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第80話 ハイ・ゴーレムのいる光景。

 一心不乱にアイリスとハンマーでカンカンカンカンと装甲を造っていると、見覚えのある機体が近寄って来た。


「あのザ○カラーは」

「クロマツさまかと」


 さすがに一昨日自分が叩きつぶして、自分で直した機体のことを忘れるのは難しい。ただ忘れてはいけないのは、専用機化をしてない以上、誰が乗っているのかは分からないと言うことだ。


 ――まあ、予想通り緑のデュラハンのハッチを開けて現れたのは軽そうな青年、クロマツさんであった。

 期待を裏切らない男と言えば聞こえはいいが、それがお約束方面に特化してしまっているのが残念な所である。


 彼はハッチからキョロキョロ下を――つまりは生産者が集う広場を見回すと、鍛冶場の俺に視線を止めてこちらに機体を下りて近寄って来た。


「セイチさん、お疲れさまーっす」


 口調はいつも通りなのに、正しいお辞儀――最も丁寧と言われている四十五度のお辞儀をしてくる。どうやら、ボコボコにしてしまったのがトラウマとなってしまったらしい。彼の精霊AIであるウルフ君もまるで子犬のように彼の肩で丸くなってこっちの様子をうかがっている。


 いや、まだ二対一の状況だったし、素早くもう一人は倒さなければならなかった。明らかにこっちを見てビビってしまったウルフ君の制御を見て、その鈍った機体を素早く転ばして、何度も何度も何度もコクピットを丁寧に踏みつぶしただけなのだが……


『グシャグシャにつぶれて行くコクピット内部は笑い事じゃなかったんっす!!』


 とは助け出された直後のクロマツさんの談。

 無情に連続で揺さぶられるコクピット内部ではうまく敗北宣告も出来ず、ガラス片は雨となって降り注ぎ、ガラスを支えていた鉄骨もグシャグシャにひしゃげて、ガラスが無くなったことによって、目と鼻の先まで巨大な足裏が叩きつけられる衝撃を何度も浴びて――うん、トラウマものだね。


 とはいえ、謝るつもりは毛頭ない。聞けば、やはり、バトルロイヤルを提案する以前に話し合っていて、共闘を裏で約束していたと言う。明らかな詐欺行為、だまし討ちである。例え、親友だろうと許せぬ行為である。


 誤解を恐れず言えば、ララナさんの機体を仕留め切れなかったのが心残りですらある。悪いことをしたらぶん殴られると言うのが、我が家の常識だったからな。その分、我が家の『悪いこと』は、犯罪レベルとか、人の心に消えない傷を残すとか、そう言うレベルじゃないと悪いこととは思わないのだが。


 うん……姉にボコボコにされた俺を見て、祖父母、両親ともに「可愛がられてる」としか思って無かったからなー……外から嫁いできたはずの母さんも草壁家に毒されまくっている証拠である。


 まあ、ルール上負けを宣告したら手を出せないと言う仕方のないことであったし。三人には俺を含めたその場にいる全員に謝罪をしてもらったから、よしとしよう。

 無論。マスターの言うことに従っただけの精霊AIの子たちには罪は無いので、アイリスに軽い謝罪をしてもらったのだが……いや、俺が行っても今のように怖がられるからね。勝つためとはいえ、結構な代償を払ってしまったものである。


 子供……と言うか子オオカミに嫌われている――と言うか恐れられている状況に一度嘆息してから、クロマツさんに挨拶を返す。


「お疲れ様です。クロマツさん。もうデュラハンで働いた後ですか?」

「そうっす! いやあ、セイチさんには悪いことしたのに、デュラハンをあんな低価格で二十機も譲ってもらっちゃって……」

「ちゃんと動いてます?」

「ええ、もちろんっす! 良かったらこれから城壁の方に来ませんか? そのお誘いに来たんすよ!」


 ふむ……ハイ・ゴーレムがたくさん働いている光景か……それは大変興味がある光景だ。

 アイリスも目を輝かせているようだし、俺は頷いた。


「じゃあ、俺のデュラハンの手に乗ってください! おい、ウルフ! 行くぞ!」


 しかし、オオカミの名前をウルフって……人間の名前にヒューマンとか付けちゃうのと一緒のネーミングセンスじゃないか? まあ、ウルフ君に文句が無いのなら良いんだけども。



 微妙に震える手と腕に寄り掛かり、デュラハンが動く振動に身体を揺らしながら、高い視点で街を見下ろしつつ、量産のことを思い出す。

 事の発端は、ハイ・カードの解体に遡る。


 風の大岩のハイ・カードから出た素材は、『巨大化・鉄鉱石』だったのだ。

 巨大化の影響を受けた素材――それは一つで、生産の時に普通の素材の五倍として計算されるみたいなのだ。


 ――つまり、百消費する物を生産する時ならば、巨大化の素材を使えば二十個で済むのだ。

 普通のカードと同じで素材は3~5ほど出て、俺の解体スキルlvなら今のところ5個ずつ出た。


 ハイ・ゴーレムでの移動速度の上昇なども考えれば、人間の状態で素材を集めるよりは早く済む。

 問題なのは、まだ序盤の場所ではハイ・カードが手に入る採掘、採取のポイントが少ないと言うところであろうか。


 巨大化したモンスターがほとんど出ない……出たとしてもビック・スライムくらい。安全な場所で巨大化したものはそう多くないのだ。さらに悲しいことにビッグ・スライムが落とすカードはハイ・カードではない。

 そこを解決するのが、人海戦術である。


 ロボオンに置いて、一か所の採掘ポイントでカードを手に入れられる回数は場所ごとに決まっているのではなく、プレイヤーごとに決まっている。

 例えば、俺が粒子がでなくなるまでつるはしを振るったとしても、俺以外のプレイヤーでその採掘ポイントが見れる奴ならそこを掘ることができるのだ。


 俺はハイ・カードによる巨大化素材や普通の素材でも良いので、集めてくれることを条件に、ハイ・ゴーレムを二十体まで、一体に付き10万で売ることにした。

 彼らはその条件をのみ、土曜日をほぼ丸一日使って、俺に素材を提供してくれ、俺も姉たちが来るまでに合計で60体ほどのハイ・ゴーレムを彼らに売った。


「でも良かったんっすか? 他のギルドの戦力を、イベント前に増強するようなことをしても?」


 ハッチを開けたままなので、肉声で俺に話しかけてくるクロマツさんに頷く。


「前にも言った通り、イベント戦で一番の活躍をしてMVPとか取るよりも、まずはイベント戦に勝たなきゃいけないと思うんですよ」


 普通のRPGのイベント戦とは勝つか負けるか決まっていることが多い……が、ネットゲームにおいてはそうじゃない。プレイヤー側の善戦虚しく負ける場合もあるのだ。

 負けて一番活躍するより、勝ってあまり活躍できない方が何倍もいい。負けて一番活躍したい……って言うのは、良くあるやられ役とかの考え方だしな。


 名前に巨大化が付いたとはいえランクはあまり変わらず、風岩や糸の木からとった素材で作った機体はランクがD+ほどになった。ちゃんと、それぞれが得意な武器もおまけで付けておいたので、今回のイベント戦では重要な戦力となってくれることだろう。


 デュラハンの手に乗って移動した俺たちは、その光景を目にする。


 人とデュラハンが一緒になって城壁を組み立てて行く光景を。俺たちプレイヤーに与えられた目的とでも言うべき、ハイ・ゴーレムをこの世界に復旧させると言う目的の第一歩目に見えた。


 そのデュラハンのほとんどが俺とアイリスの手によって創られたものだと言う事実は、少し誇らしかった。




 巨大化素材によって量産化は進んでいきますと言うお話でした。とにもかくにもハイ・カードはハイ・ゴーレムを手に入れ無いとほぼ手に入れられないため(巨大化モンスターを生身で倒せればその限りではない)ハイ・ゴーレムを手に入れられるかどうかが最初の壁になります。


 お気に入り登録、感想、評価ありがとうございます。またお待ちしております。


 それでは次回で。

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