第52話 ハイ・ゴーレム作製計画 後編
――グリーン・スライム五体と野良ウルフ五体によるセイチフルぼっこ事件は二時間ほどで終わった。アイリスにはその間、剣スキルを少しでも上げてもらうため、他のモンスターを狩ってもらっていた。
……この時思ったことは、人間って捨てたもんじゃないってことだ。
結構な人が助けてくれようとしたのだ。スキルlvを上げていると言ったらびっくりして下がってくれたけど。中には俺の邪魔をしないようにロボオンのことを聞いてくる人もいて、暇つぶしになった。
しかし、二時間……うん、結構かかったな。襲い来る野良ウルフが結構迫力で、退屈はあまりしなかったけど。
盾スキルが問題だった。防御スキルは、防具を装備して、スタミナを消費する行動、ダメージを受ける……様々な行動でレベルが上がって行くが、盾スキルは盾で防御したり、攻撃しないとダメだし。
十体による全方位遠近両距離による攻撃を全て盾で防ぐと言うのはさすがに不可能だったので、防御スキルが34を超える頃になってようやく盾スキルは27になった。
その間に行った修復は全ての個所を修復するのを一回と計算すると、五回ほど行うはめになった。その時は一度、俺をターゲッティングしている敵を一度せん滅しなければならなかったので、その度にモンスターを集めてくる手間も大変と言えば大変だった。
それから装備をいつも通りの軽装タイプに変えて、近場のモンスターを次々に切り捨てていき……ようやく装備を全て鉄蜘蛛シリーズに変えることができた。
そして俺たちはここに帰って来た……俺は少し恥ずかしげに、アイリスは少し嬉しそうに。
そう、キノコの森へ……
なんてもったいぶってもしょうがない。武器の威力を確かめるために、野良クモの背後へ歩いて近づき、鈍く輝く鉄蜘蛛の剣で斬り付ける!
よし! 一撃!
スキルlvが上がったのと武器の威力――昼間の野良クモはアイリスの攻撃七回で倒せていたのが、今では一撃である。
まあ、これにはちょっとしたタネがある。さすがに七倍の威力になったと言うわけではない。
『鉄蜘蛛シリーズ装備特性。ステルス性能(小)』と言う能力が付いていた。これはあの鎧の鉄蜘蛛のステルス能力が装備特性としてついたのだろう。
ロボオンにはステルススキルと言うのがあるらしい。相手に気づかれず、数体のモンスターを倒したり攻撃すれば手に入り、その後もステルス・キル、ステルス・アタックをやれば上がって行くものらしい。
ステルス・アタックによるクリティカルの威力は、ダメイド――コラムダさんの時に俺も体感している。
――じゃあ、なぜ上げないのかって? 一つは、敵意に反応するスライム、音と匂いで反応する感知能力が高い野良ウルフを良く相手にしていたせいもあるが――前に言ったように一撃で倒すと攻撃系スキルが上がりづらい――気がしたからだ。
まあ、全てをまんべんなく上げると言うのは無理だしな。ステルスも戦闘系なので、生産者の俺には上げづらいし。
だが、今回。あまり感知能力の高くないクモ相手になら、この装備特性でステルス・キルが出来たと言うのは僥倖だ。あの鉄蜘蛛に聞くかどうかは試さないとダメだろうが……
そんなことを思っているうちに、夜が来た。
ゴクンとつばを飲み込む。
――よし。今では夜の野良クモ達が出す煙の色は白! 格下だ。
そして――黄色い煙が近くに一つ、遠くに一つ、さらに遠くに一つある。
この森であの鉄蜘蛛は三体出現できるらしい。さすがにロボオンスタッフも、間違っても二体同時に相手にならないようにそれぞれ遠くに配置されているが……
しかし、運が良かった。アイリスにインストールしたカードで約半分くらいあいつのステルス機能を無効化出来たらしい。半分くらいしか無効化していないのに、はっきりと相手の位置などがわかるのは、生産で上げた全属性のサーチ機能のおかげだろう。
「アイリス……覚悟はいいか?」
「イエス! ユアハイネス!」
「ちょっと待てい。それには突っ込みを入れさせてもらおう!」
――ぷっ。どちらかともなく噴き出して、俺たちは笑った。良い感じで力が抜けた俺たちはまず近場の鉄蜘蛛へ駆け出した。
黄色――同格まで上ってきたぞ、このヤロ―……!
さすがに元祖(?)ステルス性能をもつ相手に、ステルススキルを少し前に一にした俺の能力に、ステルス性能(小)の装備を足しただけじゃ通じなかった。
まあ、それは良い。前回の様な不意打ちはされなかったし、遠距離攻撃を喰らう前に近付けた。
口には身長の低いアイリスが、俺は脚の関節などを切り付ける方針だ。今回は前回の様に甘くも見ないし、油断も隙も見せない。
戦闘は――以前より楽に進んだ。弱点への攻撃に全てを賭けるしか無かった前回と比べて、俺たちの武器は奴の鎧にダメージを与えられたのだ。まあ、関節と言う隙間以外へは斬撃と言うよりは衝撃しか伝わらなかったけど。
それで相手への怯みも発生し、優位に立ち続け――見事倒した。
楽とは言わない。だが、盾と剣は最後まで砕けることなく俺の両手にあり続け、俺の防具たちは俺のHPを半分以下にはさせなかった。
「――よしっ! やったな、アイリス!」
「はい!」
ハイ・タッチを交わして、俺たちは笑顔を見せ合う。現れた五枚のカードを回収し、その場で武器防具の修復を済ませ、ポーションを一気飲みにし――
「夜が終わるまで狩り続けようか」
「はい。コン○コンの気持ちを味あわせて差し上げます!」
――誰に? ロボオンスタッフだろうか? どちらかと言うと、ロボオンスタッフにとってもアイリスは娘みたいなもんだし逆に喜ぶんじゃないかな―……と思いつつ、俺たちは鎧の鉄蜘蛛を狩り続けた。
――二日後。何度も夜のキノコの森に出かけて、装甲、フレーム、人工筋肉、コクピットの材料を集めた俺たちは、最後の素材集めに出かけた。
コアと魔力供給液の素材――
本来なら、プレイヤーが一番初めに会うユニーク・モンスターとして設定されていたであろうモンスター……夜にスライムが出る場所になら普通に見かける『ビッグ・スライム』だ。
次回。ハイ・ゴーレム作製!
え? ビッグ・スライムとの戦闘? 数行で終わらせます! 正直、鎧の鉄蜘蛛と比べたら数段劣る相手ですから。セイチは廃人プレイこそしていませんが、ロボオン内屈指のプレイ時間を持つ男です。生産者であの戦闘スキルのlvは実は異常なのです。
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それでは次回で。……ようやくタイトル詐欺から脱出かな?




