第53話 ハイ・ゴーレム作製!
「全然――」
「ビッグじゃないです!!」
「「二重技! デュアル・ハイ・スラッシュ!!」」
火属性のフィールド――夜の火の荒野で、お約束の口笛を吹きつつチュートリアルエリアでお世話になったレッド・スライムや、荒野のリザードマンを相手にした後、俺たちはそいつを見つけて一瞬で葬り去った。
――うん。リザードマンの方がやりづらかったくらいだ。リザード……つまりは人型のトカゲだ。人間じゃないし、凶悪な面構えだが……それでも人型の奴に剣を向けると言うのは最初は抵抗があったが、光となって消えたのを一回見ればもうゲーム感覚で倒せるようになった。
俺とアイリスの合体協力技(?)で見事に消え去ったビッグ・スライムから、『レッド・ビッグ・スライム。ランクC。火属性』のカードが五枚出た。
ランク・Cか……運か、精霊AIにデータをインストールしたかは知らないが、提示版ではランク・Bの報告もあったことだし、ちょっと粘ってみようかな。
「しかし……元のスライムよりは確かにビックだけど、俺の身長以下って……」
「ビッグと名がつくならせめて、ショータイム! くらいの大きさがほしいものですよね? マスター」
「うん……生き残れる気がしないのでネゴシエイターには登場しないでほしいな」
奴の交渉術は危険すぎるよ……まあ、それはともかく。
ステルス・アタック。装備の強さ。威力1.3倍、消費スタミナ0.7倍の二重技が組み合わさると、ユニーク・モンスターの中でも奴は最弱の存在……と呼ばれるビック・スライムはあっさりと沈んだ。
二枚ほどアイリスにインストールして、『レッド・ビッグ・スライム』を探しながら敵を蹴散らして色々カードを集めて行く。
火の荒野には、鉱石関係のアイテムが多いようだ。他にもサボテン等もあるようだ。
あまりカードを集めるとビッグスライムのカードが入る隙間が無いので、ビッグスライムとの直線距離に居ない敵や素材は放っておく。
――そう言えば、初日に目指していたサーチ&デストロイが出来るようになっているな……と思いつつ、俺はビッグ・スライムを狩って行った。
夜の間の二時間、ビッグ・スライムを狩って、途中アルバム、BOX共にまんぱんになったので、一度マイルームに戻って空にし、さらに狩って夜が明けた。
「……こうもたくさん出ると、今までの苦労は何だったのかって思うよなー……」
「いいえ。マスターが成長されたから証ですこれは。私は嬉しいです」
「…………」
もう撫でてやるしか選択肢は残されていない……俺は可愛い事を言ったアイリスの頭を優しく丁寧に撫で続ける。
そんなわけで、カードをいっぺんに解体して、出てきた火のコアの数に俺は今までの苦労を嘆きつつ、アイリスは大人な意見を言った――ところで、さあ、どうするかと言う話である。
目当ての『レッド・ビッグ・スライムの体液・ランクBとC』そして『火のコア・ランクC』が手に入ったのである。
アイリスに確認すると、ハイ・ゴーレム『デュラハン』の作成数には達しているとのこと。もちろん、裁縫も既にlv40越えをしている。
でもなー……鉄蜘蛛の素材を使って装備を造った時、鍛冶のレベルが結構上がりやすくなったんだよなー……やっぱり素材レベルの高いものを使って生産すれば、上がりやすくなるのはお約束だよなー……スライムの素材や鉄の素材じゃ、もうほとんどスキル経験値はいらないし。
――いや、ここら辺で妥協しよう。これから鉄蜘蛛狩って、ビッグ・スライム狩って、鍛冶、彫金、裁縫、錬金のレベルを上げるのはもう勘弁。やるとしても、ハイ・ゴーレムに乗ってからにしたい。
それに、ビッグ・スライムを一撃で倒せ、そしてカードからは高確率でコアが出るとわかったのは良かった。これで部屋の施設も色々作ることができそうだ。
「――うん。それじゃあ、行こうか。アイリス! いよいよ、ハイ・ゴーレム作成開始だ!!」
「はい、マスター!」
「……移動! 『ハイ・ゴーレム・ハンガー』!」
マイルームの地下室へと俺たちはワープした。
……本当はここの存在に気づいてからは直ぐに行きたかった。けど我慢していた。一度でも来てしまったらテンションがMAXになってしまい、失敗作でも良いから造ってそこに立っている姿を見たいと思ってしまうだろうから……
「おお……おおー……!」
「ハンガー……です……!」
俺はもちろんのこと立派なロボオタになったアイリスも感動しているようだ。
さすがに五メートル前後のハイ・ゴーレムのハンガーだから、そこまでの大きさは無い。天上からは白いライト。ここだけファンタジーのロボオン世界とは切り離された空間の様な空気がある。
ゴーレムが置かれるであろう場所は五つほどあって、それぞれ二メートルくらいの所に梯子か階段で上れる通路がある。あそこがコクピットに乗り移る搭乗口……
「それではマスター。ハンガーの中へ」
「え? ああ、うん!」
いつの間にか俺の頭の受けから飛んでいたアイリスに呼びかけられ、俺は急いでアリスの元へ走りよる。
ハイ・ゴーレムが置かれる場所へ立つと、目の前にウインドウ……ハイ・ゴーレム作成メニューが出た。
「これからハイ・ゴーレム作成の説明をさせていただきます」
「うん、よろしく頼むよ」
「はい! こほん……ハイ・ゴーレムのパーツはそれぞれの一部分だけをマスターに造っていただき、その製造データをコピーしてそのパーツの製作ランクを落とさずにそれぞれのパーツをこのハンガー内で造ります」
ふむ……まあさすがに、ハンマー一つでフレームや装甲全てを造るとなると、現実じゃないとはいえ無茶があり過ぎる。
――でもそれって……
「もしかして、フレームの作成で俺が失敗すると、フレーム全体もその失敗の製作データで造られて……」
「はい……」
み、ミスれねぇ……何と言う一発勝負。久しく忘れていた受験のプレッシャーが襲ってきたぞ…
「大丈夫です! 私のマスターは失敗なんてしません!」
あ……そのセリフは……
「おいおい、アイリス。今でも本当にそう思ってる?」
「……ごめんなさい。でも、私のマスターは肝心なところではきっとやり遂げてくれる頼もしいマスターです!」
すまん、コラムダさん。あなたが見せたアニメはこの子にすげえ良い影響を与えたようだ。少なくとも、俺だけの影響ではこうもいい子に育つことはありえまい。
「じゃあ、しょうがない。やり遂げて見せるさ!!」
俺はあの鉄蜘蛛との初戦の時に出たような集中力が胸の内から生まれるような心強い何かを感じながら、製作に入った。
カン、カン、カン、カン!
第0世代型には属性付与は出来ないらしく、白い光しか無い。俺はその中から瞬時に力強い光を放つ光を選別し、そこへ力強くハンマーを落とす。いつも鍛冶で使っているハンマーだ。クモのマークが入っている……糸より外殻が余ったのでそのあまりで造ったハンマーだ。彫金用のトンカチや鋸、針も鉄蜘蛛制だ。
今現在の最高の生産用アイテムで、製造していく。
ハンマーで、フレーム、装甲を造り、コクピットの製作に入る。椅子の形に変わって行くと途中で、ハンマーが消えて針が現れた。チクチク針で塗って行くと座り心地のいいコクピットシートが出来た。
針の感触を忘れないように人工筋肉を選んだ。既に現実でも針仕事ができるんじゃないか? と言うくらい手はスムーズに力強い光へ針を進めて行く。
お次は関節だ。コン、コン、コン! とトンカチで鋸の後ろを叩いて、白い光を貫いて行くと綺麗なギアが出来た。
そして、魔力供給液。かつてないほどの速度でフラスコを白い光に合わせて振って行く。残念なことにフラスコだけは自作出来ない……どうやらガラス系のアイテムが必要だったようで、仕方なく店売りの最高の『青魔ガラスのフラスコ。ランクC』を使っている。ゆえにここは他のところ以上に全力全開でやって、道具の差を埋める! いや、実はこれが一番いい生産アイテムと言う可能性も無きにしも非ずなんだけど。
もちろん、アイリスも必死で自分が狙える白い光を狙ってすべての作業を終えてくれた。お互い集中し、一言の声も交わさず……けれど時折、視線だけで自分達の会心の出来を伝え合っていた。
そして――そして――
「完成……か」
「はい!」
出来た。完成してしまった。俺のロボオン内での目的。
一人でロボットを造る……いや、それは元より不可能な目的だったな。
この小さな相棒がいなければ、ここまでの物は出来なかったのだから。
戦闘ヘリの前面部の様な胴体。頭は無し。腕と脚はチュートリアルで見たものと違って、頑強な装甲に覆われている。
第0世代型――試作型ハイ・ゴーレム『デュラハン』の完成であった。
「それでは、マスター……この子に命の火を入れてください」
「おっと……これは火のコアだな」
「はい。メニューコマンドで入れてしまってもいいのですけど……」
「うん、ありがとな、アイリス。こっちの方が雰囲気ある」
手のひらサイズになったアイリスを頭の上に乗せ、バスケットボールサイズのコアをわきに抱え、俺は階段を上ってデュラハンの搭乗口へ――
すると、コクピットハッチが開いて乗りやすいようにこちらへハンガーが動いてくる。
俺は乗り込むとコラムダさんに教わった通りに、シートの後ろ側を見る。ちょうどおける場所が……よしっ!
「おっ!?」
オレンジ色の光が光り輝く……! そう、この瞬間完全に俺たちのデュラハンは完成したのだ!
俺がなぜレッド・ビッグ・スライムを狙ったのかと言えば、火のコアをここに入れたかったからなのだ。
最初に手に入れたコアは、魔法を覚えるのに使ってしまった……だからこそ、初志貫徹と言うわけでもないが、どのコアだろうと同じランクの物しか手に入らないのであれば、火のコアにしたかった。こだわりがあったのだ。
シートに座ると、勝手にハッチが――ああ、コラムダさんがやってくれた様に今はアイリスがやってくれているのか。ハイ・ゴーレムの頭脳――制御コンピューターなどの複雑な部分は全て精霊AIがやってくれるのだ。
「マスターこちらを」
アイリスがウインドウを持ちながら俺の目の前に降りてくる。そこには『第一ハンガー。デュラハン。整備項目』とあった。
えーと色を塗ったりできるのか……コクピットの内装――あ、0世代型はダメらしい。
「操縦法の変更も不可か……やっぱり試作型なんだなー」
「色々できるようになるのは第一世代型からの様です」
「うーん。でもチュートリアルエリアで動かした感じでは不満は無いし」
最後に一番大事な、こいつのステータスを見る。Fは無いだろ? いやEも……Dまでいけぇえええええええええええ!!
「お……おお!」
『筋力。ランクC』
『耐久。ランクC』
『瞬発力。ランクD+』
『俊敏。ランクD+』
『反応。ランクC』
『器用さ。ランクC』
『居住性。ランクC』
『魔力。ランクD』
『消費魔力。ランクD+』
「初めてにしては高スペックじゃないか!?」
「はいっ! Cランク以外のところは、コアが関わる所が多いようですね」
「うーん……まあ、コアは仕方ないさ。それにDランクだって十分さ!」
少なくともコけてばっかの人達が造った全てがFランクの物よりF、F+、E、E+、Dとこれだけの差があるのだ。実戦にたえうるものの……はず。
静かな興奮に包まれた俺たちは、早速フィールドに出ようとし、
『新しいタレントを獲得しました』
……久々の天の声に動きを止めた。
三か月近く経ってようやくタイトル詐欺から抜け出せました。よし、最終回で良いんじゃないでしょうか!? ダメだとガイアが……と言うよりコラムダさんがささやくので無理か……
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それでは次回で。




