第69話 はじめての四ギルド会議。前編
「お、桜子。約二十四時間ぶりだな」
「はい、お久しぶりです」
「みゃー」
「シロコも久しぶり」
マイルームに訪ねてきた桜子とシロコを迎え入れて挨拶を交わす。久しぶりはおおげさな気がしたが、丸一日会わなかっただけでそんな気がお互いするほどに気心が知れていたと言うのはちょっと気恥ずかしい話である。
メールのやり取りで、スキルlvがどんどん上がっているのを知っていたが……ん? あれ?おかしいぞ? 今日は平日である……この子、昼間は学校だから、夜だって寝なくちゃいけなかったはずだし……
そのことを質問したら、
「サボりました。てへっ」
これほど舌を出して自分の頭をこつんとやるポーズが似合わない大人びた女子中学生もいないだろう……
しっかし、この女子中学生は……まあ、何でも母親に『色々』と相談したら、
『私が出来なかった青春を謳歌しているのね……! やるからには勝ちなさい!』
と応援してくれたんだとか。娘が学校サボってのVRMMOのプレイを応援するってどう言う親だ?
その初めて学校をさぼったにしては平然としている桜子は、アイリスとも丁寧なあいさつを交わした後マイルームを見回して、
「あらあら」
と驚いた。ああ、そう言えば設備が出来てから入るのは初めてだったな。
ふわりと浮いたアイリスが、率先して設備の説明をしている。移動する二人の後をとことこシロコがついて行く。そんなほほえましい光景を視界に入れながら一時間後――夜の八時を楽しみにしている。
『ロボマツ』『女子会』『鉄塊』の三ギルドと草原での受け渡しと話し合いだ。
量産化の目処はついた……後は値段だよなー。そこらへんも話し合いだよな。
あまり安くし過ぎると、俺以外の生産者――今はいなくとも、後からロボオンを始めようとしている人に迷惑がかかるし。パイロットには優しい世界だけど。
ネットで調べてみたけど、やはり二週間程度じゃ相場は安定していないみたいで、第一世界を参考にしようと言う目論見は失敗に終わった。
んー……ここら辺も他のギルドに聞いてみるかなー。とりあえず売るつもりがあるのは彼らなわけだし。
……ところで、あの娘たちはうちの台所(料理設備)で何で料理を始めているんですかね?
「ネットで調べたところによると、火を通せば大抵のものは食べられるんだとか……この『野良ウルフの肉』を焼いてみましょうか」
「桜子さま。料理には塩が必要です……じゃないと満足な食事にはならないようですよ?」
桜子……君のそれは自立とかじゃなくてサバイバルの領域だね……そしてアイリス。君の料理知識はタ○ラ料理長から来てるのかい。
桜子とシロコが料理して、アイリスが応援すると言う不思議な図。桜子がフライパンを一生懸命振って、ネコが前足で缶を振ってコショウや塩を振りまくと言うファンタジーな料理風景に言葉を無くす俺。
現実の料理とは違って、ステーキとはいえミニゲームでポンと出来るのは自炊している身としては何となく納得いかないが、本物の鍛冶師からして見れば俺のやっている鍛冶も納得いかないんだろうからしょうがないんだろう。
「は、初めてにしてはおいしそうな匂いがいたします!」
「みゃー!」
「桜子さまは料理の才能があるんですね!」
「私、もしかしたら、一人暮らしくらいなら軽く出来てしまうかもしれません!」
うん、突っ込んじゃいけない。突っ込むな……! 耐えるんだ、俺! いいじゃないか、VRMMOの中でくらい夢を見たっていいじゃないか!
自分か精霊AI、もしくは自分と精霊AIだけで食べないと効果が発揮されない料理を全員で試食した。うーん、Dランクなだけあってそこそこ程度の味だ。上等な肉とそれを繊細に仕上げる料理人の料理しか食べてこなかった桜子にはショッキングな味だったようだが、笑ってた。
『私も付いて行っていいですか?』
桜子にこれからの予定を話したら、そうお願いされたので二つ返事でOKする。人手は多い方が良い。
メールで俺たち千花繚乱を含めた四ギルドでハイ・ゴーレムの実験をしたいと言うのも既に伝えてある。三ギルドとも快く引き受けてくれた。
そんなわけで風の草原のワープポイントの南に集合することになった。実験には何の障害物もない場所が良いと思ったからだ。
十分前に行ったのに、そこには大きなテーブルが置かれ、その上には料理が置かれていた。この前にあった時より人が多く、三十人くらいいるだろうか。この前は昼間の時間帯だったし、仕事終わりのギルドメンバーとか増えたのだろう。
俺はその中で一か所……談笑している三人に声をかける。
「どもー。ギルド・マスターのお三方」
「ちーっす……って言うかセイチさん! ギルド創っちゃったんですか!? カーッ! 今回の件でうちのギルドに誘おうと思ってたのに!」
『ロボマツ』のギルマスのクロマツさんがそう言うと、
「そうそう。私たちも誘おうと思ってたのに」
「女子会には無理でしょ」
「アイリスちゃんが付いてくるならみんなOKらしいわよ?」
「俺の肩身が狭いと言う話ですよ!?」
『女子会』のギルマスのララナさん。あいかわらず、変な人だ。
「ふっ。俺はあなたがいずれ人の上に立つ男だと思ってたぞ」
「あはは……」
『鉄塊』のギルマスの龍角がカッコよく決めてしまったことから、まさかカスタマイズした機体に自分の名前が残るのが嫌だったと言う理由で創った、なんて言えなくなってしまった……
そんな半笑いの俺の肩を両側からだいたのが、クロマツさんとララナさんだ。クロマツさんは血の涙を流しそうな顔で、ララナさんはものすごい楽しそうな……と言うよりいやらしい顔をして笑っている。
「セイチさ―ん! 誰なんです、あのモデル体型の美女!? いや、VRMMOのアバターだと言うことはわかってるんですが、俺の男としての直感がリアルでも美女だと告げている!!」
実は本人は弄っていない現実とほぼ同じ姿形をしていますよー……なんて言うのは言うわけにはいかない。
「それより、あの振る舞いと言うか立ち姿……アレ絶対良いとこのお嬢様よね? なに、玉の輿狙ってんの!?」
あなたも一体何を言ってるんですか。ウシシとか笑うな女子。
桜子は自分が話題に出されていることに気付いたのか、優雅に頭を下げると、
「桜子と申します。ギルド『千花繚乱』のギルド・メンバーです。どうか我がギルド・マスター共々、末永い良いお付き合いをお願いいたしますわ」
……おおー……とその堂に入った自己紹介にこの場にいるほぼ全員が感嘆の息を漏らす。
「ちなみに中学生なんで、口説く人はロリコンのそしりを受けることを覚悟してくださいね?」
俺が付け足すと、
「「「「はぁあああああああああああああああああ!?」」」」
とララナさんまでがびっくりしていた。いい気味だ。
女子会にいる料理スキルと農業スキルを上げている人が創った料理らしく、中々においしいものが揃っていた。回復効果等もあるのにもったいない気がしたが、こう言う時に振る舞えないのは料理であって料理でないんだとか。
「なるほど。初心者と、上級者のスキルlvの差がどれほどハイ・ゴーレムに影響するかを知りたいわけだな」
「あー……歩行スキルでも20くらい差がつけばもしかしたら、違うかもしんないっすね」
「ゴクゴク! ぷはーっ! ……それとゴーレムのランクの差がどれほどの性能差になるかのテストかー……まあ、確かに買う側としても売る側としても明確な基準とまではいかないけど、そこそこの判断基準は欲しいわよね」
ギルマス四人で集まり、これからのテストの内容等をメールでは具体的に伝えられなかったことを確認し合う。ちなみに桜子は他のギルドメンバーと談笑したり、近くに湧いたモンスターを狩ったりしている。
俺はメールに含まなかったお願いをすることにした。いずれわかるだろうが、早めにわかった方がいいだろうというもの。
「後お願いしたいのが初心者の方に――」
「「「なるほど」」」
それは重要なことだった。生産者にとっては特に。
ずっと疑問に思っていたのだ。
それは――武器や防具にあるアレが、ハイ・ゴーレムには無いのかと言う至極当然な疑問である。
まあ、アレが無いとゲームバランスがちょっとばかりおかしくなってしまいますからね。ただ王道ロボット物には果てしなく邪魔なアレですけど。
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それでは次回で。




