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274.アロVSアビス

「…………」


 アロが姿勢を低くし、肩で息をする。

 一気に魔力を消耗したので疲れたのだろう。

 肌質に変化はないので、まだ魔力の残量はあるはずだ。


「ヴエェェェエエッッ!」


 アロが攻撃したアビスを筆頭に、他の二体のアビス達もこちらへと顔を向けて突っ込んできた。

 後方の二体のアビス達は、シャッと左右に分かれて気配を消す。

 目で追っていたが、木に触れたかと思うと忽然といなくなっていた。


 ……あっちの二体は、姿現すまでは放っておくしかねぇな。

 餌がほしいのならグラファントにしがみついてりゃいいんだし、逃げたか、それとも俺狙いだと思いてぇところだが……一応、レッサートレントと子蜘蛛達の方にも注意しとかねぇとな。

 あいつらの行動なんて読めたもんじゃねぇ。


「ヴェァァアアァァッ!」


 アビスは八脚をうねらせ、どんどんこちらへの距離を詰めてくる。


「つち……マ、ほ……〖クレイ〗!」


 アロがアビスに手を向ける。

 地面の土が盛り上がってアビスを狙う。

 だがアビスはこちらを向いたまま、大きく後ろに下がって綺麗に土を避けて再び接近して来る。


 さすがにすばしっこい。

 〖ゲール〗の方が攻撃範囲があるから、まだ当たりやすそうな気がすんな。


 アロが手を顔に当てて抑える。

 肌にそこまで変化は見られねぇが、アロを薄く覆っていた黒い光がやや弱くなっている。

 魔力切れか? 遠慮なく吸っていいんだぞ?


 俺はアロに目で合図をし、尾の先端を曲げて上に向ける。

 アロは小さく頷き、俺の尾を腕で抱いた。

 ぽうっと光が移って行き、アロを覆う黒い光が強くなっていく。


 アロの魔力を補給している間に、アビスはもうほとんど目前へと向かって来ていた。

 もう少しでアビスは俺の尾のリーチに入る。

 ……そろそろ、物理的な手助けをした方がいいかもしれんな。


 アロはすぐにアビスへと視線を戻し、両手を向ける。


「〖ゲール〗!」


 左右両の手から放たれた光が風を起こし、竜巻へと変化する。

 一度大回りをしてアビスとは外れた方へ飛んでいったかに見えた竜巻は、真横から挟み込むようにアビスを襲う。

 アビスが脚を早めたため、二つの竜巻は斜め後ろにへと取り残される。

 再びアロが両腕を上げる。


「〖ゲール〗!」


 再び現れた二つの竜巻が、前方からアビスへと襲いかかる。

 計四つの竜巻がアビスの四方を取り囲んだ。

 おっ、これなら結構ダメージ入るんじゃねぇのか?


 ふらりとアロが、俺の尾の曲げた部分へと凭れかかる。

 アロを覆う魔力がまた薄くなっている。全力四発で限界が近くってところか。

 アロは俺の尾に手を触れながら、逆の手をアビスへと向ける。


「〖クレイ〗!」


 アビスは脚を曲げて、竜巻の隙間へと跳ぼうとしているところだった。

 〖クレイ〗によって生み出された土の柱が、ピンポイントでアビスの跳ぼうとしていた先を奪う。

 思わず動きを止めたアビスを、四方からの竜巻が挟んだ。


 ゴウッと猛音を立てて、竜巻同士は相殺し合う。

 その反動は強風となり、俺の方にまで来た。

 翼を前にして盾にし、アロを反動から守る。


 そのとき、木の枝のようなものが風に吹かれ、俺の目に向かって飛んできた。

 躱すのも邪魔臭かったので、大したものではなかろうと、瞼で受け止める。

 瞼に張りついたそれは、不思議なことに、ひょこひょこと細かい動きで伸縮をした。


 次の瞬間に気が付いた。

 その黒く、ややぬめり気のあるそれは、アビスの長い脚だった。


「ガゥァッ!?」


 思わず顔を力いっぱい後ろに逸らしてしまった。

 すぐ冷静になり、尾に乗っているアロが落ちないように意識を向ける。


 地面に落ちたアビスの脚は、ひとりでにピクピクと蠢いていた

 …………見たくなかった。

 翼で弾きゃよかった。


 一瞬意識を逸らしたせいか、アロが先ほど戦っていたアビスまで姿を晦ましてしまった。

 子蜘蛛達にも注意を向けねばと背後へ目をやったとき、死角に潜んでいたアビスがアロへと飛び掛かるのが見えた。

 左右アンバランスな七本脚……間違いなく、こいつがさっきまでのアビスだ。


 俺じゃなくてアロを狙って来たか。

 攻撃の報復か、それとも俺が手出ししないのを見て、アロの方が危険だと考えたのか。


 アロはまだ、気が付いてねぇ。

 俺は尾を大きく持ち上げる。

 アロは尾の上でバランスを崩し、倒れ込んでしがみつく。

 アビスは俺の尾に頭を打ち付け、真下へと落ちた。


 こいつの今のステータスは……。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:アビス

状態:憤怒(大)

Lv :24/58

HP :134/288

MP :52/58

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 よ、ようやく半分か……。

 アロもそろそろ休憩させてやりてぇし、この辺でこいつは倒しとくか……?

 そう思いアロを見ると、俺の尾にしがみついたまま、まだ手の先をアビスへと向けていた。


 このまま尾を降ろしてアビスを叩き潰そうかと思ったが、アロはまだやる気か。

 結構この子、レベリングに意欲的だからな。

 本人が頑張りてぇなら、もうちょっと様子を見てみるか。


「〖ゲール〗!」


 無防備に腹を表に転がっていたアビスへ、アロの放った風魔法が炸裂する。

 発動までの時間を抑えるためか、先ほどのような威力はない。


 ただアビスを弾くのには充分だった。

 表に弾かれたアビスは、状況を把握しようとかしてか、やや頭を持ち上げる。


「〖ゲール〗! 〖ゲール〗! 〖ゲール〗!」


 その隙を狙い、新たに三連の風魔法を放った。

 さっきよりも更に竜巻の規模は小さく、形を維持していたのも一秒ほどだった。

 アビスは身を縮ぢ込め、竜巻の風圧に耐えた。


「ゲー……キャァアッ!」


 アロの伸ばした手の先に、風が渦巻いて小さく爆ぜた。

 甲高い悲鳴を上げ、アロは尾の上にしゃがみ込む。

 風を受けてか、腕が乾燥して罅だらけになっている。

 魔力が少なすぎたせいで、〖ゲール〗を制御しきれなかったのだろう。


 アロはまた片手を俺の尾に触れ、〖マナドレイン〗で魔力を吸い上げる。

 〖マナドレイン〗に集中力が取られるせいかスキルLvが低いせいかはわからないが、他のスキルと同時に使うことはできないようだ。

 せいぜい片手で魔力を吸いながら、すぐに魔法を使えるように逆の手で対象を捉えておくのが関の山のようだ。

 マシンガンのように連打する、というわけにはいかねぇか。


「ヴェエェァッ!」


 再度アビスが跳ね上がる。

 アビスの方が、素早さは格上だ。


「ゲー……」


 スキルの切り替えに予想外に時間が掛かったのか、アロの反応が完全に遅れた。

 アロは唱えようとした〖ゲール〗の魔法を途中で止め、腕を止めたままの姿勢で固まる。

 そこへ容赦なく、アビスが微妙に太い不均一な前脚を伸ばし、両側からアロを殴りつけようとした。


 アビスの伸ばしきった前脚が、予想外に長い。

 やっぱし近づかれたら、魔力補給の間が持たねぇか。

 十分にアロは頑張った、経験値はそれなりに入るはずだ。


 そう考え、俺の爪でアビスを撫で殺そうと前足を上げた。

 その瞬間、アロの伸ばした腕が膨れ上がり、アビスの頭部を引っ掴んだ。


「グァ……?」


 思わず、俺が間抜けな声を上げてしまった。

 アビスの身体が宙に浮き、長い脚をひょこひょこと我武者羅に動かす。

 前が見えないため、何が起こっているか理解できないのだろう。

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