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207.ハレナエへ

 ハーゲンは足が縺れてその場にすっ転んだ。

 息を荒げ、尻を地面につけたまま俺を見上げる。


「な、なぜ、アドフ……様が、ここに! それも、なぜ双頭竜に跨って!」


 ……今、様つけるかどうか迷ったな。

 まぁ、アドフは今微妙な立ち位置だから仕方ないか。


「様はいい。今の俺は、騎士団長ではない。ただの、逃亡囚人だ」


「くっ、くそ!」


 ハーゲンは起き上がりながら腰から短剣を抜き、俺の上に立っているアドフへと向ける。

 剣先が震えていた。


「武器を下ろしてくれ、ハーゲン。戦う気はない。邪竜討伐隊の他のメンバーが、どうなったかは知っているか?」


「奴ら、俺を見捨てて逃げ帰りやがっ……」


「全員、邪竜に襲われて死んだそうだ。イルシアが、そう言っていた」


「な、なんだと!? そんな馬鹿な!」


「イルシアに伝えたのは、お前だったと聞いたぞ、ハーゲンよ。会ってはいないんだな?」


「会っていたら、こんな砂漠で転がっているものか! む、無茶苦茶なことを言うのも大概に……!」


「なるほどな、これでわかった」


 アドフはそう言い、一息置いてから続ける。


「やはりお前は、死んだと思われていたのだ。邪竜の前で置き去りにすれば、誰でも死んだと思うだろう。だが……見逃したのだな」


 最後の言葉は、俺に向けたものだったのだろう。

 俺は小さく頷いておいた。


「イルシアは誤報告を信じ、どうせならばと隊長だったお前の名を出した。それが運の尽きだな」


「だから、何の話を……」


「はっきり言おう。俺は奴に、嵌められたのだ。他の邪竜討伐隊員も、イルシアが俺を連れ出す口実を作るために殺したのだろう」


「そ、そんな! イルシア様が、そんな……いくらなんでも、そこまで……」


「嘘ならば、こんなことを口にする意味はない。ついてきてくれ。お前の証言が、どうしても欲しい」


 ハーゲンは、すぐには信じてはくれなかった。

 だが言葉を重ねて経緯を説明すれば、段々と理解を示してくれた。

 ハーゲンは元より、アドフの起こしたとされている殺人事件自体にきな臭いものを感じていたようだ。


「……その双頭竜、あの邪竜の進化体か。ということはやはり、俺は見逃されていたのか」


 ハーゲンは、首を項垂れさせながら言う。


「わかった、俺も、手伝おう。……このまま普通にのこのこと帰っても、口封じに殺されそうだしな」


 ようやく、ハーゲンが了承してくれた。

 馬……マリアの足の怪我は、相方の〖ハイレスト〗一発で完治した。

 起き上がったマリアは、ハーゲンをゴミを見る目で睨んでいた。


 ……動物から一度失った信用を取り戻すことは難しいと、前世でもそんなことを言っている奴がいたな。

 でも先に主が死にかけのときに逃げた前科を作ったのはお前だからな、マリア。


 玉兎、アドフ、赤蟻二体、ハーゲン、マリアを乗せ、俺はハレナエへと向かう。

 随分と、騒がしくなったものだ。


「竜よ、街の外で待っておくか? ハーゲンがいるのならば、交戦になることはまずないだろう。衛兵程度であれば、今の腕でも押し通せる。必ず、獣人の娘の罪を晴らしてみせよう」


 俺は首を振る。

 下手を踏んで最悪のタイミングで見つかりでもすりゃあ、治まりかけた問題を広げることになるかもしれねぇ。

 だが本当に話し合いだけで終わるとは、俺にはどうにも思えなかった。

 どう転ぶかなんて、わかったもんじゃねぇ。

 外でことが終わるのを待っているだけなんて、できそうにない。


「そうか……」


 それからまた、数時間ほど低空飛行でハレナエを目指す。


 岩が円状に配置されているのが目に入った。

 懐かしい。前も見たな、魔除けの魔法陣だ。

 いよいよハレナエが近づいてきた証拠だ。


 ちょっと不快感はあるが、別に問題はねぇ。

 ……そう考えていたのだが、玉兎が頭の上から落ちてきた。

 俺は慌ててキャッチし、地面へと着地する。


「ぺふぅ……」

『アレ……ナンカ、ヤダ……』


 ……やっぱりあれ、効果あんのか。

 俺は別にそこまでなんだけどな。

 魔物的な本能がほとんどねぇからだろうか。


「クチャア……」

「クチャ……」

「ヒヒィン……」


 赤蟻やマリアも俺の身体から降りた。

 そんなに駄目なのか。

 回り込むべきか?

 いや、囲むように配置されている可能性が高い。

 そうじゃなきゃ、意味ないもんな。


「……この辺りさえ抜けられれば、強力な魔除けの仕掛けはもうないはずだが」


 この辺りを、抜ければいいのか……。

 だったら悪いが、口の中で運ぶか。


「グォッ」


 俺はちらりと、相方を横目で見る。

 それから首を伸ばし、玉兎と赤蟻を口で捕らえた。


「クチャァッ!?」


 赤蟻の鳴き声が響くが、玉兎は黙っている。

 アイツも最初は嫌がってたが、慣れてきたもんだな。


 相方も俺を真似て、残されてオロオロしていた赤蟻へと舌を伸ばして口の中へと引き入れた。

 今度は前みたいに食べないでくれよ、割とマジで。

 口内でもがく蟻の動きを感じながら、俺は魔法陣地帯を突破した。

 また一度着地し、玉兎と赤蟻を口から出した。


 朝日が登り始めた頃、「そろそろ飛ぶのはやめた方がいい」とアドフから言われ、地へと降りて走った。

 じきに、ハレナエが見え始めてくる。

 俺は身を屈めながら移動し、ある程度近づいてからアドフ達を降ろした。

 これ以上は、ドラゴンの身体で近づくわけにはいかねぇ。


 全員が降りてから、俺は〖人化の術〗を使う。

 スキルLv7なのだから、大分マシになっているはずだ。


 熱が走り、身体が小さくなっていく。


「ガァ? ガァァッ!」


 相方が首を捻じり、ばたばたと暴れ出した。

 何が起こるか、不安になったのかもしれねぇ。

 玉兎を使って先に伝えておくべきだったか。


 身体が縮む最中、ふと嫌な予感がした。

 ……俺と相方の頭、大きさ変わらなくないか?


 俺は咄嗟に相方の頭を手で掴み、肩へと押し込むようにした。

 力づくである。


「ガァァアッ!」


 許せ、相棒。

 このままだと、二つ首になっちまう。


 変形中だからか、相方の頭は柔らかい。

 身体の変化に伴い、ぐいぐいと小さくなっていく。

 俺の身長が人間サイズになる頃にはなくなっていた。


 以前は2メートル以上あったはずだが、今はアドフよりも目線が低い。

 170か、180くらいと考えて良さそうだ。


 俺は後頭部を触る。髪が、ある。

 掴んで前へと持っていく。白い髪だ。肩に触れる程度には長い。

 ウロボロスには鬣があるからな。


 身体を見る。

 がっちりとはしているが、以前ほどではない。

 ところどころ鱗はあるが、大分人間体に近い。

 肌の色は、青白い。

 爪の尖りもかなりマシになっている。


 明らかに普通の人間ではないが、この世界なら亜人といえば通るんじゃねぇのか?

 肝心な顔は見えないが、問答無用で魔法を撃ち込まれることはない……はずだ。

 頭をぺたぺたと触ると、角があるのがわかった。


「ハーゲン、マントを貸してやってくれ。俺は顔を隠す必要があるからな」


「あ、ああ、わかった」


 ハーゲンがマントをこちらへと投げてくれた。

 途中で折られている。結構、長いんだな。


 アドフがマントを外し、ローブのように身体に巻いていく。

 俺もそれを真似て巻き、頭と身体を隠す。


「クチャッ!」


 赤蟻が、俺の元へと駆け寄ってきた。

 俺は赤蟻の上に乗り、玉兎を左脇に抱え、右手を赤蟻の背に置いた。

 アドフはもう一体の赤蟻に、ハーゲンは愛馬マリアに跨った。

 マリアは嫌そうな顔をしていた。

 アドフと入れ替えた方がいいのかな、あれ。


『拗ネテルダケ……ダト、思ウ』


 ……だったらいいんだけどさ。

 でも、推量形なんだな。

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