第72話 走りの実験。観戦編
「――うーん……専用機化しても自由自在にと言うわけにはいかなかったけど、通常歩行くらいなら出来るようになって良かった」
初めての二足歩行……と言うより、初めてのスケートに近い感覚で俺とアイリスは、自分の機体で専用機化した桜子の機体の両手をそれぞれの手でつかんで、ゆっくりと起こした。
ゆっくり……ゆっくり……ガシャン、ガシャン……
……うん、ぶっちゃけ、俺は見ているだけだね。バック用のペダルがあるわけでもないし、操縦桿のスイッチを押し込み続け手を掴む姿勢を維持しているだけだ。
その分、機体を操っているアイリスは真剣そのものだ。その真剣な顔は、妹であるシロコに自信を取り戻させようとしているからだろう。ああ、なんて麗しい姉妹愛なんだろうか……ちょっとコなんとかさんとか、うちの姉神にも見習ってもらいたいものだ。
長い様な短い様な独特の緊張感のある数分……それが過ぎ去った頃には、桜子とシロコのデュラハンは自由に歩き回れる程度にはなっていた。
はあー……良かった。専用機化で搭乗lvの制限が緩くなるかもと言うのはあくまで俺の予想でしか無かった。失敗したらどうしようと内心冷や冷やだった。
だが。この実験は目に見える数値じゃない分、上手く動かせないプレイヤーと専用機化できるハイ・ゴーレムと言う二つの条件がそろわないと出来ないから、どうしてもやっておきたかった。
ここら辺がコミュ能力が無いと言われる所以なのかなー……ここで心やさしい人間なら、そんな実験には参加させず、二人が落ち着くまで待って、Dランクゴーレムをプレゼントし直すとかするんだろうけど……
ゲームの世界とはいえ、相手は人間だ。ゲームの世界だから怪我とかしないし……と言うのは俺の甘えであろう。
成功したけど、後で謝っておかないとな。悪いことをしたら素直に謝れると言うのは小学校の頃の通知表に先生に書かれた俺の数少ないセールスポイントなのだ。
全員で他のギルドメンバーが残っているパーティー会場に戻った俺たちを迎えたのは大歓声だった。
どこのギルドも乗せて乗せて乗りたい乗りたいの大連呼。専用機化しちゃった俺たちはどうやっても乗せて上げることはできないので、テーブルに残った料理に手を伸ばしながら、桜子とシロコにあやまって置いた。
二人はなぜ謝られたのかわからないようにキョトンとしていたが、説明したら、気にすることではないと言ってくれた。胸のつかえが取れた気分だ。
……だが、これは桜子たちが気を使ってくれたと言う可能性が大いにあることを忘れてはならない。うん……俺も二十歳なんだし、もうちょっと大人になろう。
「マスター。このお料理は何ですか?」
「ぬ……チンジャオロース? 肉は良いとして、たけのことかもあるのか……」
アイリスが知らない料理が多く、その質問に答えながら、それぞれのギルドのプレイヤーたちが満足するまでハイ・ゴーレムを動かすのを見届けた後……今日の目的の一つである実験が行われることになった。
今回やる実験はそもそもランクごとの性能差がどの程度のものなのか? そしてプレイヤーのスキルlvがどの程度機体性能に影響するのか? と言うものである。
都合良くほぼD、ほぼC、ほぼBの機体が揃っている。
まずはプレイヤーのスキルlvの影響がどの程度のものか調べることになった。単純にそこから調べておかないと、ランクごとの違いを調べる時に影響が出るからだ。何もかもが同じlvのプレイヤーなどいない……はずである。
ロボマツさんとこから初心者さんがDランクの機体に乗り、鉄塊さんとこからはギルマスの発売日からプレイしている龍角さんがDランクの機体に乗り込んだ。
「うーん。やっぱ、五メートルとはいえ、ロボットが動く姿をこの視点で見るって言うのは感慨深いものがあるよなー」
「もぐもぐもぐもぐ……はい、マスターのハイ・ゴーレムは最高です」
「アイリス君。無理せずにそこら辺は料理が最高ですと言っておきなさい」
俺たちに味覚があると言うことは、そこらへんのデーターもAIに適応できると言うことである。アイリスはまるで人間のように、天音さん作のおいしい料理にさっきから舌鼓を打ちっぱなしである。
AIに食事は必要ないから、趣味嗜好のレベルだが……こんなに無表情ながらももぐもぐ食うほどはまるのなら、もっと速く料理スキルに手をつけておけばよかったな。別に天音さんに嫉妬しているとかそういうわけじゃ以下略!
二つの機体は同じように歩いたが……差は生まれなかった。まあ、歩きに差が生まれるなんて言うのは、股下が同じの機種同士じゃ差は生まれないのかも。
問題は走りかなー……
その走りにはもう一機体――天音さんが乗り込んだDランクデュラハンに参加してもらうことになった。
初心者=精霊AIとの絆がまだ低いと言うことになるため、俺の説が正しければそれだけで龍角さんとは差が生まれてしまう。その点、普段走らない天音さんは絆と言う点では龍角さんに引けを取っていないようだし。
「よーい……スタートォ!!」
ちなみに掛け声と審判役は桜子が行っていた。うちのギルドからも人員を出さないと悪い気がしたから、俺が行こうとしたら、
『お任せください!』
と偉く力強い頬笑みで言われたため、思わず頷いてしまっていた。
うーん……少し前のアイリスを思い出す。今のアイリスは良い感じに肩の力が抜けている。別に俺をないがしろにしてるとかじゃなく、俺と言うマスターに慣れてきた感じがする。
要するに仕事に慣れてきたってことだな。俺が何を求めているのか、何を不快に思うのか、何を楽しいと思うのか……俺との時間の他にも、コラムダさんとの勉強会によってそれを理解したんだ。
その点、新メンバーの桜子はまだ理解していないと言うことなんだろう。と言うか、別にギルマスに誠心誠意尽くさなくても良いと思うんだが……女子中学生の心境はわからないなー……うちの姉たちを参考? よく、イノシシとかクマとか持って帰ってきてたな―……そう言えば、家で三年ほど飼っていたいたクマ五郎は立派な森の主になったんだろうか? 姉神二号に無理矢理武術を仕込まれていたけど……
ともかく、桜子の合図とともにドンッッ!! と言う音と共に土と草がはじけ飛んで宙に舞い、一気に加速したデュラハンが草原を駆けた!!
「うおっ!? やっぱ、自分で乗っているのと迫力が違うな!?」
「ごっくん! はい!」
慌ててテーブルのパスタを咀嚼したアイリスもその光景に心を驚かせているようだ。自分で乗っていると、風景が勢いよく流れて行ったりする迫力はあるのだが、やはり外から見るロボットと言うのは格別だ。
あっちこっちから歓声が上がり、その歓声を受けて三機のデュラハンが加速する! 先頭は……龍角さんか! その斜め後ろに天音さん。そしてちょっと遅れ気味なのが初心者の人だ。
うーん……確かに差は出たけど、走行スキルが関わっているかどうかの証明は難しいか? 差が出ただけでも良しとすべきかな。
三機は予め遠くに立っていたデュラハンを回って帰って来た。
「ふぅ……やはりこの距離でもずっと走り続けるとなると、魔力をかなり消費するみたいだ」
龍角さんが自らの精霊AI(飛龍)に聞いてみたところ、約七パーセントほど魔力を消費したと言う。
アイリスにタイムを聞いてみたら、五分程の時間だったと言う。走ると一時間ちょいでガス欠か……魔力と言う燃料はC、消費魔力はD+……これは覚えていた方がいいかもしれない。
いやあ、それにしても大迫力だった。地面の震え、テーブルの皿が揺れる音、湧き上がる歓声……やったことは、ロボットの競走と言うアニメじゃあまり盛り上がらないことなのに。
「それでは次はお待ちかねのランクごとの違いの計測って奴っすね! 俺がCランクで良いですかね!?」
「君はキャラ的にDランクで我慢しときなさい。私がCランクで行くわ!」
「ちょ、ララナさーん!」
同じギルマスでも既に力関係はララナさん>クロマツさんらしい。さもありなん、さもありなん。年上の女性怖い怖い怖い怖い怖い……はっ!?
過去のトラウマが脳内に溢れそうなのを、アイリスの頭を撫でることで防ぎつつ、次の競争も面白そうだな―、やっぱりロボは外から見るのも良いよなー……とか思っていたら、
「ほらー、セイチちゃん! アイリスちゃんを可愛がるなんてうらやましいことしてないでさっさと機体に乗りなさい!」
とのララナさんのお声が。
ですよねー……桜子が現状歩き以外は無理だとしたら、Bランクは俺しか乗れませんものねー……
ハイ・ゴーレムの観戦と言う超面白い楽しみは奪われたが、乗るのも確かに楽しいし。
「じゃあ、アイリス! いっちょ、俺たちの力を見せてやるか!」
「了解です! 機体の性能が走力の決定的差でないことを教えてやります!!」
……ごめん、アイリス……俺たちの機体が一番性能が高いんだ……
主人公の性格で守っていること。
1、かなり親しい相手じゃないとツッコミはしてもボケられない。
2、姉のせいで基本、年上の女性からは受け身。年下でも基本は受け身。
3、優しくあっても甘くはない。
4、コミュ力一のため、仲良くなりかけの時の距離感がうまくつかめない。今回の失敗のもと。
5、嫌なことからは基本逃げる。
3と5はアイリスのせいで崩れかかったり、崩れたりしてますね。ロボアナの時はロボット物の主人公らしく、ロボオンの世界で今回のように反省と成長を繰り返したため、一国の軍隊と戦っていますが、この時点で向こうに行ったら……たぶん、ガンジさんを助けてそのまま逃げてますかね。異世界人があまり他世界に影響を及ぼすべきじゃないとか言って。
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それでは次回で。




