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12.とある少女の後日談(sideミリア)

 目が覚めたとき、森の中ではなく、ベッドの上だった。

 この村唯一のまともな白魔導士であり私の師匠である、マリエルさんが傍に立っていた。


 マリエルさんは高齢ではあるけれども、外見が私よりも幼い。

 エルフの血がいくらか混じっているらしく、老化が遅いのだとか。


 オレンジの綺麗な三つ編みを垂らしながらジットリとした目で睨んでくる彼女を見ていると、本当に高齢なのかどうか疑わしくなるときがあるけども。


「まったく呆れたものじゃな! あれほどドーズに唆されるなと言ったじゃろうに!」


 マリエルさんは私が起きたのを見て安堵したように口許を綻ばせかけるがすぐさま引き締め直し、声を荒げて怒鳴る。


「ド、ドーズさんとグランツさんは!」


 私が上半身を起こしそうになるのを、マリエルさんは額を押さえて止める。


「……グランツは死んだ。死体が森から見つかったんじゃとな。本当に岩竜に手を出したのか、この馬鹿者がッ!」


「グランツさんが……あの、じゃあドーズさんは……」


「死体は見つからんかった。ただ状況から見て、喰われたと考えるのが妥当じゃろう」


 ……私だけ、生き残った。

 もっと、もっと止めるべきだったのだ。

 ロックドラゴンが辺りで一番強い魔物であることは、この村では共通認識だ。


 涙を流す私を見ながらマリエルさんは口から息を漏らし、それから私の身体の上に手を乗せる。


「……ミリアだけでも無事で、本当に良かった」



 頭を押さえながら、私は森であったことをゆっくりと思い返す。


 ドーズさんは、村一番の実力者だ。

 性格はちょっとおっかなくてすぐ怒るけど、村に来る魔物を追い返すのに一番貢献しているのは彼だ。

 その点に関しては皆信頼を寄せている。


 ただ数年前、狩りに出てロックドラゴンに手を出し、歯が立たず仲間を見捨てて逃げ出したことでよく陰口を叩かれていた。

 元々性格上恨みを買うことが多かったのだ。

 死人が出たからという面もあるのだが、ドーズさんを恨んでいた人達の悪意が、その噂を余計に広がらせていたように思う。

 とはいえ、武力面でいえば村一番の功績を上げている。

 そのことがまだブレーキになっていて、表立って何かを言う人は少なかった。


 しかしこの間、村に旅人を自称する剣士が現れたのだ。


『金はないが、森で狩った魔獣の肉やら毛皮がある。寝床と飯をくれ』


 その中には、ロックドラゴンの肉もあった。


 そのことを引き合いに出してドーズさんをからかった人が出たことがきっかけとなり、酒場で旅人とドーズさんは喧嘩になった。

 その果てにドーズさんは『今の俺なら倒せる』と売り言葉に買い言葉、回復魔法の使えるマリエルさんと、元流れ者でこの村に居着いたグランツさんに協力するよう声を掛け、マリエルさんに断られたドーズさんはその弟子である私に目をつけた。


 ついて行きたくはなかったけれど、『お前が来なくても俺は行く。そうなると、俺もグランツも死ぬかもしれねぇなぁ』と言われ、半ば脅される形でついていくこととなった。

 グランツさんも少し嫌そうだった。元流れ者という立場上、断り辛かったのかもしれない。

 ドーズさんは、人の弱味を突くのが得意な人だった。


 森でかなり小さめのロックドラゴンを見つけて……それで……、結局歯が立たなくて……。


 私は、見逃された?

 いや……そういえば、誰かに助けられたような気がする。



「あ、あの……私を助けてくれた方は……」


「オラスのことか? 村の中に入り込んできた魔物に襲われているところを、オラスが弓で……」


「い、いや……あの、私を森から運んできてくれた人が……」


「そんな人、おるはずがなかろう。あの夜、単独で森奥まで入っていた者はおらんかったし、黙っておく理由もないじゃろう? 自力で逃げてきたのではなかったのか」


 マリエルさんはあり得ないと、そう断ずる。

 しかし、確かにいたはずなのだ。

 私を背負い、魔物の群れから必死に逃げてくれた人が……。

 ……本当に、人だったのかな?


「夢でも見ておったのではないか?」


「そ、そんなわけないよ! 一人じゃ、絶対出てこられたはずが……」


「ミリアはまだ混乱しておるのじゃろう。ちょっと待っておれ、朝に作った鳥のスープを温め直す。まずはそれでも飲んで栄養を得ることじゃな。それからゆっくり話を聞かせてもらうとしようかの」


「確かに……私……」


 背負ってくれた誰かの背の感触。

 素人っぽくて弱々しかったけれど、暖かみのある回復魔法。

 薄っすらとながら、手が、足が、身体が、助けてくれた誰かの存在を覚えていた。


「ひょっとして、あのドラゴンが……」


 言いながらミリアは窓の外を見る。

 当然、あのドラゴンの姿が見つかることはない。

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