第60話 人を見かけで判断しちゃいけない
イエロー・ビッグスライムのカードとイエロースライムのカードが持てきれなくなりそうだったので、一度マイルームに帰ってアイテムBOXに置いて戻ってきて……ちょうど朝になった。
はあー……他のフィールドもそうだったけど、綺麗と言うかこっていると言うか……朝露に濡れている感じとか良いなぁ……
草原の爽やかさと広大さ、湿地帯の清涼さとジメジメさ、荒野の寂しさと荒々しさ、森の空気や幻想さ……
――うん、まあ、どこにもスライムやモンスターが出てくるので色々ブチ壊し何だが。風景だけでも楽しめてどこまでもいけそうな世界と言うのは正直凄いと思う。
さてさて。夜だったので、地のコア集めを優先していたが、俺の目的は伐採――木工用の素材集めにある。
ハイ・ゴーレム用のつるはしを造るのには、木工スキルと鍛冶スキルが必要なのだ。と言うことは……ええ、人間用のつるはしも未だ初心者のつるはしを使っています。鍛冶のハンマーとかは鉄の素材だけでどうにかなったからなぁ……
まあ、良い機会だと思うことにしよう。どんなスキルだろうと何かしらのステータスアップはするみたいだから損なこともないし。究極のキャラを造るなら、全てのスキルをlvMAXまで上げなくちゃならないわけだ……って、無理だよな。
伐採の木こり用の斧も木工と鍛冶スキルが必要っぽい。斧使うんだから、戦闘用の斧のスキルlvもあがらないかなー……と言う疑問は抱かないのが吉だろう。
「まあ、木材だけを集めるならそこら辺に居る『ウッド・ゴーレム』を倒せばいいんだろうけど」
全長二メートルほどの木材で造られたゴーレム……夜にあった時に倒して、先ほどマイルームで解体して見たら、ウッド・ゴーレムの木材を落とした。
――よくよく考えてみたら、それぞれの素材には二種類の獲得方法が用意されているみたいだ。糸はここら辺の木から採取できる糸の実のカードを解体して手に入れる方法と野良クモを倒す方法……とか。
パイロットと生産者どちらもが行き詰ったりしない措置なんだろう。まあ、命の危機がある分、モンスターの方が同じlv帯だとしたら若干良い素材が出るみたいだな。
まあ、伐採してその木材を使って木工をすると、伐採スキルと木工スキル両方上げられるからステータス的にはこっちの方がお得だ。
「じゃ、木こり開始だ」
「わかりました! ゲッ○ー……」
「アイリス君、アイリス君。伐採の斧は投げずに使う物なんだよ?」
「え!?」
トマホークと言えばブーメラン……恐ろしい娘に育ちつつあるなぁ……
そこら辺の木の粒子に向かって斧を振るうとカードが出てくる。やっぱり木が倒れてカード化……と言うのは無いらしい。まあ、俺だけでここら辺の木を全部倒しちゃうことができたら俺以外のプレイヤーが困るしな。
採掘の時の様に、他のスキルでステータスがずいぶんと底上げされているから、スタミナが尽きることもなく次々にカードを集めた。
『地の木材。ランクD。地属性』でアルバム、BOXともに満タンになったので一度帰ろうとした――そんな時である。
「「おおー……!」」
頭のアイリスと全く同じに感嘆の声を上げてしまったのは。
ウッド・ゴーレム。ゴーレム=泥人形の泥の部分を木材に変えた、一見軽そうなゴーレムである。だが、それは俺たちが現実の世界で軽くて丈夫な木材しか触ったことのない素人さんだからの間違った認識なのであって、木材は重くて堅い木材もある。
――竹刀感覚で修学旅行の土産物屋で木刀を手に取った時の驚きを思い出してほしい。人の頭をかち割れる重さと堅さに驚いた人も多いんじゃなかろうか?
ウッド・ゴーレムはその硬くて重い材質らしく、ブオンと重く空気を薙ぐ音を持って俺たちにその重さを伝えていた。
その攻撃をふわりと、まるで軽やかに舞うようにして避けている。相手の攻撃の予備動作をしっかりと見て、その攻撃が描くであろう軌跡を見切っているからこそ、あのゆっくりに見える動作で避け切っているのだ。無茶苦茶すげえ。
うちの姉神達の集中力や反射神経を活かして、紙一重でかわしてカウンターを叩き込んでくる凄さとはまた違った凄さがある。見せると言うより魅せる感じだ。
――これでヒラヒラ衣装を着ていれば完璧だったのだが、来ているのはジャージにスポーツサンダル……まさかの初心者装備である。
それでも。百七十半ばの俺の身長と同じくらいの長身と、スラリとした体型を持つ女性の動きには、そんな野暮ったい衣装を帳消しにする美しさがあった。
「……うーん。回避スキルを上げているのかな?」
スライムは次の攻撃までが遅いから向いていない。野良ウルフは速いから避けづらく向いていない。野良クモは糸攻撃が速いのと、体当たりと言う避けづらいものなので向いていない。荒野のリザードマンは以外と多彩な槍さばきが避けづらいため向いていない。
そう思うと一撃の重さこそ、今まで上げたどのモンスターよりも重そうなウッド・ゴーレムは回避スキル上げに最適かもしれない。
「それにしても武器の一つも持っていないのはおかしいのでは?」
「いやいや、舞うようにして避けるタイプは二刀流かそれとも素手じゃないと見栄えが悪いし」
「フラフープやリボンと言うのはどうでしょう?」
「その武器はバーサーカー化するからやめなさい……」
そんなことを思っていると小さな白虎が近づいてきた。ネコより大きいが、脅威を感じない絶妙な大きさのそれを抱きかかえる。
「ミャー! ミャー!」
あ、虎らしくガォオオでは無いのか。
俺はその必死さだけは伝わるチビ白虎の鳴き声を翻訳しようとする。
「え? 我が名は最強白虎――」
「マスター違います。そんな、ジャベリンやらヌンチャクを使いそうな名乗りを上げているわけじゃありません。どうやら、自分のマスターを助けてほしいようです」
「あ、やっぱり?」
でも攻撃こそ返せないものの、当たる可能性が皆無そうに見えるプレイヤースキルを見ると……って!?
「まさか、そろそろスタミナ尽きそうなのか!?」
チビ白虎はコクコクうなずく。マスターのスタミナを完全に把握しているのは、マスター自身では無く、精霊AIの方である。
急にがくりと力尽きた女性。俺とアイリスは、遠距離からウッド・ゴーレムに魔法を当てて牽制しつつ、急いで駆け付けた。
他のフィールドの近場の敵なら相手にならない強さは、無論のこと最後のフィールドであった地の森でも適応されるので素早く処理することができた。
「あらあら……大変助かりました」
手をお腹のあたりで組んで、優雅にお辞儀する女性……うっわー……綺麗な女性と言うより高貴なお人と言う感じがとてつもなくやばい感じがする。もちろん相手が危険と言う意味じゃなく、普通に対応しただけでこっちが無礼になってしまいそうな意味合いでだ。
金髪……いや、黄金の髪をポニーテールにして知的そうなメガネをしている、大人な女性。メガネの奥にある瞳は、ルビーの様だった。日本人離れした美貌――日本人の特徴もある所からハーフさんなんだろうか?
その女性の身体をトントン昇って手のひらサイズになったチビ白虎は。定位置らしい彼女の肩に寝そべる。、
「あ、シロコさんがこの方たちを呼んできてくれたの?」
「ミャー」
「どうもありがとう」
ゆっくりとその毛並みを撫でる姿も上品……くそぅ! なんか親として負けている気がしてくる! そんな勝負誰もしちゃあいないんだけど!
そんな彼女は、はふぅーとため息をつくと、
「ダメですね……家出できるように自立した生活をVRMMOの世界で覚えようと思ったのですが……初めから人に助けてもらうなんて」
……あれぇ? なんか大人な女性から聞き捨てならない単語が出たような。
「あのぉ、家出って……余計なお世話かもしれないですけど、ご家族の方――ご主人から暴力を振るわれていたり?」
女性は俺の言葉に、可愛らしく唇を尖らせ、
「……私の年齢じゃあ、結婚は出来ないんですよ?」
「え?」
その年齢で結婚するかどうかは別として、日本の女性が結婚できる年齢は基本十六歳からである。
……え? 身長百七十以上で? 動作が高貴で? 大人な対応を出来るこの人……いやこの娘は……
「私、十四歳の中学二年生です。名前を東方院 桜子と申します」
せーのっ、
「えええええええええええええええええええええええええええええ!?」
まさかの六歳年下発言に、俺は心の底からの絶叫を上げていた。鎧の鉄蜘蛛にいきなり襲われたあの時より、心臓が跳ね上がったりした……
別名「ため息」の少女登場ですね。あと二人の「熱血バカ」とヤバ気に笑うというか「ヤバい少女」の登場は……もう少しのはず?
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それでは次回で。




