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第82話 イベント戦開始!! 歌姫登場編

 ロボオンの世界は八時間で一日。夜九時からのイベント開始の時は、ちょうど夕方となる。それも後十分程だ。

 村人と俺たちプレイヤーで作った城壁は高さ十メートルほど。厚さは城壁の上にハイ・ゴーレムが余裕で乗れるほどにある。


 それが円を描く様にすっぽりと町を囲っていた。村人があらかじめ用意してくれていた分もあったとはいえ、よく十二時間でここまでのものが出来たものである。

 その城壁の上で、俺たちは今……絶賛宴会中である。


「うほほーい!」

「いいぞー! 脱げ―!」

「……脱いでも強制的にジャージ姿に戻るだけだぞ?」


 例え酒を飲んだとしても、脳内に繊細に干渉するシステム上、酔っぱらうことなど出来ないはずなのだが……味と雰囲気で酔っているんだろうかこの人達は?

 定番となりつつある四ギルド勢ぞろいで南門の真上の城壁で、天音さんが用意した料理を食べているわけである。


 あれぇ? 最初は敵がどう来たら、どのギルドがハイ・ゴーレムを駆って救援に向かうだのと話し合っていたのに……どうしてこうなった?

 ジュースを飲みながら、辺りを改めて見回す。


 城壁の上には巨大なバリスタ――弓と鉄を持って造られた近代的なバリスタがいくつも設置されている。鉄の歯車のおかげで、人間の力でも弦を引けるようになっている。

 言うなれば活躍ポイント? を稼いでランキング上位を狙いたいけどハイ・ゴーレムを持っていない人達が、誰が使うかもめていたようだが……青い髪を持つこの世界の女神さまの見事な裁きで事なきを得た。


 ――俺が問題にしているのはこのバリスタだ。明らかに普通の大きさのモンスター用の武器じゃない。どうも今回攻めてくる敵と言うのは……

 ――さて。防衛戦と言うからには。この城壁を突破されて村にその巨大なバリスタが必要な敵の侵入を許しちゃいけないわけだ。


 歌姫発表の日の翌日は200人程度だったこのワールドも、今では600人以上となった。それでも他のワールドに比べて人数は少ないが、このイベントは参加人数によって難易度が変わるみたいなので、そこまで悲観はしていない。まあ、人数が多いほど有利らしいけども……


 昼を過ぎたあたりから、参加する生産者も30名を超えた。アイリス以外の精霊AIは天音さんの男の子意外に見たことが無かったので新鮮だった。

 中には、パイロットだがこちらの手が足りなさそうなのでこっちに来た人もいたな。


 そんなことを思っていると、

 ――ビリッと。空気が変わった。

 青い空が徐々に夕闇に支配されていく。


 この場にいる全員が申し合わせたように、残った料理を口にかっ込み、飲み物でそれら全てを飲み干すと、城壁の外を見た。

 荒野から波が押し寄せていた。波……そうモンスターの波が。


「おいおいおい……!」


 誰かが興奮と怖れを交えて意味のない言葉をつぶやいていた。

 それはゴーレムの群れだった。巨大化したゴーレム……まさに、ハイ・ゴーレムと同じくらいの大きさだ。


 鉄のゴーレム。岩のゴーレム。木のゴーレム。人形のゴーレム。宝石のゴーレム。多種多様なゴーレム達が、バラバラではあるがこちらへと直進していた。

 ビーッ! ビーッ! と言う、あからさまな警告音があっちこっちから鳴り響き、プレイヤー全ての目の前にウインドウが表示された。


『迫りくるゴーレム達から村を守れ! イベント戦開始!!』


 どうやら、あの数百体に及ぶモンスターの群れから百機にも満たないハイ・ゴーレムと生身のプレイヤーたちとNPC達の援護で村を守りきらないといけないらしい……


「うんうん……ああ。どうやら南が主戦場……おう、西は頼むっす!」

「おっけー。東は任せたわよ天音!」

「うむ……すまないが北側は任せる。手が足りなくなったら言ってくれ」


 それぞれのギルマスが、南以外に造られた城壁の扉三か所に連絡を取っていた。どうやら、南より数は少ないがそれでもこちらにハイ・ゴーレムを回す余裕はないようだ。

 一ギルドに付き約十機ずつ。俺のギルドは桜子と俺だけだから二機の、三十機ちょっとのハイ・ゴーレムがここでの主戦力になる。


「セイチさん!」

「ああ!」


 桜子の呼びかけに二人して、二人の専用機に乗り込む! 桜子とシロコは僅か一日でこの機体を乗りこなせるほどに絆を高めたらしい。

 ハッチを閉じて、火のコアが目覚めるのを一瞬だけ待った後、機体を立ち上がらせる。


「しまったなぁ……ここまで戦力の差があるんなら、こっちも遠距離武器を持ってくるべきだったか?」


 生産者らしく裏方に回ろうと思っていたのがあだになったか。ここまでの戦力差がある以上、一機も無駄に出来ない。


「桜子が弓を使えるのがせめてもの救いか」

「はい。鉄蜘蛛への奇襲に使ってましたが、とても良い腕前でした」


 なら任せるしかないか。現実ではアーチェリーを少しやった程度で、ロボオンでは一度も弓を握ったことがない――つまりはスキルlv0の俺が今さら弓を使うよりはいいだろう。


『セイチさん! 作戦通りでいいっすか!?』

「そうですね。さすがにあの数をハイ・ゴーレムで止めるのは至難の業ですから、城壁で一度受け止めるっていう当初の作戦通りでいきたいと思います!」


 城壁と言う本来守らなければいけない最終防衛戦をあえて盾にする。俺たち生産者とパイロット……そしてNPCが造ったこの城壁の防御力を信じるしかない。

 速度を付けた突進は一度きりだ。前のモンスターを潰す気なら断続的に来るだろうが、そこら辺は無茶をしないと言うモンスターの良識に賭けるしか……ってあるわけないですよねそんなもの!


 それでも数百体の突進を、僅か三十機で止めると言うのは不可能だ。突進さえ止まれば、接近戦が得意なパイロットたちでも戦いようはある。


「後は遠距離武器で、どれだけ突進の勢いを殺せるか……」


 ――バリスタ組とハイ・ゴーレム、それと生身で弓矢を持った遠距離舞台の活躍に期待したい所である。

 あたりはハッチを閉めてもうるさいくらいに、喧騒は加速度的にその騒がしさを増していく。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!! と言う振動と音が徐々に近づいてくる。あれほど小さく見えていたゴーレム達が、もう大きいとわかるくらいの距離まで迫ってきていた。


「うてぇええええええええええええええええ!!」


 低く、響き渡る声。遠距離の射撃の合図を任された龍角さんの声だ。

 バリスタは一度試射していて、その時、売った木の槍が突き刺さった所までゴーレム達が迫ったのだ。


 ガガガガガガガガガンッ!! ヒュヒュヒュヒュヒュンツ!! 

 一斉に射出されて空に舞った木の槍たちは真っ直ぐに飛翔して――命中!!

 何体かを粒子に変えて突進に大きな隙間を造ることに成功した。


 それが何度か繰り返された時――敵は目の前まで迫っていた。


「伏せるか、掴まれー!!」


 龍角さんの指示に、ハイ・ゴーレム、生身問わずに全てのプレイヤーが指示通りに動いた。

 ドォン!!


 一度大きな揺れの後、断続的に城壁がぐらぐらと揺れた。誰かが急いで下を見て叫ぶ。


「ひび割れたけど、まだ破られてないぞー!!」


 大きな門も扉も城壁もその突進を受け止めていた。


『接近戦部隊! 突撃よ!』


 俺と同じく剣と楯を装備した黄金のデュラハンに乗ったララナさんが叫ぶと、その場にいた全員が武器を掲げて雄たけびを上げた。


「ふぅー……行くぞ! アイリス! 戦闘起動だ!」

「了解です! マスター!」

「桜子もシロコも準備は良いか!?」

『はい!』

『ニャーオーン!』


 俺たちは城壁の上から飛び降りた!

 そのまま城壁に取りつこうとしていた奴の頭を踏みつけ、岩のゴーレムの頭を剣で両断するっ!!


 すげえ乱戦だ……生身の人達もゴーレムの頭に取りつき、その目などを攻撃して戦っている。

 まるで中世か戦国時代の戦争だ。人の命が軽く消えて行く戦場……


 死にたくなければ……動けっ!


「ハイ・スラッシュ!!」


 次から次に押し寄せる敵に、アーツを交えつつ応戦する。統率もクソもない力押しだから、隙間が生まれ、そこを逃さなければゴーレムに埋もれることもない。

 桜子はゴーレムの突撃を軽やかに交わし、弓から持ちかえた槍で一撃でその命を断っていく。


 ガラス越しに桜子と頷き合うと、俺たちは連携して、その戦場を駆け抜けて行った。




 デュラハンの左腕はすでに動かなく、残りの魔力は僅か……俺はその状態で宝石をちりばめた――この中のゴーレムの種類では一番強かった奴の首を断ち――その直後に他のゴーレムの体当たりを喰らって……


「し、死んだぁ……」

「も、申し訳ありません、マスター……」


 初めての死に動揺しそうになるが、俺よりも動揺しているアイリスの前でそんなことはできずに笑って次のアクションをしようとする。


「おっけーおっけー! ここは町の中心か……デスペナはどんな感じ?」

「全てのスキルlvが半減してます……HPなども同様かと」

「うっ……きついな……」


 そう呟いた瞬間に、光が俺を包んだ。


「生産者が造り出した、包帯、料理などの効果でデスペナルティが二十パーセントまで軽減されました!」

「おおっ! 助かる!」


 さっそく大破したハイ・ゴーレムを呼び出す。


「こりゃ酷い」


 両腕、両足、コクピットも……これじゃあ、ハイ・ゴーレムに乗っての修理は不可能。鉄蜘蛛の素材で作った修理用の小槌で、コクピットと片手だけでも直さないと。


「桜子は無事に戦線を脱出できたかな?」

「……どうやら無事の様です。今は城壁の上に戻り、弓矢で応戦しているとのことです」


 そっか、死んだかいもあったと言うものだ。

 一番戦闘力の高かった接近戦部隊の俺と桜子は、遊撃部隊として苦戦している奴らの援護に回りつつ、戦場を荒らしまわった。


 おかげで城壁のダメージは減ったのだが、俺と桜子に標的が移ってしまい四方八方からの攻撃にさすがに死を覚悟した俺は、桜子を何とか脱出させ、その場に仁王立ちで残り、敵を蹴散らしつつ――最期を迎えたと言うわけである。


 デスペナで多少動きの鈍った身体を動かしつつ、小槌で叩いて修理を始める。全身真っ赤で見てられないな……何度か叩いているうちに黄色になった。次は右腕を黄色まで戻して……


「アイリス、どうだ? 右腕は動かせそうか?」

「……はい」


 ギギギギ……と不快な音を立てつつも右腕は動いてくれた。俺もまだボロボロのコクピットに乗り込み、装備アイテムを修理用のドリルにして、怖いがその先端をコクピットに向けて修理を始める。


 数分後――


「よしっ! 完全復活!!」


 デスペナは残っているものの、デュラハンだけは修理を終えた。さすがに鉄蜘蛛素材を使ったドリルは耐久値もまだ半分残ってる。


「セイチくーん! こっちもお願い」


 黄金の柱付近――村の中心部に光とともに現れたのはララナさんだった。


「ララナさんも死んだんですか!?」

「千花繚乱の二人が戦場から離れたら結構ガタガタよぉ……正直まずいわね。これじゃあ戦力を集中させたはずの南から落ちるわよ」


 やっべえ……少なくとも隊長を任されたララナさんの死は前線に悪い影響を及ぼすことは必至――俺は彼女が呼び出した大破した黄金のデュラハンの修理を開始した。

 時間はまだ一時間も経っていない。モンスターを倒しきることはおろか、イベント終了の二時間後にも辿りつけそうにない……!


 俺とララナさんは村の大通りを修理が終わったばかりのデュラハンで駆け抜けて、ドォン! ドォン!! と大きく揺れる南門の扉に驚く。


「まっず!」


 ハイ・ゴーレム用の段差を飛んで昇って、城壁の上に辿り着き、そのボロボロな扉を今にも破壊しそうなゴーレム達を止めようとし、飛び降り――かけた。


 その時だった。彼女が――いや、彼女たちが現れたのは。


『なに、あれ?』


 俺と一緒に飛びおりかけていたララナさんが空を見て茫然とつぶやいた。俺も同じようにそっちを向く。そこには黄金の柱――村の中心部から真上に――


「鋼鉄の白い……鳥?」


 そこにはいつの間にか、白い鳥が浮かんでいた。ちょうど、城壁の俺たちと視線を合わせる高さで。

 そしてその背中には二つの人影が。


 カッ! カカカカッ!! と本当にどこからなのか、その二つの人影にスポットライトの嵐が集中した!

 ――いや、わかってるよ。全く待ちわびたぜ。


 上空に彼女の姿が大きく映し出される立体映像が生まれた。それはどこからどう見ても、ツインテールの髪型にし、歌姫の衣装をまとった――


『みなさーん!! お待たせしました―!! 私がこのワールドの歌姫! 赤坂 香音です!!』


 そう彼女が宣言した途端、その白い鳥から淡い白い光が爆発的に広がっていき村を城壁ごとすっぽりと覆った。その効果は絶大だった。


「モンスターが……吹っ飛ばされた?」


 そうモンスターだけがその白い光に阻まれて最早城壁に触れることすらできなくなっていた。

 俺がそれを確認していると、町のいたるところから歓声が上がった。


「うおー!! 香音姫ー!!」

「テレビで見るよりかわいい!!」

「香音姫ー! 俺だ―結婚してくれー!!」


 なんだ……結構ファン? っぽいのもいるじゃないか。

 誰が始めたのかは定かではないが『香音! 香音!』の香音コールが村全体で始まった。


 ――そして……そう、今まで彼女の後ろで控えていた奴が前に出てきた。


『皆さま、お待たせしました!! 皆さまのアイドル! コラムダさんですよー!! 諸君、私は帰って来た!!』


 何であなたも歌姫の衣装を着て、香坂と同じリボンのついたマイクを持っているんですか……ねえ、コラムダさん。

 その輝かしい笑顔には悪いが、知名度なんて無いあなたがそんなことを言ってもノリのいい人じゃないと……


「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!! コッラムッダさーん!!」

「きゃああああああああああああああ!! 本当にコラムダさんよ!?」

「え? え? GMにならずに歌姫の精霊AIになったんすか!?」


 なに、この大歓声? どういうこと?




 ロボオン史上、一番長い話になってしまいました。


 お気に入り登録、感想、評価ありがとうございます。またお待ちしております。


 それでは次回で。

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