘液の檻:Lv4〗

〖自己再生:Lv4〗〖分離:Lv--〗


称号スキル:

〖王の分体:Lv--〗〖最終進化者:Lv--〗〖魔王の配下:Lv--〗

〖三騎士:Lv--〗〖幻蝶の剣:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 やっぱし、B+かよ……。

 デュアル・スライム……か。

 よくはわからねぇが、他のスキルからしても、かなりトリッキーなタイプだ。

 サーマルことポイズンルーラに勝るとも劣らない。


 俺が見ていると、メフィストも目を細めてこちらを睨み返してきた。

 俺は咄嗟に目を逸らす。メフィストは不愉快そうにしていたが、サーマルを連れて去っていった。


 俺はミリアを抱き起す。

 あくまでも、ミリアはただ無関係に倒れ、サーマルは介抱しようとしていただけだ、というスタンスを彼らは崩さないつもりらしい。

 王女の関係者であるヴォルクに謝罪を入れただけで、俺には見向きもしなかった。


 俺寄りで人化した今の姿だと、〖ハイレスト〗が使えねぇ。

 解毒できる人か、回復魔法を使える人を捜さねぇと、ミリアが危ない。

 最悪の場合、彼女を連れて王都を離れ、相方に治療してもらうしかねぇ。奴らのことは、もう十分すぎるくらいにわかった。

 魔王共は、絶対に放置してていい奴らじゃねぇ。


 俺はミリアを抱きながら、周囲をざっと振り返る。

 俺と目が合うと、野次馬達は掃けていく。遠目から事態を楽しみたいだけで、当事者になりたくはねぇんだろう。

 観衆に紛れていた中年の男が、俺の視線を受けて前に出た。


「あの……私が、治療いたしましょうか? こう見えても、元は薬屋でして、白魔導士の真似事をしていたこともあります……。その代わり、私の家の方で、少し話を聞いてはいただけないでしょうか?」

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