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第84話 絆の翼。イベント戦終了!

 歌姫の力は絶大だった。

 ほとんどの機体がD+だったが、今では先ほどの俺と桜子の機体レベルまでその性能が上がっていることを考えれば、どのくらいの戦力アップなのかは考えるまでもない。


 そして俺と桜子のS+の機体は、もう、笑っちゃうくらい強かった。まず気付いたのは反応の良さと、コクピットの快適さである。振動が確実に先ほどより伝わらなくなったため、攻撃や防御の反動で手元や足元の操作が狂うことがない。


 そしてパワー、防御力……これはすさまじい。一刀両断でき無かった相手を一撃で屠れるようになったため、殲滅力が段違いになった。そして防御力が、ウッドゴーレムや人形のゴーレムなどの攻撃をほぼ通さなくなったため、攻撃に集中できるようになった。


 一番強い宝石のゴーレムが厄介だが、消費魔力と魔力自体も上がったため、遠慮なくアーツを使って滅ぼしていく。

 それにしても……良かった。


 香坂とコラムダさんの漫才や歌は、アイリスの落ち込みを吹っ飛ばしてくれたらしい。多少機体の反応が鈍ってしまうのは覚悟していたのだが、今は目を爛々と輝かせて戦場に目を配っている。


 それにしても反応が良すぎる? 四方からの攻撃を紙一重でかわし、一気に四体を両断するとか、なんかイメージ以上に――

 いや、別に悪いことじゃないんだから考え過ぎないでおこう。


 戦場を駆けまわり、モンスターを蹴散らしていく。徐々に効率が落ちて言ったのはなんてことは無い……


「お、終わった……?」


 最後に残ったウッドゴーレムを誰かかバリスタで仕留め、戦場のあっちこっちに散らばった黄金の輝き……ハイ・ゴーレムも動きを止めていた。

 勝った……のか?


 誰かが歓声を上げようとして――


『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


 歌姫の歌声すらかき消そうとする咆哮が戦場に響き渡った。

 鳴動する大地。吹きあがるは、黒い……煙!? え? もしかして、赤黒の上ってことか!?


 そこが吹きあがっているのはまさに自分の足元だと気付いた俺とアイリスは、機体の全速力を持ってその場を離れる!!

 瞬間――そいつは現れた。


「は……ははは……マジかよ」

「おっきい……」


 俺の茫然とした声と、アイリスの素直な感想がコクピットに響いた。

 それは三十メートルは超える巨大なゴーレムだった……




 岩でもあり、鉄でもあり、木でもあり、布でもあり、宝石でもある。まるでつぎはぎの様なゴーレムだった。

 そのゴーレムが――


『全員――退避――っ!!』


 ――誰かの叫びと、その巨大な腕が振りはらわれるのは同じだった。

 避けられないものじゃなかったはずだが、避けられなかった。

 その腕から、岩、宝石、木材などが振り下ろす勢いを利用して、この南の戦場のあっちこっちに降り注いだのだ……!!


 恐ろしいほどの反応の良さで、盾でガードするだけではなく、背後に飛ぶことでその威力を殺して受けきった。

 それでも盾の耐久値はヤバい。後一撃受けたら完全破壊である。もう小槌もドリルものこっちゃいない。


 どうする……と言う自問にはアイリスが答えてくれた。


「守ったら負けます! 攻めましょう!!」

「……ああ! 倍返ししてやる!!」


 ここにきて、出すのが怖くて踏みきれなかったペダルを勢いよく踏み込む。グン――と言う加速の衝撃を体に感じた後、勢いよく、デュラハンの六倍の敵に向かって突進する!!


『つ、つづけぇええええええええええええ!!』

『『『『『おおうっ!!』』』』』


 俺の突進にさっきの攻撃から運良くのがれた人達が追従する。その中に――


『セイチさん!!』

「無事か桜子!!」

『はいっ! 戦うのですか?』

「ああ!! 付き合ってくれるか?」

『もちろんですっ』


 ガラス越しに俺たちは頷き合うと、ペダルを最後まで踏み切った。

 この中では一番の最高速を出せる俺と桜子の機体は、後続を置き去りにして、いち早く巨大ゴーレムの足元に辿り着く!!


 加速の勢いを利用して、俺と桜子は相手の関節の柔らかそうな部分――木の部分などを斬りつける!!

 両断できたが……浅すぎる!! 


 そのまま背後に回り後続と挟み撃ちにしようとして……既に巨大ゴーレムが後続に向かって両腕を振り上げているのを見てしまった……


「まず――」


 俺たち二人じゃ、どうにもならない――数が、仲間が必要な状況で、彼らを失うのは――

 だが、どうしようもない。挟み撃ちにするために一度止まってしまった状況から加速して体当たりしても、姿勢を崩せない――


 無情に振り下ろされる両腕を止められるとしたら……それは――


『――行きますっ!!』

『歌姫をなめるな―……ですよっ!!』


 鋼鉄の白い鳥が真正面から巨人の胸に体当たりをして、背後の俺たちの方向に突き抜けて行ったくらいの衝撃が必要だろう!


『うぉおおおおおおおおお! 香音さまー!!』

『コッラムダさーん!!』


 その歓声に答える様に、その白い鳥はさらに上空に上昇し――


『歌姫専用ハイ・ゴーレム!! 第四世代型の力を――』

『見せて差し上げますよ!!』


 え?

 その白い鳥は、あろうことか『変形』――した。


「えぇえええええええええええええええ!?」

「かっこいいです!」


 人型の白い天使へと。その姿はまごうことなきハイ・ゴーレムであった。

 しかし、第四世代型とか言った!? うわーい! 第一、第二、第三世代型を吹っ飛ばして第四世代型ってネタバレも良い所じゃないですか!?


 ああ、くそ!? それにしてもかっこいいな!! しかも人型でも、背後のウイングで飛翔を保てるのか!! うわあ、欲しい、アレ欲しい!!

 その機体は、腰の二本の筒を両手に持つと、


『戦闘起動!』

『了解ですよ、ご主人様!!』


 ボンと白い光が爆発的にそのコクピットから溢れた後、身体の関節から白い粒子を撒き散らし始めた。そしてその二本の筒からは、青白い光の刃が……もう、かっこよすぎて失禁しそうだぜ……!


 黒い煙を撒き散らすゴーレムと、白い粒子を撒き散らすハイ・ゴーレムと俺たちとの最後の戦いが始まろうとしていた。


『皆さん! 力を貸してください!!』

『私たちも全力で戦って、全力で歌って差し上げますよ!!』

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 歌姫たちの歌が始まると同時に、俺たちは雄たけびを上げて巨大ゴーレムに向かって突撃した。

 空を飛べない俺たちは下半身を中心に攻撃し、空を飛べる歌姫専用機は縦横無尽に飛びまわり上半身を攻撃していた。


 光の刃で切ったり、鳥の姿に変形して突撃したり、ハイ・ゴーレムもあそこまで行くとデュラハンとはもう別物だな!

 その雄姿を目に入れながら、俺と桜子はその左脚の膝を両側から、


「「ハイ・スラッシュ!!」」


 光る槍と剣で両断する!!

 今までのダメージもあったのだろう、片足は再生せず、ハイ・ゴーレムはついに体勢を崩して膝をついた形になった。


 よしっ!! と言う確信の後、見たくなかったものを見る。

 各部に散らばっている巨大ゴーレムの宝石が、光り輝き始めたのだ。いや、これ、明らかな攻撃色――!?


 カッ!! と言う閃光が戦場を満たす。


「アイリスッ!!」

「マスターッ!!」


 盾と剣を突き出し、俺たちはその光を受け止めた。

 その後――全壊した盾と大破した左腕。そして――


「ほとんど……全滅!?」


 光の粒子となって、あれだけいたハイ・ゴーレムがその姿をほとんど消していた。

 まぶしさにくらんだ眼を何度もまたたかせながら、その惨状を受け入れ始めた俺は、桜子の姿を確認してホッと息を漏らす。


 パイロットだからか、それとも桜子自身のプレイヤースキルか、その機体は五体満足だった。


「最後の悪あがきと思いたいけど――」

「マスター……相手の頭部に魔力が集中しています!」


 ですよね!!

 俺たちは機体を動かして奴の正面に立った。その口? からは赤黒い煙が漏れていて、


『まずいっ!!』

『ご主人様!! 私たちで止めましょう!!』

『ええ!! 行くわよコラムダさん!』


 ドシュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!

 音と共に赤黒い閃光が、守るべき村に突撃した。その光に白い光が追いつき、その両腕の光の刃で受け止めた。


 バシュウウウウウウウウウウウウウウウ!! 光の刃と赤黒い閃光が辺りを照らす。赤黒い閃光は光の刃に阻まれて、あっちこっちに飛びまわって大地を傷つけて行く。


『誰か!』

『あの胸のコアを!!』


 歌姫達の呼びかけに俺は奴の胸を直視する。そこには赤黒く輝く最後の宝石――いや、巨大なコアが露出していた。

 飛んでも届かない……! 登ろうにも左腕は動かないし……


 桜子に頼もうとした時――


『期待してるわよ、ギルマス!!』

『セイチ様!! ファイトです!!』


 ――そんなささやき声が届いた。届いてしまった。

 くそ!! 俺がやるしかないじゃないか!!


「桜子、腹の部分に槍を投げて刺せるか!?」

『!? 多分……いえ、必ずできます!!』

「頼む!!」


 そう言いながら、俺はその場から離れる。最高速を出すための距離を得るために。


『行きますっ!!』


 槍投げの姿勢を取った桜子のデュラハンは、黄金の粒子を大量に関節から噴き出して勢いよく、されど、精密すぎる精度で俺が指示したポイントに突き刺した!

 さすが桜子!!


「アイリス!! 行くぞ!!」

「はいっ!!」


 ――機体を走らせる!! すぐわきを赤黒い閃光が通って行くがビビってる暇すら無い!!

 後三歩、二歩、一歩――今だ!!


「跳べぇえええええええええええええええ!!」

「はぁああああああああああああああああああ!!」


 歌姫のサポートを受けた俊敏と瞬発力の力で――膝を折って尚二十メートルの位置にはあるコアへ跳ぶ!! ……のは無理なので。


「よっ!! とぉ!!」

「乗れました!」


 その器用さ、反応の良さを利用して何とか、腹に突き刺さった桜子のデュラハンの槍の上に着地する! 曲芸もいいとこだよ!? 

 だが、曲芸はまだ続く……!!


「さらにジャンプだ!!」

「はいっ!」


 槍から、勢いよく上へと跳ぶ!!

 目の前すれすれに、巨大ゴーレムの肉体があるのは凄い怖い……かすっただけで、この高さから落ちるのは確実である。


 だが――奇跡と言ってもいい曲芸の果てに、目の前にあるのは目的のコア――


「終わり――だっ!?」


 目の前に迫ったのは、この巨大ゴーレムに張り付いてたらしいウッド・ゴーレムだった。

 相手にならない相手だが……そいつを剣で両断した時に――俺達は千載一遇のチャンスを逃して――


「まだだっ!!」

「マスター!!」


 ハッチを開けて、既に落下し始めたゴーレムから何とかコアに向かって跳ぶ!!


「とどけぇええええええええええええええええええええ!!」


 ――だが、叫びはむなしく。曲芸の果てに辿り着けたはずの場所にはもう辿り着けない。

 俺の身体は無情にも重力にひっぱられ落下した。




 ガシッ。そんな音と共に浮遊感が消失した。

 誰かが背中に抱きついている感触――


「あ、アイリス!?」

「はい、マスター!!」


 その背中には純白の――翼!?


「どどどど、どうしたんだそれ!?」

「レベルアップしたみたいです!!」

「レベルアップ!?」

「それよりマスター! 歌姫様たちの援護があっても、このまま飛び続けるのは厳しすぎます! 一か八かで――」


 そう、俺たちの目の前には奇跡の果てが――アイツのコアがあった。

 混乱する頭を切り替え、俺は剣を手に取った。


「頼む、アイリス!!」

「了解です!!」


 上空の赤黒い閃光を止めるために、アイリスの翼を借りて俺たちはコアの少し上に――そこから飛び降りた。


「これで!」

「終わりです!!」

「「二重技ぁあああああ!! デュアル! ハイ! スラッシュ!!」」


 渾身の一撃を二人で与えてやった。

 俺とアイリス。二人で付けた×の傷は、コアに徐々に亀裂を生じさせドン!! と爆発四散させた。


 それを確認すると同時に力尽きて、小さく翼のない状態に戻ったアイリスをその胸にしっかりと抱き、今度こそ重力に従い落下した。

 ――ああ、本日の二度目の死亡か……俺が死んだらアイリスも死ぬから、このポーズに意味は無いんだよな……まあ、いっ――!?


「お疲れさま。かっこよかったわよ」

「お久しぶりです! 私ですよ! コラムダさんですよ!?」


 そっぽを向いたままおほめの言葉を言う香坂と、うるさいくらいに嬉しそうな顔で自分を指さすコラムダさん。

 ハッチを開けた第四世代型の腕に包まれて、落下死を免れた俺は、久しぶりに二人の顔を間近で見て、何だかホッとしたのであった……


 コアを失い、崩れ落ちる巨大ゴーレム。イベント戦終了のウインドウが表示されるのはこの少し後のことである。




 お、終わってよかった……このあとやる予定だったコラリスの部屋はまた後日に。それが終わったら、夏休みをいただきたいと思います。


 第四世代型の答え合わせ――まあ、可変機と言うことですね。第四世代型から、モンスターの素材を生かして、さまざまな機体が生まれることになります。


 アイリスの翼。これで少し未来のアイリスに近づきましたね。


 お気に入り登録、感想、評価ありがとうございます。またお待ちしております。


 それでは次回で。


 誤字脱字修正しました。指摘してくださった方、感謝です。

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