第5話 Мな人には厳しい日本の仮想世界の話
「え? それはVRMMOのRはリアリティーのRですから。……もしかして、セイチ様は現実で自分や相手のステータスが見える能力をお持ちで!? ね、妬ましい、羨ましい……!」
「え……ちょっ、嫉妬の炎で世界を燃やしつくさないで!? 核の冬が来る――いや、マジで持ってない、持ってませんから!」
炎(どす黒い)を身体から噴出するコラムダさんから後退りながら否定する。怖っ! 高レベルAIってこんな無駄な機能を持っているAIってこと?
しかし、どんなに探しても『ステータス』が見つからない理由は、俺がドンくさいとか、バグとか、まだ条件を満たしていないとかの理由じゃなく、単純に仕様だったと言うオチが待っていたわけである……
バカな……ロボオンスタッフの考えが読めん。誰か、私を導いてくれ……!
「ふっふっふ……これが本当の『隠しステータス』と言うわけですよ」
「これっぽっちもうまくないんですけど!? なに、そのドヤ顔!?」
ドヤ顔に怒鳴りかえしておく。おのれ、コラムダ……そんな美人な外見じゃなかったら、モンスターを相手にする前に一戦交えている所である。
「まあまあ。これもロボオンの目玉の一つなんですよ」
「え?」
「ダメージを受けたら痛みますし、マジックポイントを使い過ぎれば頭が重くなる様な感じが出ますし、スタミナが減れば疲れますから」
「……いや、マジでゲームってレベルじゃないですけど……」
病室の少年の顔を思い出す。少年よ……五万でも安いくらいだぞ、これ……
仮想世界の開発に置いて、五感を再現するだけでも湯水のごとく金を使うらしい。視覚、触覚は仮想世界の大本を作った人間がデータを一般公開したから、改良等をしなければほぼ無料だとしても、それ以外は他の会社から買うか自分達で作り出すしかないわけである。
その点、ゲームならば、目に見える数値として出せばいい訳である。ダメージを喰らえばHPを減らし、魔法を使えばMPを減らし、走ればSTのポイントを減らせば良い訳である。痛覚とか、疲労とか、そう言う物はポイしちゃえばいいわけである。
それをわざわざ……まあ、今さらか。俺が初めてこの草原に立った時、草の匂いがしたことに驚いたのは、仮想世界で再現する五感の中で一番あと回しにされる……もしくは再現をバッサリ諦める嗅覚があったからなのだから。
「まあ、痛みに関しては日本の法律では二分の一の再現度しか許されていないので、自分がどの程度で死にそうなのかは何度も死にそうになるまでダメージを喰らって、この世界の痛みと怪我の具合などとあわせて判断してくださいね」
「むしろそこは、怪我なんてしないでくださいの方が好感度は上がると思いますよ」
良い笑顔にウインクまでかましておきながら『死にそうになるまで殴られろ♪』と言っているのと変わらないコラムダさんの発言に、疲れ切った顔で一応反撃っぽい発言をしておく。
ちなみに、痛覚を四分の一にした時点で骨折をしてもほとんど痛みを感じないレベルになる。二分の一と言うのは仮想世界の中でも過保護な日本らしいレベルと言うわけである。
さらなるちなみに、アメリカではR18指定だが、痛覚の完全再現もしているらしい……が、死亡する様な痛みにはセーフティーが働くようになっているから『完全』じゃないと不満を漏らす人もいるようだ。都市伝説レベルだが、死の痛みを完全再現したら現実の肉体も死んだとか言う噂も一時期ネットに流れていたものだが、その噂が真実なためか、単に世論が許さないために、死ぬようなダメージにセーフティーがあるのかは、一大学生の俺には判断ができない。
「ちなみに、今なら、私が一撃で死ぬようなダメージの痛みから、十発喰らったら死ぬ程度の痛みまで、もれなく無料でプレゼントして差し上げますがどうし――」
「実戦で覚えますから結構です!!」
「……そうですか……残念」
彼女の手元にいきなり現れたトゲトゲが痛々しいモーニングスターを見て、反射的に断っていた俺を誰が責められるだろうか? つーか、そこの女神っぽいAI、本当に見た目が女神なだけだな、おい。
「こほん。後は力とか速さとかのステータスも隠しステータスになっていますが、これは直ぐに感覚的に違いを実感できると思いますよ。徐々に強くなっていくうちにどれほど成長したのかわからない……と言うのは現実世界の身体と言うほとんど変わることのない基準点があるので起こらないことだと思われます」
モーニングスターをブンブン回した後、はるかかなたに投げ飛ばし、何事も無かったかのように説明を再開するコラムダさん、マジぱねえっす。
「さて、それでは……」
彼女が真剣な顔になり、
「いよいよ、モンスターとの戦いにうつってもらいます!」
宣言したことによって現れたのは、定番も定番。
俺の前にぽんっと言うお手軽な効果音と共に現れたのは、スライムであった。
デフォルメした可愛げのあるスライムではなく、赤い色のドロドロしたゲル状の液体がさらに深紅の球体にへばり付いているリアルよりのスライムだった。俺のひざより上くらいの大きさがある。少なくとも普通の感性で、こいつを可愛いと言うのは無理があるだろう。
「さて、セイチ様、こちらのなかから――」
俺はいかにも弱点ですよーと言ってそうな深紅の球体……スライムのコアを踏み抜いていた。
グシャ――と言う音と共に、ゲル状の液体がサラサラの液体に変わっていき……そして全体が光の粒子になって風の中へ消えて行った。
「って! 何してるんですか!?」
「ええ!? いや、いかにも踏んづけてくれって身長差だったから、普段姉から教わっている通りに踏みつけただけなんですが――」
姉神二号曰く、人間の足の力は腕の力の三倍。そして、その力を効率的かつ素人でも最大限に活用できるのが踏みつけ――だとか。
子供の頃、男は強くなくちゃいけないと姉にケンカの勝ち方として半ば強制的に教えられたのが、転ばせて踏み付ける……もしくは、初手で相手の足の指を踏み砕く、とかだった。
まあ、それを現実で披露することなど無かったわけだが。地元で噂の最強無敵姉妹の弟の俺にケンカを売る様な豪傑は存在しなかったからである。
「いやあ、確かに踏みつけて倒すって言うのもありと言えばありなんですが……せめて選んだ武器を装備してからにしてくださいよ」
「ああっ、すいませんっ!」
見れば彼女の目の前に空中に浮かんだ様々な武器があった。短剣、剣、槍、斧、弓矢、杖。
「まあ、いいんですけどぉ……説明を再開させていただきますと、これらが最初に手に入れられる基本的な六つの装備になっております。無論、これら以外にも多種多様なカテゴリーの武器がございますから楽しみにしてくださいませ」
「武器……そうか、武器か」
ロボにばっかり目がいってたから、剣と魔法の世界と言うことをすっかり忘れていたわけである。そりゃあ、少なくとも剣とかそういう装備はあるわけで。
「本来なら選んでもらった武器でスライムを倒してもらって、その後に勝利のお祝いに選んだ武器をプレゼント……という流れだったわけですが……」
「あ……それは、すいません」
「いいですよー……ロボオンが素手でモンスターを倒せる自由度の高いVRMMOと理解していただければー」
口調が完全に拗ねてらっしゃる。草原に座り込んでのの字を書いている身体の方も拗ねてらっしゃる。このままでは「残念! これ三人用なんだ―」が口癖の小学生になってしまう……!
「スネ――もとい、コラムダさん! さあ、頑張ってチュートリアルクエストを進めましょう! 頑張ってGMになるんでしょう?」
「GMはGMでも、連邦軍の量産機ってオチになりそうですけどねー……あっはっはっはっは」
「うわーい! 戻っておいで―! コラムダさん、カムバーック!」
俺は突発的に始まった高難易度ミッション『コラムダさんをたち直せろ!』にたった一人で挑むことになった……早くロボに乗りたいぜぇ……
なるべく連日でお送りできるように文章を短めに出しているわけなのですが……題名を考えるのが厳しくなってきた今日この頃。
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