125.〖念話〗
玉兎が進化したことによって得た通常スキルは、〖念話〗と〖クリーン〗だ。
今思えば、玉兎が妙に察しが良かったのは〖念話〗を得る前兆みたいなもんだったのかもしれねぇな。
〖クリーン〗は……なんだ、そこまで俺汚ねぇのか? 掃除してくれるのか?
〖念話〗は、確か大猩々が持っていやがった奴だな。
自分の思考を他者にぶつけることができ、また他者の思考を読み取ることもできたはずだ。
つーことはこれ、玉兎を翻訳に立たせたら〖人化の術〗を使わなくてもニーナと意思疎通ができるんじゃね?
俺の思考を玉兎に読ませて、そんでニーナにぶつけてもらったら完璧じゃね?
俺はニーナが喋る言葉は普通にわかるわけだし。
おい玉兎、玉兎、お前俺の思考読めるよな?
ちょっと頼みたいことがあるんだけど!
「ぷへっ!」
俺が必死に念じると、玉兎は頭を上げて俺を見る。
お、通じたか!
これは玉兎電話作戦ありだわ。
玉兎と目を合わせていると、玉兎の方から思考が飛んでくるのを感じる。
『オ腹空イタ』
それだけ言って、食べ残していたラクダへと近づいていく。
ああ、うん、食べ物最優先なんだな……。
まぁ進化して質量増えたし、腹減るよな、うん。
つーか、ここまでデカくなってもやっぱり耳、引き摺るのかよ……。
さっきまで意気消沈してて飯が喉を通ってなかったみたいだし、ストレスから解放されて腹が減ったんだな。
仕方ないな。
じゃんじゃん喰ってくれ。
玉兎は残していたラクダの頭を耳で掴み、自らの口の中へと放り込む。
バリ、ゴキ、バリ。歯で何度も何度も頭蓋骨を噛み砕く音。
ある程度噛んでからはごくりと呑み込み、次の頭を先ほど同様に咀嚼し始める。
三つ目を完食したと同時に、玉兎の口からラクダの目玉がひとつ飛び出した。
コイツ、一応〖砂漠のアイドル〗なんだよな?
ニーナでさえちょっと退いてるぞ。
いや、頭やったの俺なんだけどもさ。
俺も味見程度にしか喰えてなかったから、またちょっと喰っとくか。
コブの部分、まだ喰ってなかったな。
前々からどんな味すんのか気になってたんだよな。
がぶりとコブのある背に噛みつき、肉を喰い千切る。
む、柔らかい。
コリっとっつうか、プリっとした感じだ。
ホルモンっぽい?
やっぱ脂身の塊だな。
俺、こういうの嫌いじゃないぞ。
コブの味を楽しんでいると、玉兎の食事が終わったのが見えた。
口の中に残っているラクダ肉を呑み込み、通訳を頼もうと玉兎へ接近する。
「ぷへっ」
玉兎が小さく首……つうか、頭を振る。
ん、なんだ?
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種族:桃玉兎
状態:通常
Lv :1/30
HP :47/47
MP :1/34
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うわ……MP、ないじゃん。
そういやラクダ戦で〖灯火〗連打してたところか。
進化しても別に回復しねぇもんな。
そういや大猩々も〖念話〗でMP使ってたっけな。
玉兎翻訳機はまた明日だな。
ニーナに病魔の症状が出なきゃいいんだけど。
〖人化の術〗にしても〖念話〗にしても、MPでこんなに困るとは思わなかった。
割と俺力任せ派だったからな。
魔法も〖レスト〗擬きしか使ったことなかったし。
玉兎、Lv低いせいかMP最大値も低いんだよな。
今日の内にLv上げといた方がいいか。
結構ステータス安定して来てるし、俺が手出さなくてもLv上げれるんじゃね?
そう簡単にはいかないか。
俺がひょいひょいLv上がるの、〖竜王の息子〗で必要経験値下げて〖歩く卵〗で取得経験値引き上げてくれてるお蔭だもんな。
俺の経験則とかはあんまし玉兎には通用しねぇかもしれねぇ。
ま、狩りついでにまた玉兎に戦ってもらうか。
ヤバそうだったら俺が手出せばいいわけだし。
また玉兎とニーナを背に乗せて移動するとすっかな。
やっぱりラクダでは水分が足りんし、サボテンが必要だな。
ニーナも水浴びとかしたいかもしれんし、一旦海辺の方とかも行ってみるか。
「グルァッ」
また玉兎とニーナに声を掛け、背中に乗ってもらう。
俺の背の上で、ニーナは必死に玉兎を抱えようとしていた。
結構そいつ重くなってると思うんだけど、あんまり無理するなよ。
最初は怖々だったニーナも、ちょっとずつ慣れてきた感じがするな。
海……どっちだったかな?
多分、こっちの方かな。
海はおまけみたいなもんだし、サボテン見つけて水分補給したいっつうのが第一目標なんだけどな。
俺は持つけど、やっぱしニーナとか玉兎はキツイだろうし。
ああ……あの巨大サボテンが残ってたら、安全にさっきの場所を拠点にできたっつうのに。
イフは考えても仕方ねぇな。
忘れろ忘れろ、俺。
ハイエナの親子に八つ当たりする気にはなれねぇよ。
アイツら、瞳がつぶら過ぎるんだよ。クソ、せめてもうちょっと悪どい面してたら全員燻製にしてやったのに……。
はぁ、今日はもう、サボテン喰ったらMP回復のためにぐっすり休んじまおうかな。
この砂漠で生きていくには、継続的にサボテン探さなきゃダメなんだよな。
とっととこの砂漠出ちまった方がいいか?
でも俺としてはあんまし今の姿で人里に近づきたくないし、そういう面ではモンスターうじゃうじゃで水不足なこの砂漠は丁度いいんだよな。
とはいえ、ここの環境はニーナにはあんまし優しくないのが。
そういう部分もまた〖人化の術〗と玉兎翻訳機でニーナときっちり話し合っていきたいところだけども。
お、遠くの方に水が見えてきたな……海が、あれ、海にしては小さくね?
つうか、なんか緑が見えるんですけど! え、何? 砂漠のど真ん中に湖があるんだけど!
あまり大きくはないが、充分な大きさだ。
湖周辺には、長い草や派手な色の花なんかも見える。
なんだ、ただの楽園か。
あそこ、あそこ拠点決定だわ!
「グルァッ! グルァァツ!」
喜びのあまり、思わず俺は首を後ろに向け、ニーナと玉兎へと吠える。
「にゃうっ!」
驚いたニーナが転げ落ちかけ、すやすやと心地よさそうに寝ていた玉兎が飛び起き、耳を駆使してニーナの体勢を整え直す。
玉兎がジトっとした目で俺を見る。
す、スマン……つい、ちょっとテンション上がっちまったんだ。
ほら、でも、前見てみって!
な、湖があるんだぞ湖が! 見てみろって!