挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
転生したらドラゴンの卵だった~最強以外目指さねぇ~ 作者:猫子
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

355/395

355.〖悪鬼の歌〗

 俺は背を屈め、俺を挟んで回る二体のセイレーンの内の片割れを視界から逃さない様に目で追いかけた。
 もう一体の方は、相方が見張ってくれている。
 こういうとき、双頭って便利だな。首が一つだと、確実に死角を突かれていた。

 まだセイレーンの〖混迷の歌〗の影響が残っているのか、頭の奥に魔力が渦巻いているような、酷い車酔いに似た感覚があった。
 俺は息を整え、ゆっくりゆっくりと回りながら距離を狭めて来るセイレーンへと備えた。

 セイレーンにまともな接近戦スキルがあるようには思えないが……追い詰められてから距離を詰めて来たということは、何らかのスキルを残している可能性が高い。

 今奴らが歌っている歌スキルの影響は、俺には出ていないし、その予兆もない。
 まさか奴らの今の歌は、自分か仲間に掛けるスキルか?
 だが、〖バーサーク〗の類似スキルなら、むしろカモだ。
 単に攻撃底増しで殴り掛かってくるだけなら、難なく撃退してやる自信があるが……。

 セイレーンの歌声の激しさが一層と苛烈になったとき、二体のセイレーンの身体を禍々しい赤い光が纏い始めた。
 辺り一帯の雰囲気が、変わったような気がした。
 それでもセイレーンの歌は終わらない。
 セイレーンは大きく口を開け、吠える様に歌う。
 赤い光がどんどんと勢いを増していく。
 光が最高潮に達したとき、セイレーンは一気に距離を縮め、俺を挟み撃ちに突撃してくる。

 ……〖バーサーカー〗状態じゃねぇみたいだな。
 だったら、一気に距離を詰めてきたのは何が狙いだ?

 俺はひとまず、前方のセイレーンへと狙いを付けて、予想軌道上目掛けて三発の〖鎌鼬〗を放った。

 これだけ近づいてきたんだ。反応はできても、避けるのは困難なはずだ。
 セイレーンは目を見開き、翼を大きく羽搏かせて〖鎌鼬〗を連続して二発放ち、その勢いを利用して宙を綺麗に二度曲がり、俺の〖鎌鼬〗の隙間を掻い潜った。
 カクカクと曲がりながらも、速度はほとんど落とさない。敵ながらに見事な動きだった。

「風魔法〖ゲール〗!」

 アロがすかさず〖ゲール〗の追い打ちを掛け、接近してくるセイレーンを牽制する。
 だがセイレーンは風の中を突っ切って、強引に突破した。
 下手に避けて俺に隙を見せるよりは、攻撃を受ける方を選んだらしい。

 しかしさすがのセイレーンもアロの残MPを考慮しない魔力のぶちかまし攻撃のダメージは無視できる範疇ではなかったようで、竜巻を抜けたセイレーンは、身体中切り傷だらけになっていた。
 片瞼が落ちたらしく、ギョロリとした真っ赤に充血した眼球がアロを睨む。

 ……ま、セイレーンと俺なら、攻撃力なら俺の方が格上だ。
 多少のステータス底上げスキルでは覆らない差がある。
 接近戦勝負になるなら、俺とて不服ではない。

 前方は噛み殺す。後方は尾で往なす。
 尾の一撃では倒しきれないだろうが……残った一体を仕留めるのに、そう時間は掛からねぇはずだ。

 前方のセイレーンが、俺の顔面目掛けて飛びこんでくる。
 セイレーンに纏わりついていた真っ赤な光がセイレーンの前方へと伸び、光の先端から渦を巻き始める。
 まさか、近接専門の魔法攻撃か!?

 んな魔法、あんまし見たこと……いや、あった。
 トールマンの配下の魔術師が、〖デモンハンド〗なる魔法スキルを使っていたところを見たことがある。
 あのときの使い手は、魔力はせいぜい人間の中ではトップクラスでもCクラス上位モンスター程度だったし、スキルレベルも低いせいか真っ当に使いこなせていなかったようだったが、それでも大した威力を誇っていた。

 確か、あの『デモンハンド』とやらの魔法スキルも、予備動作として赤い光が渦を巻いていた。
 奴らのスキルの中にあるそれらしいのは……〖悪鬼の歌〗か。
 支援スキルでも妨害スキルでもなかったか、読みを外したか。

 セイレーンの身体から抜け出た光が、赤黒い巨大な腕となって俺へと襲い掛かってくる。

『後ロカラモ、同ジノ来テンゾ! アレ、マジィゾ! カナリ魔力練リ込ンデヤガル!』

 敵さんも、とっておきというわけか。
 逆に、これを凌げばラストだ。
 近くにアロ達がいて下手に避けられねぇ以上、弾くしかねぇ。

「きゃっ!」

 俺は身体を揺らし、アロを振り落とした。
 これ以上は危険だ。アロのレベルでは、牽制はよくとも、奴らが本気で仕掛けてきてるときは、まともに勝負にならねぇ。
 レベルがまた足りなすぎる。

「グゥオオオオオオッ!」「ガァァァァァアアッ!」

 俺は相方と同時に吠え、それぞれに睨み合っているセイレーンへと〖咆哮〗を放った。
 後方へは後ろを監視している相方の指示に従って尾を伸ばし、前方は両翼で覆って正面から突っ込んでくるセイレーン放つ攻撃に対してガードの態勢に入った。
 赤黒い光の腕が、俺の翼を鷲掴みにし、引き裂いた。

 ツゥッ!
 ほぼ同時に、尾にも痛みが走り、麻痺したかのように先の感覚がなくなった。
 持ってかれたか。

 だが、無駄ではなかった。
 俺は裂かれた翼を降ろしながら大口を上げて勢いを失くした赤黒い腕へと喰らい付いた。
 口内に焼けるような痛みが広がったが、強引に牙で押さえて地面へと引き倒す。
 赤黒い腕は地面を大きく抉ると、蒸発する様に消えて行った。
 俺は悪魔の腕の根元にいたセイレーン目掛けて、前足を振り被った。

 セイレーンは俺に向かって〖鎌鼬〗を撃ち、その反動で背後へと逃れようとする。
 俺は肩を前に突き出し、セイレーンの顔面を爪で突き飛ばした。
 俺とセイレーンの間に鮮血が舞う。セイレーンは翼を広げ、後方へ弾かれる衝撃を殺そうとしたが、激しく地面に背から激突し、勢いよく跳ねながら飛んでいった。

 ……辛うじて、生き残っちまったか。
 瀕死には違いないが、まだ死んではいない。

 もう一体は、どうなった?
 俺が後ろへ顔を向けると、地面に落ちたセイレーンが、白目を剥きながら横たわっていた。

 セイレーンには、両翼がなかった。
 ピクッ、ピクッと陸で跳ねる魚の如く身体を振るわせている。

 相方の方を見ると、牙の隙間から蒼い血をダラダラと垂らす相方の姿があった。
 奥歯の方に、セイレーンの羽が挟まっている。

 後方から飛んできた悪魔の腕は、尾を犠牲にして軌道を逸らしはしたが……その後の対処は相方に投げていた。
 お前……あれ、まさか……。

「グルゥア……」

『喰ッタ。痛カッタ』

 ええ……。
 俺も牙で押さえはしたが、さすがにそれはしなかったぞ。
 つーか、それをやろうと思える発想と度胸がなかったわ……。

 どうやら尾を犠牲にして跳ね上げたセイレーンが魔法で作った悪魔の腕を丸呑みにする勢いで喰らい付き、その奥にいたセイレーンの翼も噛み千切ったらしかった。
 なんと豪快な……俺もああやっていたら仕留めきれただろうか……。
 大ダメージは避けられなかっただろうが。

『口ン中デ消エタ』

 ……そりゃそーだろ、ただの魔力の塊みたいなもんだろ。
 舌の上で溶けた、みたいに言うんじゃねぇよ。

【経験値を1411得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を1411得ました。】

 神の声がそう告げるのと同時に、セイレーンは動かなくなった。

「アァァァアア……」

 俺が突き飛ばした方の、遠くで転がっていたセイレーンが俺を睨む。
 顔のあちこちが抉れたセイレーンの顔に、俺は思わず怯んだ。
 頬が削げて、奥歯が剥き出しになっている。皮膚の断面が、あまりに痛々しい。
 セイレーンは地を蹴って、俺とは逆方向に飛び上がった。

 かなり角度が付いている。
 一気に高度を上げて、俺から逃げるつもりだ。
 しまった。俺は舌打ちを鳴らしながら〖鎌鼬〗を撃とうとして、破けた自身の翼に気が付いた。
 か、風を作れねぇ。
 〖鎌鼬〗は、翼を利用して魔力で風を操り、腕に伝わせて爪先から放つことで十全な威力を発揮できる。
 そのためにはまず〖自己再生〗で翼を元に戻す必要があった。

 その刹那、ナイトメアが物凄い勢いで、セイレーン目掛けて飛んでいった。
 俺は一瞬自分の目を疑った。
 俺の最速に及ばないまでも、それなりに迫る速度で低空飛行しながら、セイレーン目掛けて滑るように突っ込んでいく。
 顔の先には、以前から準備していた〖ダークスフィア〗が黒々と光っている。

 な、なんだアレ? 何のスキルだ?
 一瞬困惑したものの、セイレーンの斜め下まで来たナイトメアが、奇妙な軌跡を描きながらセイレーン目掛けて突っ込んでいくのを見て、ようやくその正体が糸であることに気が付いた。

 俺が悪魔の腕を牙で止めている間に、セイレーンの身体に糸を張り付けていたらしい。
 セイレーンが勢いよく跳び上がるのに合わせて糸を引いて、その反動を利用して突っ込んでいったようだ。

「アァ!?」

 セイレーンが、怒声とも悲鳴ともつかぬ声を上げる。
 ずっとナイトメアの傍にいた俺でさえ一瞬度肝を抜かれたのだ。
 逃げ遂せたと安堵していたところへ、今までじっとしていた奴が急に神速で空を飛んで迫ってきたのだから、その驚きようは俺より遥かに上だろう。
 ナイトメアは驚きに体勢を崩すセイレーンと顔を突き合わせ、ほぼゼロ距離から顔面目掛けて〖ダークスフィア〗を放った。

「アァァァァァァッ!?」

 セイレーンは顔面から黒い炎を上げながら絶叫し、落ちていく。
 ナイトメアは途中までセイレーンに乗っていたが、適当な木の枝へと糸を吐きかけて、そっちに身体を移した。

 セイレーンは地面に身体を打ち付ける間際に、ギロリと木の上に立つナイトメアを睨んだ。
 ま、まだHPが残ってやがる……!
 セイレーンは瀕死だったが、ナイトメアとはステータス差が大きく開いていたため、あの至近距離の〖ダークスフィア〗でも仕留めきれなかったようだ。
 ま、まずい。
 俺からかなり距離が開いちまった。逆上したセイレーンがナイトメアに向かって言ったら、太刀打ちできねぇぞ。

 俺が駆けだそうとしたとき、セイレーンの身体は地面に打ち付ける間際で宙に固定されてガクンと震え、首がぎゅっと圧迫された様に縮んだ。

「オッ……」

 最期にそう漏らして、セイレーンはだらりと舌を伸ばし、宙で固まったまま動かなくなった。
 明らかに、首を起点に持ち上がっている。
 ナイトメアが、セイレーンから脱する前に首に糸を巻いていたらしい。

 えげつないことをする……。
 人間の顔をしていることもあって、見てられねぇ。
 俺は目を逸らした。

【経験値を1738得ました。】
【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を1738得ました。】
【〖ウロボロス〗のLvが98から99へと上がりました。】

 ……果ての見えなかったLv125へと近づきつつあるな。
 やっぱ、レベリングはワンランク下の群れてる奴と戦うのが一番か。

 さて、と。
 俺は下を向いて唸り、翼へと魔力を循環させる。
 破れて歪んでいた俺の翼の傷が目に見えて塞がっていき、形も整っていく。
 〖自己再生〗のスキルである。

 次に尾先にも魔力を巡らせる。
 切断された面から尾が伸びて行き、元の長さまで戻った。
 ふう……これで落ち着いたな。

 今回で、アロ達も大分レベルが上がったはずだ。
 確認してから問題なければ、遺跡へ向かってみるか?
アース・スターノベル様より、現在四巻まで書籍化しております!

i203225
ドラたま特設ページはこちらまで!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ