224.貢物
朝。
目を覚ました俺は、ぐぅっと首を伸ばす。
昨日は腐肉の塊を相方が喰って、食欲の失せた俺はそのまま眠りにつくことにしたのだ。
やっぱし、家があるっつうのは最高だな。
砂漠ではずっと野晒しだったからな。
前世の感覚が残っている俺からすると落ち着かねぇんだよな。
久々にぐっすり寝れたわ。
「ガァー…………ガァー…………」
……まぁ、片割れが起きてもぐっすり熟睡中の相方には負けるけどな。
カタカタと、祠の奥から音が鳴る。
骸骨……ワイトが、俺が目を覚ましたのに気付いたらしい。
暗がりから、足のない骸骨がすっと姿を見せる。
……やっぱ、朝一で急に見るとビビるわ。
意識し過ぎると、寝てる間に悪夢とか見ちゃいそう。
足、また取れちまったんだな。
「グゥ……グゥオッ!」
おい相方、くっ付けてやってくれ。
「ガァー……」
緩い、呆けた生返事。薄目は開いているが、寝言半分といったところか。
俺は口を開け、額にくっ付いている卵嚢を狙う素振りをしてみた。
相方がバッと目を開き、身体を引く。
「ガァッ! ガァッ!」
俺を非難するように、相方が鳴く。
……いや、さすがに蜘蛛の卵なんて喰わねぇよ。お前じゃあるまいし。
口の中に変な虫湧きそうだわ。
無事に相方に〖魂付加〗を使ってもらい、ワイトの足を付け直してもらった。
すぐ取れるの、どうにかなんねぇのかな……。
MPいっぱいあるから、別にいいんだけどさ。
レベル上げたら改善されんのかな?
上限低いからすぐ進化できるとは思うけど、一歩間違えてワイトが殺されでもしたら……。
ん? ワイトって死んだらどうなるんだ?
俺はワイトを見る。
ワイトはことり、と、音を立てて首の骨を傾げた。
ま、まぁ、気にしないようにしておこう……。
気軽に確認できるもんでもないし。
俺は祠から顔を出す。
〖気配感知〗で辺りを探ってみると、何かが近づいてくるのが分かった。
咄嗟に顔を引き、神経を研ぎ澄ませる。
面をつけた人間達だった。
リトヴェアル族である。
ガタイのいい男が五人、背の低い女の子が二人だ。
女の子は羽飾りを頭につけ、カラフルな布を身体に巻き付けており、杖を手にしていた。
リトヴェアル族の魔術師なのだろうか。
いや、巫女か?
男達はそれぞれ、背に動物を背負っていた。
ぶっとい肥えた猪、首の長い鳥、魚の入った木網の籠、大きな壺……大きな壺は、二人がかりで持っていた。
それらをずらりと、横一列に並べる。
俺は祠からそうっと顔を出し、その様子を見ていた。
え、あれ、俺がもらっていいの?
いいんだよな? そういう感じなんだよな?
俺が隠れていると、並べられた食糧の前に二人の女の子が出てきた。
やっぱり巫女なのか?
「我らリトヴェアルの神、竜神様よ! 我は一族の代表とし、再臨された竜神様へ、祈りと感謝の念を捧ぐ者! 願わくば、どうか末永く我らを見守り、繁栄の祝福を!」
……す、すいません、完全に竜違いです。
以前来たことはないです。
祝福どころか呪いしか撒けません。
永住する予定もちょっと……今のところないっていうか……。
巫女二人はその後も長々と祈りを捧げていた。
え、こ、これ、ひょっとして出た方がいいのか?
でもこれ、タイミングとかあるんじゃねぇのか?
もうちょっと様子見て、区切りつくのを見計らってからの方がいいのか?
「ガァ……?」
相方が俺を押し退け、首を祠の外に出そうとする。
俺はぐっと身体を引き、祠奥へと引っ込んだ。
落ち着け、落ち着け、俺……。
これは、ほどよい距離保ったまま人里に馴染む好機だ。無駄にはできない。
うし、俺は今日からリトヴェアル族の竜神様だ。
ウロボロスなんてやめるぞ。
前足で自分の頭を叩き、気合いを入れる。
タイミングなんかわかんねぇけど、向こうだって上手く対応してくれるだろ。
なるようになるさ。
元々竜神様だって、そこまで空気読めるタイミングでなんて多分出れてなかっただろ。
急にあんなん唱えられてもわかんねぇっつうの。
こういうのはビビリながら出たら負けだ。
堂々としてたらそれっぽく締まるはずだ。
俺は首を振るい、迷いを断ち切る。
相方が不審そうな目で俺を見ていた。
お前もしっかりしてろよ。
「我が一族の栄、力、すべては竜神様がため……」
「グォオオオオオッ!」
巫女二人が並ぶ前に、俺は一気に姿を現した。
巫女二人は言葉を途切れさせ、唖然としたように俺を見ていた。
いや、後ろに並ぶ男達も同様だった。
俺はそっと後ずさりし、祠の奥に引っ込んだ。
それから祠の床へと頭を埋めた。
……かんっぜんに出るタイミング間違えた。
なにこれ、恥ずかしい。
やっぱりあれ、全部終わってから出なきゃいけなかったんじゃねぇのかよ。
うん、普通に考えたらそうだよな。
なんかでも、俺が出なきゃ終わんねぇのかなってくらい長々と唱えてたから……。
存在アピールするために吠えたのも間違いだったかもしれん。
頭を床に埋めながら震える俺を、ワイトがじっと心配そうに見守っていた。
十分ほど経ってから、祠からそうっと頭を出してみた。
貢物だけがずらりと残っていて、リトヴェアル族達の姿はすでになかった。
これのせいで竜神じゃねぇのバレたんじゃねぇのかとも考えたのだが、貢物が残っているということは、一応まだ神様として見られているようだった。
……なぜか祈りをぶった切って吠えながら現れ、なぜか逃げるようにすぐに引っ込んで行った神様のことを、リトヴェアル族達はどう思ったのだろうか。
ひ、一人くらい残っててくれても良かったのに……俺だって、気力を振り絞って出てきたんだから、そんな……。
ドラたま二巻の発売日となりました!
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